4回目の千葉大会、なるか室屋選手の3年連続優勝

5月26日~27日の2日間、千葉市の幕張海浜公園でレッドブル・エアレース千葉大会が開催される。千葉での開催は4年連続で、唯一の日本人パイロットである室屋義秀選手は過去2年連続で千葉大会を制している。もし今年も優勝すれば、母国での3年連続優勝という快挙だ。

  • レッドブル・エアレース千葉2018

    (c)Red Bull Content Pool

レッドブル・エアレースの詳しい解説は昨年の記事を参照していただきたい。今年は、小さなルール変更が行われたものの、基本的な部分はこれまでとほぼ同じ。14人の選手が1人ずつ、レース専用に設計された高性能プロペラ機を操ってコースを周回し、一騎打ちでトーナメントを勝ち抜く。世界8か所で行われるレースの合計ポイントで年間チャンピオンが決まるが、昨年は室屋義秀選手が日本人として、アジア人としても初の世界チャンピオンに輝いた。

  • レッドブル・エアレース千葉大会会場

    (c)Red Bull Content Pool

去年よりポイントは高いが、上位は接戦模様

昨年、室屋選手は千葉大会を含めて4回の優勝を獲得したことで年間チャンピオンとなったが、2回優勝のマルティン・ソンカ選手(チェコ)とはわずか4ポイント差での辛勝だった。これは、トーナメント1回戦で敗退した大会が2回あったことなど、大会ごとに得られるポイントの差が大きかった結果だ。そのため室屋選手は「優勝に届かなくても、確実にファイナル4(決勝)に残る」ことを掲げてきた。

その結果、昨年は初戦アブダビで0ポイント、第2戦サンディエゴで優勝し15ポイント、合計15ポイントの2位で千葉戦を迎えた室屋選手だったが、今年は初戦2位で12ポイント、第2戦カンヌで4位の7ポイントで合計19ポイントと、昨年より4ポイント高い。ファイナル4に確実に進出した結果だが、順位はアブダビで優勝したマイケル・グーリアン選手(アメリカ)が24ポイント、カンヌで優勝したマット・ホール選手(オーストラリア)が21ポイントで、室屋選手は3位にとどまるハイレベルな戦いだ。

  • シーズン初戦の室屋選手
  • シーズン初戦の室屋選手
  • 初戦アブダビ戦は2位で好スタートを切った (c)大貫剛

室屋選手は「ファイナル4に残り続けるだけではチャンピオンにはなれない。チャンスがあれば優勝を取りにいく」と語った。

  • シーズン第2戦の室屋選手
  • シーズン第2戦の室屋選手
  • 第2戦カンヌではファイナル4に進出するも、4位と課題を残した (c)Red Bull Content Pool

進化し続ける機体、千葉では「サプライズ尾翼」も

他のモータースポーツと同様、機体の改良もレースの勝敗を大きく左右する。室屋選手は第1戦アブダビにはほぼ昨年と同様の機体で参戦したが、第2戦カンヌでは大幅に改良した機体がデビューした。

改良の1つはエンジンカウル。カウルは機体の空気抵抗を減らすものだが、空冷式エンジンの周りの空気の流れを整えるカウルは、いわば冷却装置そのものだ。うまく冷却できなければエンジンがオーバーヒートする可能性もある。新しいカウルは側面が複雑に絞り込まれているほか、前面の空気取り入れ口は大きくなった。

  • 昨年優勝時の室屋機
  • 2018年5月9日に公開された室屋機
  • 昨年優勝時と、今年5月9日に公開された際の室屋機。エンジンカウルが複雑に絞り込まれ、主翼先端は上に反り上がったウィングレット形状となった (c)大貫剛

もうひとつは、主翼先端を上へ曲げる「ウィングレット」の装着だ。従来は流れるように後方へしならせた「レイクドウィングチップ」だったが、これを少し上へも曲げたような形状に変更した。これによって、特に急旋回時の抵抗増加を抑えることができる。ただ、他の機体は小さな尾翼を取り付けたような明確なウィングレットが多く見られる中、室屋機のウィングレットはかなり控えめだ。

「大きなウィングレットを付けると、操縦のフィーリングが変わります。昨年は平らな翼でチャンピオンをとったので中間的な形態にしてみましたが、悪くなさそうなのでカンヌから投入しました。いま効果を解析しています」(室屋選手)

  • 滑らかに反り上がったウィングレット
  • 滑らかに反り上がったウィングレット
  • 滑らかに反り上がったウィングレット。比較的控えめな形状は、操縦フィーリングを優先した結果 (c)大貫剛

さらに5月22日、室屋選手のTwitterでサプライズの垂直尾翼改良が公表された。従来は垂直尾翼の可動部分(方向舵)上端が前方に突き出す「マスバランス」と呼ばれる構造をしていたが、新しい尾翼ではこれがなくなり、尾翼全体も小さくなったように見える。抵抗が減る反面、操縦性にも変化が出るはずなので、大会前には室屋選手に詳しく聞きたいところだ。

  • 前回までの尾翼

    前回までの尾翼。千葉大会から導入される新しい尾翼は先端部分が可動式の方向舵の一部から、固定の尾翼になっているほか、全体のサイズも小さくなっているようだ (c)大貫剛

カンヌで受けた突風の洗礼、チームで対処

カンヌ戦では新たな課題も出た。というのも好記録でファイナル4に進出した室屋選手だが、ファイナル4では実タイムでも4位、さらにインコレクト・レベルを取られて2秒加算という結果に終わったのだ。これは宙返りの瞬間に強い風を受けたことが原因だった。

「途中から風が強くなってきたことに気付けなかった。前に他の選手も同じような風を受けていましたが、選手は他のフライトを見ることができません。風がわかっていれば対処方法はありますから、その情報を収集してどうコックピットへ伝えるか、チーム内で議論を重ねました。千葉で同じことが起きても対処できます」(室屋選手)

実力伯仲するレッドブル・エアレース千葉大会。室屋選手はもちろん、14名の選手全員の迫力あるフライトに期待したい。

  • 千葉大会に臨む室屋選手

    さらに磨き上げられた機体と、突風にも対応できるチームワークを整え、千葉大会に臨む室屋選手 (c)大貫剛