4.合否判定
合否判定は、オシロスコープが自動で波形の不良を検知してユーザに通知したり、不良波形を保存したりする機能です。波形を取り込むたびに正常な波形(幅)と比較し、設定した基準値(幅)を外れた時、ビープ音、E-mail、SRQ波形取込停止、プリンタ印刷、ファイル保存などの処理をします。合否の基準値(幅)さえわかっていれば、合否判定機能はいろいろな使い方が可能です。デバイスの良品、不良品を選別する「自動化」用途や、通信の規格に沿っているかを判断する「コンプライアンス」用途や、稀に発生する不良波形を捕らえるような「デバッグ」用途に使えます。
波形を観測することにより、「波形の性質を知る」用途が、オシロスコープにとって最も基本的な用途ですが、合否判定機能を持つオシロスコープは、「デバッグ」用途や「自動化」用途や「コンプライアンス」用途に対応できるようになり、使用される機会を大きく広げました。
(1) リミット・テスト
まず良品と認める実波形を選び、その波形を上下左右に膨らませ、幅を持たせます。こうしてできた波形幅(テンプレートと呼ぶ)が合否判断の基準となります。つまり取り込まれた波形がテンプレートに収まっていれば「良」、テンプレートをはみ出せば「不良」となるわけです。複数のチャネルを対象にしたリミット・テストも可能です。どのチャネルに不良があっても、リミット・テストは機能し、ユーザへの通知と、不良波計の保存を行います。4つのチャネルで4種の信号を監視しておけば、合否判定の効率を上げることができます。
(2) マスク・テスト
本来マスク・テストは、のITU-T G703や100BASE-TXなど規格化された通信のマスクに対して、通信信号の規格適合性を判定するものです。しかし、多くのマスク・テストにおいては、ユーザが自由にマスクを描くことができる機能(ユーザ定義可能なマスク)があります。これを使えばリミット・テストのテンプレートと同じ働きをしますので、合否判定ができます。元来マスクはシンプルな凹凸型や四角や六角の集合体ですので、ユーザ定義マスクといえども、あまり複雑な形を描くのは得意ではありません。しかし、下図のように波形の合否判定には十分です。
(3) 自動測定値
オシロスコープによっては、自動測定(前回を参照)の値を使って合否判定することができます。自動測定はオシロスコープが波形のパラメータを測り、画面にその結果を表示する機能ですので、リミット・テストやマスク・テストのようにわざわざ判定のためのテンプレートやマスクを作る必要がありません。
自動測定の項目を選択し、測定結果が設定したリミットを超えると、パルスを出力したり、波形を止めたり、当該波形を保存したりして合否をユーザに知らせます。自動測定は種類を多く、オシロスコープによっては20種類以上もの項目があります。シンプルな振幅や周期以外にも、オーバシュート量やデュティ比やパルスの数さえも対象とできますので、自由度が高く、広範な現象に対して合否判定を用いることができます。
著者
稲垣 正一郎(いながき・しょういちろう)
日本テクトロニクス テクニカルサポートセンター センター長