5月26日、千葉市の幕張海浜公園で開催されたレッドブルエアレース千葉大会予選で、室屋義秀選手は56.403秒を記録し3位となった。予選の順位をもとに決定される、翌27日の本戦「ラウンド・オブ14」の対戦相手はマット・ホール選手(オーストラリア)に決定。また、今年の第1戦アブダビで優勝したマイケル・グーリアン選手(アメリカ)が55.424秒でトップとなった。
「じゃじゃ馬尾翼」は1回休み、慣れた機体で決勝へ
前回記事で紹介したように、室屋選手は千葉大会直前に垂直尾翼を小型のものに交換するという改良を行った。予選前、室屋選手は「空気抵抗が減少する代わりに直進安定性が低下し、繊細な操縦が必要になる」と説明していた。いわば、足は速いが扱いの難しいじゃじゃ馬だ。
しかしプラクティス(公開練習)と予選では、この不安定さが顕著に出てしまった。機体を横に90度傾けると、飛行機から見て左右へのふらつきは地面に対しては上下のふらつきになる。室屋選手は高度の乱れが大きくなることが何度かあり、いつもの安定感あるフライトとは程遠いように見えた。夕方の記者会見で、室屋選手は「今日まで小さな垂直尾翼を使ってきたが、非常にコントロールが難しく、予選で3位のタイムを出すことができたのは奇跡的。明日は前回カンヌまでの尾翼に戻すので、落ち着いて飛ぶことができると思います」と、今回の新しい尾翼で本戦を戦わないことを明言した。
「新しい尾翼でもうまく操縦すれば速いタイムを出せると思うが、少し風が荒れてくると対応できないので、明日は従来の尾翼でより安定したフライトをしたい。それでも充分に良いタイムを出せるという手ごたえを得ている。プラクティス段階ですでに、本戦では尾翼を戻すことを決めていたが、作業する時間がないので予選まではそのまま使った。千葉戦は、開催前に福島で充分な調整と練習ができると考えて新しい尾翼を投入してみたが、まだ充分ではなかった」(室屋選手)
室屋選手は、プラクティスでは最短で55.806秒とグーリアン選手に迫る記録も出しているが、このときはゲート通過時に機体が水平になっていない「インコレクト・レベル」のペナルティを受け、2秒を加算されている。尾翼を戻すことでわずかに遅くなることより、不安定な機体でペナルティを受ける可能性を避ける方を選んだ格好だ。
シーズン開始前の記者会見で、アグレッシブに改良に取り組むとも語っていた室屋選手だが、今回は少々勇み足だったのかもしれない。しかし予選はあくまで予選、千葉戦の順位は本戦で決まる。飛び慣れた機体に戻して仕切り直しだ。
なお、新尾翼は不採用になったわけではなく、今後も練習と調整を重ねていくという。次回以降の大会には新旧の尾翼を持ち込み、どちらを使うか判断するということだ。
初戦でライバル対決!エアレース前半戦の天王山に
予選での最高タイムを記録したのは、今年の初戦アブダビ戦で9年ぶりに優勝し、年間ポイントも1位と絶好調のマイケル・グーリアン選手(アメリカ)。「エアレースはチームプレイだ。今年はパズルのピースが揃ったように、うまくはまった結果だ。千葉はレッドブルエアレースの中でも最も心地よい会場で、日本のファンは数も多く、とても優しく接してくれる。この千葉で優勝できたら夢のようだ」と余裕の笑顔を見せた。
一方、第2戦カンヌ戦で優勝し年間ポイント2位のマット・ホール選手(オーストラリア)は予選タイムが伸びず12位。この結果、ラウンド・オブ14での対戦相手はなんと、ポイント3位の室屋選手に決まった。2位と3位のが初戦敗退する可能性が高くなったのだ。
「なんでこんなにドラマチックになっちゃうんでしょうね、せっかく3位に入ったのに」と苦笑した室屋選手だが、「年間を通じた戦いを考えれば、どこかでトップ対決もある。明日は前半戦の天王山になるでしょう」(室屋選手)
本来は実力派のマット・ホール選手と、尾翼を戻して仕切り直す室屋選手の直接対決。予選のタイムは参考にならない。2018年のレッドブルエアレース千葉大会本戦は、まれに見る熱い戦いになりそうだ。