株式会社SPIエンジニアリングは、工業用内視鏡の開発と販売を主力事業としている企業。同社は新製品投入の場として展示会を活用することで受注拡大につなげている。新規製品の開発にあたっては、機能を左右する内部の設計に工数を集中しつつ、最適な筐体も迅速に設計、製作することが課題であった。筺体の製造には、3DCADデータが活用でき、納期が早く、適正なコストで十分な品質が確保できるプロトラブズのサービスを活用して、課題をクリアしている。

課題
- 短期間で展示会に出せる新製品を開発
- 小ロットでも製品と同様の材料の筺体を製造して展示
- 遠距離であっても円滑かつ迅速に部品を製造できる委託先を獲得

解決
- 筺体を3D CADで設計
- 1個でも発注できるFirstcut切削加工サービスを利用
- ネット上で見積り請求から発注までのプロセスを完結できるプロトラブズに委託

3D化と展示会で大型受注を獲得するプロセス

株式会社SPIエンジニアリングは、主に光学系、メカ系の設計を担当する社長の日高剛生氏と、共同創業者でもある電気系の設計を担当する専務の原山広一郎氏が中心となり、工業用内視鏡の開発、製造から販売までを一貫して進めている。現在では、多くの大企業から受注を獲得している同社だが、創業当時は初めての受注を獲得するまで苦しい状況にあった。しかし、展示会を営業チャネルとして活用するようになってからは、順調に業績を伸ばすようになった。大手の製品と比較すると比較的安価でありながら、現場のニーズに対応した機能を盛り込んだ製品は目を引き、受注を獲得している。また、同社は新たに聞いたニーズをベースに次回の製品開発を進め、その次の展示会で、成果を得るという開発から営業へのプロセスを確立して着実に成長を続けている。

成長過程にある同社は、少人数で事業を進めているため、既存の製品の生産を進めながら、新規製品の開発を進めることは容易ではない。新規製品でも、特に複雑さが高いものは、元々時間がかかる。製品開発工程の一つ一つに十分に時間を取ることも容易なことではない。そんなタフな環境の中で、ビジネスを動かしていくために同社が実施していることが3つある。

一つは、無料で現場作業を試すことのできるデモ機の積極的な貸し出しである。このデモ機を貸し出すことで、少人数では確保することが難しい営業の工数の削減につなげている。二つ目が、3Dデータの積極的な活用である。まだ主要な設計業務は2次元が中心と言いつつも、積極的に3D設計の活用を始めており、特に筐体などの設計に3D CADを活用している。そして、三つめが、この3D CADデータをインターネットや、3D CADデータがあるからこそ活用することのできたプロトラブズのFirstcutのようなサービスの積極的な活用である。

少量生産とコスト抑制、品質確保、すべてを実現

3D設計化のメリットはすでに出てきている。わざわざ図面を作成することがなくなり、自分ひとりで設計と検図を進める日高氏は、思い込みによる間違いの排除などエラーの削減を実現している。また、形状がわかりやすい3D設計は、開発プロセスの中のコミュニケーションの円滑化にも一役買っている。電気設計側にメカ設計の意図を伝えることが容易になったこともその一つだ。3D CADの画像は、作業標準の作成にも活用している。

製品サンプルの製作にも3D CADデータを活用している。同社が利用しているプロトラブズの切削加工サービス「Firstcut」は、3D CADデータをもとに、アルミやエンジニアリング プラスチックのブロックを切削したパーツを1~3日で納品する。Firstcutを利用するようになったことで、タイトな開発スケジュールの時間の多くを、最も重要な内視鏡内部の設計に費やし、筐体などの外部形状は、工程の最後で一気に設計するという方法を適用できる。以前は、このような進め方が難しく、内部の設計と筐体設計を同時に進めなければならず、設計者としては負担が大きかった。それが、Firstcutであれば非常に早くパーツを入手できるため、より重要な設計作業に集中をすることができるようになった。

単に形状を作るだけならRPで造形するという選択肢もある。しかし、同社には、Firstcutによる本物の材料で製作した部品を使うべき理由がある。展示会への出品である。展示会では実際に顧客が製品を手に取り評価するのだ。「展示会でもアピールできる品質が必要なのです。」展示会が重要な営業チャネルである同社にとっては、筐体の仕上げの品質も重要なのだ。だからこそ、材料の選択にも自由度があり、仕上がりも製品と同格の品質が確保できるFirstcutを活用しているのだ。

SPIエンジニアリングの主力製品の一つ「φ4.6mm極細先端可動型工業用内視鏡」。手元のモニターを見ながらジョイスティックで先端を稼動させることができる。展示会に向けた筐体の製造にFirstcutを活用した。

遠隔地でも、スピーディーな部品調達が実現

従来のプロセスでは、外部に製造を依頼する際には図面をベースに対面で説明をする必要があり、遠くの業者に依頼することは難しかった。また、その後の見積りにも時間がかかる。しかし、Firstcutサービスを使う場合には、部品の3D CADデータをプロトラブズに送るだけだ。そのデータは即座にプロトラブズのシステムが解析し、24時間以内に見積りがくる。加工状態を示す画像付きのオンライン双方向対話型の見積りであるため、設計を変更する必要があればすぐにわかるし、個数や材料を変更すると、その場で見積りに反映される。日高社長は「土日にデータを作成して、月曜日に注文すれば、中3日で金曜日には部品が手元に届くのです」と強調する。とにかくデータを送ればよいので、細かい説明の必要もない。「3D CADとネットの普及で距離が消滅して、日本のどこにいても関係ない、弊社の立地を気にする必要のないサービスのメリットは大きいと考えています。」と日高氏は続けた。プロトラブズのサービスは、時間的なメリットだけでなく、場所を意識する必要も無くしてしまうパワーも大きな魅力といえるようだ。

株式会社SPIエンジニアリング

株式会社SPIエンジニアリング 代表取締役社長 日高 剛生 氏

2006年創立のベンチャー企業で、インスタント内視鏡、管内カメラ、ハイビジョン内視鏡などの工業用内視鏡の企画、設計、開発、製造から販売までを一貫して手がけているメーカーである。展示会等で集めた現場の声を迅速に開発に反映し、新たな内視鏡の展開につなげるなど小回りの良さを活かして大手との差別化を実現し、日本を代表する大手自動車会社や、電気通信業界、社会インフラ系の会社への大規模導入を実現している。

本連載は、「日経ものづくり」2011年5月号に掲載されたコンテンツを再編集したものです。
プロトラブズおよびProtomold射出成形の詳細:http://go.protolabs.co.jp/