前回は、日本のペーパレス化を阻んできたはんこ文化と現代のペーパレス化への追い風について説明しました。では、海外ではどのくらいペーパレス化が進んでいるのでしょうか?今回は、海外のペーパレス化の現状について解説します。
米国のペーパレス化の動向
まずは、IT先進国としてペーパレス化が進んでいるイメージが強い、米国のペーパレス化の動向を見てみましょう。
米国では、日本がe-Japan戦略の議論を開始した時期にあわせて、1999年に州におけるUniform Electronic Transaction Act(UETA Act)が、2000年に連邦におけるElectronic Signatures in Global and National Commerce Act(ESIGN Act)が法律化され、電子署名による契約や電子記録の有効性や法的効力が保証されました。
特に、ESIGN Actにおいて、州間および海外との貿易における、電子記録と電子署名の利用を認められたことで、ペーパーレス化への道が大きく開かれたことになります。
法整備とあわせるように、時価総額上位の大手IT系企業のクラウドサービスやデバイス、ソーシャルメディアが普及し、文書管理のためのDropboxやboxなどのクラウドストレージサービス、Slackなどのコミュニケーションツール、筆者が所属するドキュサインの電子署名ソリューションなど、ITによるペーパレス化のための土壌づくりが急ピッチに進み、ビジネスプロセスにおいてもペーパレスが浸透していきます。
実際にRISIによる国民一人当たりの紙の年間消費量の調査において米国は、2010年では一人当たり約240kgを使用していたのに対し2016年では約209kgと、6年間で30kg近くも紙の利用を減らしていることが分かります。
米国では特にビジネス以外でのペーパレス化の動きが目立ちます。日本では2018年に標準化に向けた実証実験が始まった電子レシートに関しても、米国ではすでに2014年に大手小売のウォルマートが国内全店舗に対して展開を始めています。
決済後に電子レシートがメールや専用のアプリ内で届き、いつでも閲覧・返品にも利用できるだけではなく、広告やマーケティングにも活用されるといった取り組みが、当時から行われていました。
電子レシート以外でも、米国では電子処方箋の普及も進んでいますし、電子書籍の利用は減りつつあると近年言われているものの、電子図書館や教科書の電子化の動きなども盛んです。これらの身近なペーパレスの動きにより心理的障壁がなくなり、ビジネスにおいてもペーパーレスが受け入れやすくなっているのかもしれません。
究極のペーパーレス国家 エストニア
ペーパレスのお手本とすべき国として、すでに最先端の電子政府としても有名な、北欧のエストニアがあります。
エストニアは、15歳以上の国民に電子IDを義務化しており、行政サービスのほぼすべてが電子認証と電子署名で完結します(紙での手続きが必要なのは、結婚・離婚・不動産売却のみとのことです)。
これらの行政サービスは、X-Roadというシステムを介して行われます。X-Roadには医療や社会保障、金融などの公的情報も蓄積され、自身で管理も行えます。政府文書も99%電子化されており、世界で初めて国制選挙においてインターネット投票を導入したのもエストニアです。
行政だけではなく民間も含めると、公共交通や銀行、医療、保健、旅券などあらゆるサービスが電子化されています。前述の電子IDによる電子認証と電子署名は、これらの民間サービスでも利用できるだけではなく、民間企業間の取引でも効力を持ちます。
国そのものがデジタルネイティブで、利便性と透明性が徹底されているのは、まさに未来の国の在り方をみているようです。
日本がエストニアのように、完璧なペーパレス社会に移行するには、さまざまなハードルが残っています。しかし、エストニアが電子政府を進める中で汚職がなくなったように、日本もペーパレス化を加速させることで、紙ベースのプロセスが原因で起こる不祥事や損害が減り、紙にまつわる多くの労力がなくなり、そして、働き方改革も促進されるはずです。
次回は、日本に話を戻し、データや調査結果を元にした、日本のペーパレスの現状について改めて触れていきます。
ドキュサイン・ジャパン ソリューション・エンジニアリング・ディレクター 佐野龍也
ドキュサイン(DocuSign)は、電子署名とペーパレスソリューションのプラットフォームです。ドキュサインを使うことで、時間や場所、デバイスに関係なく、クラウドで文書を送信、署名、追跡、保存を可能とし、セキュアな環境の下、業務のペーパレス化を実現します。ドキュサイン・ジャパンは、米DocuSignの日本法人です。