前回は、SAPの導入コンサルタントのポイントについて、実際のコンサルタントを例にまとめてみました。今回は、さらにNTTデータGSLにおけるプロジェクトで多く手掛けているグローバルプロジェクトの視点でまとめてみたいと思います。ビジネス上で普段海外とのかかわりが少ない方はイメージしにくいかもしれませんが、日本国内でのERP導入プロジェクトと、海外でのプロジェクトではどのような違いがあるのか、そしてそれがコンサルタントにとってどのような影響を与えるのかをまとめてみたいと思います。
日本の特殊性
日本企業の海外展開を支援するという立場で日本市場を見直すと、やはりその特殊性というのは否定できません。言語や文化のユニークさとその市場規模によって、参入障壁が高く、独自の進化を遂げて守られ続けていました。これに対し、他の国におけるビジネスにおいては国家間の障壁が小さく、単一市場化が進んでいた印象でした。しかし、2020年に発生した新型コロナウイルスの影響は、各国の政策や文化の違いを浮き彫りにし、これまで当たり前のように進んでいたボーダーレス化の流れを逆回転させたようにも見えます。
しかし、日本企業にとって海外展開を必要とさせる理由の一つである少子高齢化や国内市場の縮小は新型コロナによって変わるものではありません。これまで以上に国境を意識した形での新しいグローバル化が必要になることを意味するでしょう。
日本企業の海外進出
海外展開を進める日本企業にとって課題になることが大きく二つあると感じています。一つはやはり国民性の違いです。プロジェクト推進の観点では、仕事の進め方や取り組み方、また優先順位のつけ方一つとってもかなり異なるため、日本流のやり方をそのまま持ち込むとうまくいかないことも多いです。例えば、日本では当日に予定されたタスクは残業しても完了させようとしますが、ある国では予定されたタスクが進捗に関係なく定時に業務を終了するのが常識でした。
そしてもう一つが物理的な距離です。単純な距離だけではなく、時差なども加わり、現地の状況の把握や共有が難しくなります。また、意思決定のスピードや方法、たとえば日本はコンセンサスベースで決定してゆくのに対し、海外はトップダウンで決定されることが多いということも認識しておく必要があります。
そこであるプロジェクトで取った方法が、現地の担当といっしょになってプロジェクト計画書を作成し、お互いに腹落ちをした上で進めるということでした。しかし、共通のプロジェクト計画書の中にはプロジェクト方針があり、そこではやはり国や地域の特性が出てきます。そこで、一定の裁量権も与えながらモニタリングをするという形にしました。やはりグローバルプロジェクトにおいては、お互いの「違い」を認識しながらも共通にするところと裁量を与えるところを線引きしながらコミュニケーションをとるということが一つの落としどころだと考えています。
NTTデータGSLでのグローバルプロジェクトの進め方
海外展開のプロジェクト支援というと、外資系のグローバルなコンサルティングファームのサービスを思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、上記のプロジェクトの特性を踏まえると、そのサービスが必ずしも最適であるとは限りません。
もっとも大きな違いは、NTTデータGSLにおいては、海外拠点におけるプロジェクトにおいても自分たちが責任をもってお客様とともにプロジェクトを進めてゆくのに対し、グローバルなコンサルティングファームでは各国に拠点があるため、現地で対応することが多いと聞いています。そうなると、コミュニケーションがその拠点の国や地域で完結してしまい、本社である日本から見えにくくなったり、統制が取れなくなるケースも出てくるのではないかと思います。
しかし同時に、私たちが直接海外拠点の展開にも携わるということは、相手から見るとお客様の担当として認識されます。そのため、コミュニケーション上も日本側の代表としてふるまうことが求められます。そこは大変なポイントでもありますが、同時に私たちの価値でもあると信じています。
最適解はない
複数の拠点に対してシステムを展開する際に、最適化を目指すために「標準化」というキーワードがよく使用されます。グローバルなコンサルティングファームでは標準となるテンプレートが用意され、それを方法論に基づいて展開してゆきます。また、一方で一般的なシステムインテグレータでは、お客様の要件をすべて実現しようと試みます。結果として、コンサルティングファームではそれぞれの事情を考慮していない標準によって業務が円滑に回らなかったりビジネスに影響が出ることがある一方、システムインテグレータではお客様の要件をすべて受け入れることで統制が取れず、お客様が企業としてのシナジーを発揮できない状況に陥ることもあります。
標準化というのは会社の特性に合わせて、標準となる要件と標準とならない要件を決めることであり、要件のすべてを標準とすることではありません。なので、なにが正しいのかというと、教科書的な最適解というのは存在しないというのが一つの答えなのではないかと思っています。ERPを中心とした基幹システムの導入は、単にシステムのパラメータを決めること以上のことがあるのです。
そのためには、つねにゴールを忘れずに、部門の壁を越えながらお客様とともに進んでゆくとともに、最後まで見届けるという覚悟が重要なのではないかと思います。現場の要求はお客様の中でも時として部門ごとに対立したり、矛盾を生じたりします。それをすべて聞いていてはプロジェクトをゴールにたどり着かせることはできません。そのことをつねに心に留めておきながら向き合っているつもりです。
背中を見せてゆく
ここにまとめた内容だけを見ると、本当に大変なことばかりのように見えるかもしれません。しかし、それを続けていられるのにも理由があります。それはやはりお客様の喜びです。
当初のゴールを達成するとともに、感謝を伝えられることも多くあります。そこには単に仕事としてもらえる報酬以上に得るものがあります。
人生100年時代と言われるように、今後キャリアはますます長くなってゆくとともに、より一層先の見えない不確実な社会になってゆくのではないでしょうか。その時代を生き抜くためにも、本質的な価値を身につけてゆくとともに、自分の背中がメンバーの将来にもプラスの影響を与えてゆけるようにしたいと考えています。
前回、および今回でSAPの導入コンサルタントが実際のプロジェクトを通じて得たこと、考えることの一端をお伝えできれば幸いです。
次回はSAPの運用コンサルタントにスポットを当ててみたいと思います。
著者プロフィール
𡌶俊介(はが しゅんすけ)大学卒業後、1994年、日系の監査法人系コンサルティング会社に入社。SEとして会計システム構築および社内システムの構築を担当。
2001年、日本マイクロソフト(現)に入社、主に製造業向けプリセールスや製品マーケティングを約10年にわたり担当。
2010年、デスクトップ仮想化やアプリケーション仮想化ソリューションを提供している最大手のシトリックス・システムズ・ジャパンに入社、約7年間にわたり、アライアンスやマーケティングを担当。
2018年より、NTTデータグローバルソリューションズに入社し、事業戦略推進部副推進部長として、マーケティング全般、人材育成に携わる。現在に至る。