はじめに

前回は、若手エンジニアとミドルマネジメント職を"育成する側"の倉重さんにお話を伺いました。今回は、倉重さんから"育成された側"の米田さんにインタビューを行いました。

入社したときはハードウェアの回路設計を希望したのですが「これからの時代はハードウェアとソフトウェアのどちらも重要」と言われ、最初の2年間は図形処理アプリケーションの開発に従事しました。その後、ICカードによる電子マネー決済技術に7年、USBのソフトウェア開発に1年半ほど携わり、7年前に現在の部署(映像処理技術の分野)に移りました。映像処理については、その時点ではまったくの素人だったので、業務を通して一から勉強しました。現在は携帯電話や車載機器、医療用カメラなどの制御を行うLSIのファームウェアの開発に従事し、設計のまとめを行っています。
ハードウェアとソフトウェアの融合というのが、組み込み技術、そして日立アドバンストデジタルのコア技術ですが、自分のキャリアとしてもその両方をバランスよく習得していきたいと考えています。ソフトウェア/ハードウェアというそれぞれの領域に閉じこもるのではなく、全体を見る視点――ソフトウェア/ハードウェアにとらわれることなく、自由にいじることができる――そういう発想が培われたと思います。しっかりした仕様がないとプログラムが書けないというのではなく、製品全体、仕様そのものの設計から関わっていくというスタンスで仕事に取り組んでいます。

技術の本質が分かれば応用は怖くない

ハードウェア/ソフトウェアにとらわれないという発想を培う上で役立ったのは、基本をしっかり抑えるという視点です。たとえば画像機器の制御プログラムを書く場合、まず重要なのは、カメラの撮像素子の駆動原理を知ることです。なぜそういう原理になっているかという明確な理由があるわけで、その部分まで踏み込んだ理解が必要です。撮像素子の駆動原理が分かれば、ズーム処理も理解しやすい。そして処理のためのソフトウェアもシンプルに書けるようになります。さらにはソフトウェア側での技術改善や応用範囲も広がります。

現在、自分の指導を行っている倉重さん(前回登場)が「倉重ゼミ」という勉強会を開いているのですが、技術の本質を学ぶうえで、この勉強会を利用することもあります。若手がどんなことを学んでいるのか、学びたいと思っているのかを知る大切な場でもありますね。

また、倉重さんに教えられたことのひとつに、技術の本質をつかむときに「図にすれば理解しやすい」ということがありました。「自分はここまでは分かっているが、ここは分からない」というように、理解範囲を絞るうえでも図が役に立ちます。人に説明するときも、図を添えると伝えやすくなります。ただし、本質や概念をしっかりつかんでおかないと、分かりやすい図は描けません。

米田さんを育成した倉重さんのノート - 説明するときに描いた図

私の当面の目標は、映像関連の組み込み分野において技術のエキスパートになることです。その一方で、役割としてはチームの作業のマネジメントを行うという要素が増えています。しばらくはエキスパートとマネージャの2つの要素を両立させることになりそうです。

ミドルマネジメント職に求められること

私のような30代のミドルマネジメント職に求められていることのひとつに、情報共有の推進があります。若手のエンジニアはどうしても視野が狭くなりがちで、仕事の一部しか見ていないという人も多くいます。それをフォローするのがマネジメント職だといえます。全体の工程を理解したうえで、納期など重要なマイルストーンや収益のポイントを示さなくてはいけません。それを示した上で、全体を引っ張っていくというエンジンの役割を果たすわけです。

それと同時に、若手が何に困っているか、何につまずいているのかを知るためには、若手と同じ目線でコミュニケーションを図らなければならない。つまり、縦横に広い視野をもって情報を把握し、それを部下に適切に伝え、共有する――こうした行動がミドルマネジメント職には欠かせません。業務が円滑に進まないとき、その原因を探っていくと、情報共有がうまくできていなかった…ということはよくある話です。情報共有を行うために、チーム内でどうやってコミュニケーションをとったらうまくいくかなどは、倉重さんの指導も参考にしながら、学んでいます。

この会社に入って、さまざまな先輩や上司と出会いました。人には恵まれたほうだと思います。ただ、手取り足取り教えられたわけではなく、むしろ課題をクリアするためのヒントを与えられただけで放置されているのでは…と感じることもありました。しかし、今になって振り返れば、「自分で考える癖を付けるようになりなさい」という先輩の教育方針だったようにも思えます。「ここまでやったぞ!!」と心の中で叫びながら、完璧に仕上げたものを先輩のところに持って行くと、先輩も悪い顔をしない。そんなときは大いに爽快感があります。自分のスキルが一歩進んだという実感をする瞬間ですね。

執筆:広重隆樹(編集工房タクラマン) / 編集協力:宮澤省三(エム・クルーズ)
写真:簗田郁子 / 取材協力:日立アドバンストデジタル

※ 次回は3月17日に掲載いたします。