家電をネットワーク化し、エネルギーを効率的に管理する「三菱電機HEMS(Home Energy Management System)」を切り口に、スマート事業推進部長の朝日宣雄氏と、プロトラブズ社長トーマス・パン氏によって行われた対談を、引き続きお届けする。後編となる今回は、HEMS開発に関する大きな背景と、今後のビジョンについて話が展開していった。

「改正省エネ基準」がもたらす家庭の変化

トーマス・パン氏(以下パン氏):HEMSは主に新築向けのシステムだと思いますが、既存の家に導入するという事もお考えなのでしょうか?

朝日宣雄氏(以下朝日氏):古い機器は通信に対応していませんので、どうしても難しくなってしまいますね。新しい機種を一揃い買われるタイミングとして、今は新築向けが主になっています。

三菱電機株式会社
スマート事業推進部長 朝日宣雄氏

パン氏:家を新しくした際に、エネルギーマネジメントのインフラも新しくするというわけですね。しかし、日本の新築戸数を考えると、ビジネスとしてのパイが小さくなり過ぎないでしょうか?

朝日氏:現状はそうですね。ですが、今後は大きな流れになると考えています。というのも「改正省エネ基準」が2013年10月に施行されたからです。もともと日本には、ビルを建てる時、その建物が使うエネルギーを試算して、基準以下でなければ建築許可が出ないという決まりがありました。今回の改正で、戸建ても初めてその対象になったんです。今は移行期間ですが、2020年には義務化される事になっています。ですから、家庭でもきちんと省エネ化して、太陽光も自分で使う事が真剣に求められていくわけです。究極は、ひとつの家でエネルギーの帳尻が合う「ネットゼロエネルギーハウス」ですね。

パン氏:「ネットゼロエネルギーハウス」ですか。素敵な近未来像ですね!そういった大きな流れのもとに、工場やビルのエネルギー管理だけでなく、家庭というマーケットに参入するという判断があったわけですね。

朝日氏:それに加え、3年前の震災もきっかけです。原発事故が起きたことで、電力自由化の議論が本格的に進み出しました。自由化になると、各地の電力会社が供給義務を負わなくなりますので、供給が追いつかなくなる可能性もあります。そうした場合に、需要側を調整するという動きが、日本で初めて起きることになるんです。今までは電気を好きなだけ使えていましたからね。工場やビルはコストを考えてエネルギーの効率化を進めてきましたが、家庭部門の電力消費は、効率化が進んでいないのが現状なので、今後は、家庭も省エネしなければならなくなります。

パン氏:なるほど。しかし、日本は人口が減少しており、家電としては現在「省エネ製品」が主流なので、電機の消費量も必然的に減るように思いますが、その効果は発揮できていないということでしょうか。

朝日氏:個々の製品は省エネ性能が高いのですが、一つの家で使う機器が増えているんです。例えば、昔はリビングに一台エアコンがあって、みんなが集まっていましたよね。今は各部屋に一台です。ネットワーク機器もつけっぱなしで、待機電力が馬鹿になりません。こうしたことで、電気使用量が上がっているわけです。ところが、将来は家庭に「いま不足しているので節電して下さい」というメッセージが届くようなことが始まります。そういった時の窓口としても、HEMSが期待されているわけです。

パン氏:そうでしたか!人口が減っても家庭における電機の消費量は増えている、という事実は意外ですね。

朝日氏:ですので、将来は家庭に「いま不足しているので節電して下さい」というメッセージが届くような取り組みが始まります。そういった時の窓口としても、HEMSが期待されているわけです。

「ものづくり」を「まちづくり」にする横断的プロジェクト

パン氏:改めて振り返ると、HEMSを世に出すまでに乗り越えるべき課題は数多くあったと思うのですが、特に「これは難しかった・大変だった」ということは何でしょうか?

朝日氏:プロジェクトのとりまとめですね。HEMSに接続される各機器は異なる製作所で作っていますし、製品の出るタイミングも、お客さんに合わせて全部違います。そんな中で、HEMSとそれに接続される機器を一揃えのシステムとして出そうとすると、複数の人間や部署が関係する大きなプロジェクトになるわけです。

パン氏:そこまで大きく横断的なプロジェクトだと、HEMS単体の枠を大幅に超えて組織をまとめる必要がありそうですね

朝日氏:HEMSの場合は、事業本部という独立採算の枠内で閉じていますので、そのトップが「これをやるんだ」という意思を示すことで推進が加速されますが、複数の事業本部が連携する必要のあるプロジェクトとなるとさらに大変になります。

パン氏:このような難しいプロジェクトマネジメントを統括するための社内体制は、どうやって整え、どうやって事業化を決断されるのでしょうか?

朝日氏:実は、各事業本部は独立採算制で、お客さんも違えば技術も違うので、連携がなかなか上手くいかなかったという過去がありました。その問題を解消するために、2003年から「戦略事業開発室」という横断的なプロジェクトを担当する部隊が立ち上がり、その結果、有機的なシナジーが生まれるようになりました。

パン氏:なるほど、事業本部が独立採算経営などで離れていっても、シナジー効果を最大限引き出すということですね。HEMSというシステムから少し上流のお話になってしまうのかもしれませんが、具体的には、どのような規模や単位のプロジェクトを念頭にシナジーを求めているのでしょうか?

朝日氏:大きな流れで見ると、我々は、一つの家だけでなく、スマートグリッドやスマートシティといった街単位の事業の実現を目指しています。ビルや家、鉄道などが全部繋がる、そういう単位のプロジェクトを、戦略事業開発室が担っているわけです。これらを上手く連携していき、1+1が3にも4にもなるようにしていきたいと思っています。

エネルギーを自給自足できる国へ

プロトラブズ合同会社社長&米Proto Labs, Inc.役員 トーマス・パン氏

パン氏:私は先日、本対談シリーズで電気自動車に乗ってきました。まだ横浜の限定的なエリアだけでの対応ということですが、これからさらに充電スポットが整備されていき、使い勝手が良くなってくるということでした。このような電気自動車と家や街が繋がるというのは、非常に楽しみです。



朝日氏:私たちも、今後は自動車メーカーとコラボレーションしていく可能性があります。万が一の時に、家の電気を太陽光発電と電気自動車のバッテリーでまかなえるというのはもちろん重要ですが、それだけではありません。震災の時、ガソリンが不足しましたよね。でも、太陽光で充電して走れるなら、移動手段が常に確保できるわけです。災害に強い、安心できる家と車という形になればと思っています。とはいえ、こうした新しいことをやろうとすると、日本という国レベルで展開するには、既存のルールの解釈を変えるか、新しいルールを作らなければならないという大変さはあります。

パン氏:しかし、将来的に確実にそうした方向に行くのではないかと思いますね。最終的には、HEMSを日本の世帯にどれくらい設置する、という目標はあるのでしょうか?

朝日氏:現状ではまだまだ少ないと思いますが、2020年に改正省エネ基準がスタートする時には、新築のかなりの部分に普及すると考えています。

パン氏:普及するには、メリットをかなり明確にする必要があるかと思いますが、HEMSを導入すると、各家庭でどれぐらい省エネになりますか?

電気の使用量や電気代を見える化するエネマネグラフ

朝日氏:各家庭の家電の使われ方次第ですから、HEMS単体で「いくら省エネできるの?」という質問に対しては答えにくいのですが、太陽光や蓄電機能をセットにすることで、はじめてメリットを分かりやすく提供できると思います。今後は電気代が上がり、太陽光発電や蓄電池の価格が下がってくるので、2020年を待たずして、経済的にもメリットがある状態で住宅のネットゼロエネルギーが実現できるようになるのではないでしょうか。

パン氏:すべての屋根がソーラーパネルになって、HEMSで管理できようになると、すべての家庭が国のエネルギーマネジメントに参加できることになりますね!

朝日氏:そうですね、一般家庭でエネルギー消費の認識が高まり、消費電力の変動が少なくなれば、結果としてエネルギーの安全性も自然と高まります。

パン氏:大きな発電所を建てるのではなく、各家庭がエネルギーの自給自足ができるようになるということは、日本のエネルギーの将来にも大きく関わってきますね。HEMSはまさにその架け橋になり得る、これからが楽しみな製品だと感じました。