第1回では、採用ブランディングの全体像と具体的な取り組みについて解説しました。今回は採用ブランディングをより効果的に機能させるために必要な、採用活動における広報とマーケティングの戦略設計について解説していきます。→過去の「令和時代の採用ブランディング」の回はこちらを参照。

企業の採用活動においては、単に多くの求職者を集めるのではなく、自社において将来的に活躍してくれる人材にいかにアプローチしていくかが重要です。経営者、PR担当者、人事担当者の皆さまに向けて、採用広報と採用マーケティングの基本的な考え方と、戦略設計の7つのステップを紹介します。

採用広報と採用マーケティングの前提

一般的に「300人の応募者の中から1人を選ぶ」ということが採用活動の正解だと思われがちですが、これは誤解です。極論ですが「ファン300人→応募1人→採用1人」となる状態が真の理想だと考えています。

採用広報では、会社の魅力を多角的に捉え、ターゲット層に響くストーリーとして発信することが重要です。

これにより、自然と応援したいと思ってくれる「ファン」を獲得することができます。さらに、将来的に入社する可能性のある潜在層も含め多くの人にリーチし、関心を引くことが求められます。

そして、企業の採用タイミングと求職者の転職タイミングが重なった時に、確実に応募してもらえるような導線設計を整えることで、将来的に活躍する人材の採用につながります。これは企業と求職者の双方にとって意義のある、信頼関係構築のプロセスだと言えるでしょう。

  • 令和時代の採用ブランディング 第2回

    応募数ではなく「ファン数」を増やす採用広報の考え方

採用広報と採用マーケティングを設計する7つのステップ

ここからは、実際に採用広報と採用マーケティングを展開していくうえでどのような戦略設計が必要なのか、7つのステップに分けてわかりやすく説明します。

ステップ 1:採用ブランディングの目的を明確にする

まず、採用ブランディングを行う理由を明確にし、そのうえで、企業が目指す採用のゴールを定めます。

【採用のゴールの例】

  • 応募者数の増加

  • 応募者の質の向上

  • 社員の定着率アップ

さらに、採用ブランディングを企業の経営ビジョンや事業戦略とどのように結びつけるのかを整理し、一貫性が感じられるように構築していくことも重要です。

ステップ 2:現状分析

混同しがちかもしれませんが、事業競合と採用競合は似て非なるものです。第1回でも説明したように、採用競合とは、同じ職種やスキルと必要とする人材確保における競合企業のことです。

例えば、エンジニアや営業職などにおいては、業界を超えた競争が発生するケースも十分あり得ます。

業界(職種によっては業界外も)の採用動向や応募者の競合企業を把握し、自社の採用市場における立ち位置を正確に捉えながら、全体の状況を分析していかなければなりません。そのうえで、自社の採用状況を評価し、現在抱えている採用課題を整理します。

【採用課題の例】

  • 応募者の質や量の不足

  • 高い離職率

  • ミスマッチの発生

課題を整理した後は、現在の自社における採用ブランディングの評価・点検を客観的に行い、応募者や社員の声、データをもとに、自社の魅力や強み・弱みを明確にします。

ステップ 3:ペルソナ(ターゲット人材)設計

現在および将来、自社で活躍してくれる人材の共通点を洗い出し、採用したい人物像を具体的に定義します。

【ターゲット人材を定義するポイント】

* 求めるスキル・価値観・志向性

* 就職活動の際の情報収集チャネルや行動特性

その方法としておすすめなのは、自社で活躍している複数の社員にヒアリングを実施し、彼らの共通点を洗い出すというやり方です。そうすることで、自社ならではの活躍人材の特徴を明らかにすることができます。

これを踏まえて、採用競合と比較した際に自社が持つ独自の魅力も整理し、他社との差別化ポイントを明確にします。

ステップ 4:採用ブランドのコンセプト設計

企業のパーパスやミッション、カルチャーと採用ブランドを結びつけ、自社ならではの「株式会社〇〇といえば△△」という採用における第一想起ワードを言語化します。

【第一想起ワードの例】

  • 社員が圧倒的に成長する会社

  • ワークライフバランスが整っている会社

さらに、企業の魅力を端的に伝えるタグラインやキーメッセージを作成し、すべての発信に一貫性を持たせ採用ブランドを確立します。

この時、その言葉を聞いただけで企業のコンセプトが想起されるようなブランディングを意識することが、その後のメッセージング戦略や企業イメージの認知度・定着率アップにおいても重要となります。

ステップ 5:情報発信戦略の設計

求職者が知りたい情報を整理し、届けたい内容に合わせて的確に伝える戦略を立てます。 職場環境やキャリアパス、社員のリアルな声など、求職者にとって有益な情報を発信することが重要です。また、ストーリーテリングを活用し、社員インタビューや1日の業務の流れ、企業の裏側などをコンテンツ化します。

採用サイトは採用の顔とも言えるので、注力すべきツールの1つです。場合によってはリニューアルすることも検討しましょう。

【多様な発信手法】

  • SNS(Instagram、LinkedIn、Xなど)

  • 動画(YouTube、TikTok)

  • 求人広告、オウンドメディア、採用イベント

あらゆる手法を活用してタッチポイントを戦略的に設計することで、多様な層にアプローチできます。

ステップ 6:社員を巻き込んだ活動(インナーブランディング)

求職者に焦点を当てる一方で、既存社員のエンゲージメントを高め、社内で採用の魅力を共有する「インナーブランディング」に力を入れることも重要です。

【社員を巻き込む手法の例】

  • 社員による発信の仕組み化

  • リファラル採用の促進

社員自身が「この会社で働くことの価値」を実感できるような環境を整備し、採用ブランディングの一環として社内の活性化を図ります。社員が高いエンゲージメント意識を持ちながら働いていることは、自社に興味を持っている人材のチアアップにも繋がるでしょう。

ステップ 7:運用・改善

採用ブランディングのKPIを設定し、効果測定と改善を継続的に行いましょう。

【効果測定のポイント】

  • 応募数・採用コスト・定着率などのKPI

  • SNSエンゲージメントやメディア露出

市場の変化や企業の成長に合わせて定期的に採用ブランディングを見直し、より効果のある施策へと改善していきます。PDCAを回しながら、継続的な運用と改善を行うことで、採用ブランディングの精度を高めていくことができます。

また、採用広報では、メディア露出度やSNSのエンゲージメント率、オンライン上の評判などを定期的にモニタリングし、効果測定を行います。これらのデータを分析し、情報発信戦略やコンテンツの改善に繋げることで、採用ブランディングの効果を最大化します。

  • 令和時代の採用ブランディング 第2回

    採用広報とマーケティング設計の7ステップ

ファンを増やし、応援してくれる人と出会うための広報とマーケティングが鍵

採用活動は、単にたくさんの求職者に応募してもらえばいいというわけではありません。これからの採用は、企業のファンを増やし、応援してくれる人と出会うための広報とマーケティングが鍵となります。

自社に高い興味関心を持っている人材との接点を獲得し、その中から採用者を絞っていくことこそが、将来的な企業の発展にもつながっていくからです。

今回紹介した7つのステップを実践し、ぜひ自社ならではの採用戦略を設計してみてください。