液体調味料の風味を閉じ込めて長期保存を実現する「ミタス」は、使いやすさも追求したこれまでになかった製品で、2013年4月に創業したばかりのハチスプロダクト株式会社が開発しました。リソースが限られる製品開発ベンチャーのチャレンジは設計品質を確保しつつ、納得のいく品質の製品を小ロットで製造することでした。同社はプロトラブズの提供しているネットで利用できる解析機能を3D設計に活用して、射出成形による小規模量産を実現しました

課題
- 射出成形の見積り回答に2、3週間かかる
- 設計品質を確実かつタイムリーに高めたい
- 適正なコストで小規模量産したい

解決
- 2、3時間のうちに見積りと製造性の3D図解が得られる
- 設計変更に製造性の図解と樹脂流動解析をフル活用
- 25~1万個の小ロットでも最適なコストで生産

解析技術者から製品開発ベンチャーへの転身

フレッシュキープディスペンサー「ミタス」は、ハチスプロダクト取得の特許を活用した日本生まれの新しい容器。液体調味料の風味を長期間保ち、使い勝手との両立も実現。プロユースから一般までの活用が期待される。

醤油が使い切れずにいつの間にか風味が落ちてしまった、という経験をしたことはないでしょうか。家庭でも業務でも液体調味料や食用油は品質が保持された状態で使いたいと誰もが思うものです。それを実現するためには、酸化や芳香成分の飛散を防止して、長期間にわたって保存できることが重要ポイント。しかし、そのためのソリューションは案外見当たりません。そこに着想を得たハチスプロダクト株式会社の代表取締役 佐々木洋一氏は、液体の酸化防止や芳香成分の飛散防止に役立つ技術を開発し、特許の取得と製品化に着手しました。その成果が調理用器具である「ミタス」と呼ばれるフレッシュキープディスペンサーです。

この製品を開発した佐々木氏は、実は元オートバイのレーサー。レーサーを引退後は、オートバイの部品メーカー、さらにそこから転身したのが自動車開発のCAEエンジニアという一見異色のキャリアを持っています。しかし、佐々木氏自身にとっては、これまでのキャリアがミタスの開発につながったことは意外ではないと言います。なぜなら、自動車やオートバイでも、オイルをはじめとして様々な液体を多用し、それらの液体の品質も非常に重要なものだからです。ポンプ機構、バルブ、流路設計といったエンジニアリングに関わってきた佐々木氏にとって、自分のこれまでの経験を活かして新しい製品を開発し、ビジネスを起こすことはむしろ自然な展開だったのです。

3D設計を上手に活用した製品開発

ABS樹脂をProtomold射出成形してパーツを製作

今回の製品開発における重要なポイントの一つが3Dでの設計です。「現在、設計業務はGeomagic Designという3D CADを使用して進めています。設計工数の観点からも、二次元図面上で複数のパーツの関係性を確認していくなど考えられません」と佐々木氏は言います。

3Dを活用して設計を進める佐々木氏が出会ったのが、プロトラブズのネットでたのめる射出成形サービスProtomoldでした。まず、佐々木氏が好評価するのが双方向見積りシステムProtoQuoteです。3D CADのデータをアップロードするだけで数時間のうちに見積りだけではなく、その製造性の図解を3Dビューワで確認することができます。「これがあるとずいぶん違うのです」と佐々木氏は言います。通常、射出成形を依頼しようとしても、見積り回答を得るだけでも2、3週間かかることは珍しくありません。その間は何のフィードバックもなく、手持ち無沙汰の状態が続きます。それに対して佐々木氏は、「ProtoQuoteは設計のブラッシュアップにもとても役に立つのです。数時間で見積りと製造性が確認でき、それを元に設計変更を行い、すぐにその影響を確認する、ということを繰り返すことができます。つまり同じ形状を納得いくまで詰めていくことができるのです」と設計上のメリットも指摘しています。

「細かいことですが、『ここの抜き勾配を変えると、今度はこちら側の形状ではNGになった』などの反応が大変にわかりやすいのです。これを繰り返すことで形状を納得いくまで調整することができますし、ProtoQuote上で成形OKとなったものについては、プロトラブズさんはきちんとコミットしてくれますので安心して進めることができました」と佐々木氏はProtomoldのメリットを述べています。

シミュレーションを活用してコストメリットの高い小ロット生産を実現

さらに、佐々木氏が効果的なツールとして挙げたのがプロトラブズ独自の樹脂流動解析であるProtoFlowでした。「プロトラブズさんには、異形状多数個取り、という製造技術者泣かせのことをお願いしました。製造の難しさは増しますが、コストメリットを考えるとこのオーダーは譲れなかったのです」と佐々木氏は振り返ります。

加えて、すべてのパーツに同時に樹脂を充てんさせるために重要なのがランナーの配置です。ここで効果を発揮したのがProtoFlowです。「ランナーの配置を何度もシミュレーションすることで、無事に実現することができました。当初は、本当に樹脂が回るのか、という懸念からスタートしましたが、ProtoFlowの活用でしっかりと成形を進められると確信したうえで発注することができました」とその成果について述べています。

小規模量産でも最適なコストで生産

3Dデータの活用は、設計の効率化をもたらしましたが、金型のコスト自体も重要なポイントでした。製造量に比して一般的な量産型はコストがかかります。「一般的な金型メーカーでは、どうしても試作型よりも量産型に話が流れ、小規模の生産量に対応してくれるところを探すのは難しいのが現実なのです」と佐々木氏は振り返ります。プロトラブズでは、ITベースの製造プロセスによる自動化とアルミ型を使用するため、金型コストを比較的抑えることができます。当初は、アルミ型では、あまり数を打てないのではないか、という懸念はあったものの、1万個でも生産できるとのことで初期の生産量から考えても問題なく、コストの観点からも満足のいく製造を実現できたと語ります。

今後、同社ではデザイン性をさらに高めた商品の開発などを企画しており、この技術を活かした他分野(化粧品、理化学、医療)の市場での活用が、ますます期待されます。

ハチスプロダクト株式会社

ハチスプロダクト株式会社 代表取締役 佐々木 洋一 氏

液体調味料の風味を閉じ込め、その品質を長期間保持するフレッシュキープディスペンサー<ミタス>の企画・開発・販売を行う他、試作開発業務受託も行っている。代表を務める佐々木洋一氏は、元オートバイのレーサーという異色の経歴を持ちながら、その後自動車関係の業界で技術者として設計や解析に関わってきた経験を活かして、本当に作りたいものを開発するために2013年4月にハチスプロダクト株式会社を設立した。

本連載は、「日経ものづくり」2014年6月号に掲載されたコンテンツを再編集したものです。
プロトラブズおよびProtomold射出成形の詳細:http://go.protolabs.co.jp/