生成AIの登場によって、データセンターは大変革を迫られている。なぜなら、AIのワークロードは従来のコンピューティングとは比較にならないほど大量に、CPUやGPU、メモリーなどのリソースを消費し、データセンターの電力消費がこれまでの予想以上に増大すると考えられているからだ。今、データセンターに対しては、GoogleやAmazon、Microsoftなどを先頭に、再エネによる電力を使うことを最低要件として求めつつあり、これに呼応して、世界規模で政府や業界団体、企業が取り組みを進めている。今回は、この電力調達をテーマにして、最前線のデータセンター事例を紹介したい。

再エネの調達力がデータセンターの競争力に

今後5年間でAIに関連するワークロードの消費電力が増大すると、現状4.3GWと推計されているAIワークロード由来のデータセンターの消費電力は、2028年には13.5〜20GWの規模に到達すると見られている。また、AIワークロードに消費されるデータセンターの消費電力の割合は、現状の8%から2028年には15〜20%の規模にまで増加すると見られている。ただし、最近も枚挙にいとまがないほど急速に進化を続けるAIの産業利用を眺めていると、こうした試算よりももっと速く進むのではとも感じてしまう。

こうしたAIによる消費電力の加速度的増加によって、データセンターの戦略にも変化が起きている。例えば、AIのトレーニングワークロードに関してはそれほど即時性が必要とされないことから、データ通信のレイテンシーの回避を考慮するよりも、安定した電力容量が確保できる地域をデータセンターの建設地に選ぶ傾向も見えてきている。

  • 生成AIの登場で訪れる大変革

    生成AIの登場で訪れる大変革

大量の電力消費は、そのまま大量のCO2排出に直結する。当然のことながら再生可能エネルギーの利用や電力効率の向上による環境負荷の低減が世界的に求められているわけで、すでに欧州では、EUDCA(欧州データセンター協会)がCNDCP(気候中立データセンター協定)を通じて、主要メトリクスの自主規制目標値を公表している。

PUE(電力使用効率)は2030年までに1.3未満、REF(再エネ使用効率)は2025年末までに75%、2030年末までに100%、日本から見ると高い水準のようにも感じられるが、これに対して、欧州ではすでに80社以上が、2030年までに同協定の目標を遵守したことを証明するデータの提供をコミットしている。中国も、進み具合は欧州と比べると差はあれど、国・自治体レベルで明確に規制を進める動きが強まっている。また、北米では、どちらかというと企業主導で動きが加速してきた傾向があると言えるかもしれない。例えばGoogleは2030年までにカーボンフリーを目指すと宣言し、Microsoftでは2030年までにバリューチェーン全体でカーボンネガティブを目指すことを宣言している。これらGAFAM企業は、自社のデータセンターに関して明確なカーボンフリーもしくはカーボンネガティブの目標を立てており、データセンターのオペレーションにおける目標は現状既に達成している企業も多い。

このように、もはや海外ではデータセンターによるサステナビリティへの取り組みが当然のことであり、企業としての生存戦略のようになりつつあり、その目標に向けてどれだけ注力しているのかが、データセンターの競争力を決める指標として評価の対象になっている。

  • EUでEUDCA(欧州データセンター協会)の認証データセンターとなるための目標項目

    EUでEUDCA(欧州データセンター協会)の認証データセンターとなるための目標項目

再生可能エネルギーの購入契約で2320万ドルのコスト削減を実現したEquinix

ここからは、シュナイダーが電力調達やサステナビリティ戦略の領域で支援した海外のデータセンター事例を紹介したい。ここまで述べてきたような指標のうち、REF=再生可能エネルギーの使用率に深く関わる部分だ。

北米を中心にデータセンター事業を展開するEquinixは、全世界33の市場にある100以上のデータセンターにおいて、2030年までに電力の100%をクリーンな再生可能エネルギーにすることを自社の目標としている。シュナイダーは、この実現のために様々な支援を行った。まず、CO2排出量をはじめとする環境負荷をデジタルで見える化するプラットフォーム「EcoStruxure Resource Advisor」を提供。これによって、電力などのエネルギーに関するデータをデジタル環境で見える化し、その後それらのデータから、電力会社との契約や請求料金の精査・分析により、自社のエネルギー調達を最適化し、また大容量の電力購入契約(PPA=Power Purchase Agreement)を3件締結することとなった。こうしたフィジカルPPA(=実際の電力小売契約と環境価値の取引とを併せて結ぶ契約)において、シュナイダーはEquinixと緊密に連携して取引成立をサポートしており、その中で105MWの太陽光発電と225MWの風力発電との新規契約を成立させている。

その結果Equinixは、以前は全世界で30%しかなかった再生可能エネルギー調達量を、3年後に82%まで引き上げることができた。エリアを北米のみに限定すると、すでに再生可能エネルギー100%の調達を達成している。

さらに、この事例で注目すべきは、北米での再生可能エネルギーによる発電価格が下がっていた年に契約を結んだため、オフサイトバーチャルPPA(=実際の電力小売契約を結ばず、環境価値のみを購入する契約)の締結により2320万ドルのコスト削減を同時に実現している点だ。アドバイザーとしてのシュナイダーのこれまでの知見やノウハウ、業界とのコネクションを活かしたEquinixの戦略的な調達によって、こうしたコスト削減につながったといえる。

シュナイダーのインタビューに答えるEquinix France マネージングダイレクター、キャスティング氏。PPA締結以外に、排熱を植物栽培やオリンピックの温水プールに活用するなど新たな取り組みも進む。

Facebookの要望に応え20GWh規模の太陽光発電PPAを締結したDIGITAL REALTY

一方、同じく世界35の市場で210を超えるデータセンターを展開しコロケーションサービスを提供しているDIGITAL REALTYは、長期的な目標として全ての顧客に再生可能エネルギー100%でサービスを提供できる状態を目指しており、その初期段階としてまず米国内のコロケーション・通信サービスについて再生可能エネルギー100%とすることを目標としたプロジェクトでシュナイダーがサポートを行った。

DIGITAL REALTYに対して最もリターンが大きなプロジェクトを特定するために、シュナイダーは幅広い風力発電プロジェクトの評価を行い、データセンターが位置する地域と同一系統にあるプロジェクトを選定するなどのアドバイザリーサービスを提供した。他にも、太陽光発電を含む複数のオフサイトPPAの契約を提案し、経済・リスク評価を支援しており、最終的に米国内の4つの州において、5つのPPA契約の締結をサポートした。こうした取り組みによって、DIGITAL REALTYは毎年太陽光発電で70GWh、風力発電で275GWhを調達している。

シュナイダーのソリューションも導入されているDIGITAL REALTYのデータセンター。最新のものも含めると、DIGITAL REALTYは北米とヨーロッパで9件のPPAを締結している。

さらに、最近ではもっと直接的に顧客の要望に応えて実施した再エネ電力調達の例がある。Facebook(Meta社)は当時、2020年までにデータセンターおよびオフィスの電力を100%再生可能エネルギーで賄う目標を掲げ、自らにファシリティを提供する企業に対しても、100%再生可能エネルギーの使用を要求した。DIGITAL REALTYはこれに応じる形で、Facebookが使用する電力を賄うべく、毎年約20GWh規模の太陽光発電のオフサイトPPAを締結した。このプロジェクトでもシュナイダーはアドバイザリーを提供したが、ここで重要な点は、顧客が再エネを求めた際の即時対応力だったといえるかもしれない。

戦略立案から電力購入、使用効率の改善まで……幅広い視点が必要となるサステナブルデータセンター

こうした例からもわかるように、データセンターを使う側においてクリーンな電力調達は当然のことになりつつあり、ユーザー側が主導権を握っている。データセンターにとって、もはや調達面の戦略を立てないという選択肢は存在しない。しかし、電力購入契約にあたっては、市場のトレンドや世界各国のエネルギー戦略、様々な規制や制度、財務会計面の知見など、ありとあらゆるノウハウ、知見が求められる。だからこそ、戦略的な電力の調達においては、グローバルな視点を持つアドバイザーの存在が重要となる。

シュナイダーエレクトリックは、これまでデータセンター事業者をUPSやクーリングソリューションなどのインフラ面から支えてきた実績を持つ一方で、すでに世界250以上の企業に電力調達に関するアドバイスを提供してきた実績があり、データセンター事業者を多方面からサポートできる稀有な存在となっている。オフサイトPPAやオンサイトでの自家発電までを含むクリーンかつ安定した電力の調達サポートから、CO2排出量削減に関するロードマップの策定、コストやお客様のニーズも考慮した上でのデータセンターの設計計画まで、伴走することが可能な我々は、かなりユニークなアドバイザーであると言えるだろう。

サステナビリティゴールにはデータセンターの数だけ正解があり、所在地や規模、それぞれの事業者形態に応じた答えを探っていく必要がある。特に電力調達は日々刻々と状況が変化する難しいテーマだ。今後の日本の動向からも目が離せない。

  • シュナイダーエレクトリックが提供する再生可能エネルギー調達関連のサービス

    シュナイダーエレクトリックが提供する再生可能エネルギー調達関連のサービス