Q
現在、特定の部下への対応に困っています。彼は仕事熱心なので、プロジェクトの一部分を任せることがあるのですが、彼はよく不安な気持ちを口にします。私は「人は任されないと育たない」と考えているのであまり口出しをしないようにしているのですが、彼は職場で私を見かけると、いつも自分から「悩んでいる」「困っている」「不安だ」といった感じで話しかけてきます。しかし私が、「まず自分の思うようにやってみてほしい」と伝えると考え込んでしまいます。どのように対応したらよいのでしょうか? 東京都 KYさん(プロジェクトマネージャー) 今回のケースでも、「上司であるあなたとつながりたい」という気持ちが出ているようですので、一人で自己完結するような形ではなく、折に触れ「調子はどうだ?」というように、常に気にかけている様子を伝えることも必要だと思います。
A
前回、質問にあるような部下は「エモーショナルなタイプ」であるため、コミュニケーション能力は高いのだけれど、情に行動が左右されがちだと説明しました。それゆえ、このタイプの部下にとって、「言葉を掛け合って支えあうこと」がやる気につながると述べました。
不安な気持ちを打ち明けてきた時も、ただ「大丈夫だよ」と伝えるのではなく、「いざとなったら支えるから大丈夫だ」と、一人ではなくチームの一員であることを再確認させるために伝えるべきです。
この部下の仕事に対する力は問題ないとのことですので、不安が取り除かれると、彼はより高いパフォーマンスを発揮する可能性があります。
ちなみに、論理的なタイプの部下が不安を訴えてきた場合は、その部下のどの能力が問題点に対して効果的な力を発揮するのかなどの理由を明確に説明することで不安感が解消する、といった解決策があるでしょう。物事を管理することに長け、計画性のあるタイプの部下であれば、進捗と計画をつき合わせ、いざという時の代替スケジュールを一緒に確認することで不安感が低減するではないでしょうか。
直感型でアイデア豊富なタイプの部下が相談してきたら、仕事の進め方や阻害要因に対する克服のアイデアを求め、それに対して質問を重ね、解決のためのアイデアが次々と沸くという実感を得るための手伝いをすることができるかもしれません。
つまり、同じ「不安感を取り除く」というアプローチ1つにしても、タイプごとにまったく異なる切り口が考えられるわけです。だからこそ、組織には「上司」として人が介在する意味が出てきます。つまりリーダーには、「管理する」というマネジメント以上の役割が求められているのです。
あなたは今、自分流のスタイルの確立を急いでいるのかもしれません。しかし、部下の特徴をとらえて能力を引き出すという手法にぜひ挑戦してください。
あなたが目指す「メンバーが自立していくチーム」の実現は、高い目標だと思います。部下が話しかけてくるというのはコミュニケーションを欲しているサイン。困ったことというよりは、むしろ望ましい関係なのではないでしょうか。あとは、そのコミュニケーションの質的な変化を目指していけばよいのです。
今回のことをキッカケに、まずは部下全員の行動の特徴をとらえなおすことを行ってみてください。部下をちゃんと見続けること自体に大きな意味がありますし、人の特徴に合わせてコミュニケーションのアプローチを変えるという方法を取ると、部下との関係が好転している……そんな感覚をつかめるようになるはずです。
おススメの1冊!!
ウェブ時代 5つの定理 この言葉が未来を切り開く! 梅田望夫著 文藝春秋刊
攻めるチームとはどんなものか? 著名な成功企業の例をただ感心し、納得するだけでは本書を読んだことになりません。納得できたことを自分たちのチームにどう活用するか。この本にはそのためのエッセンスがぎっしりと詰まっています。大組織の長より少人数のチームリーダーの方がこの本の核心に早く触れることができるかもしれません。リーダーとして、働き方と生き方の双方に「言葉」を持つことの重要性を感じることができる1冊です。
執筆者プロフィール
佐藤高史 (Takashi Sato)
株式会社コラージュ代表取締役。ビジネスコンサルタントとして人事教育・研修プログラムを数多く開発。著書「最強のプレゼンテーション完全マニュアル」(あさ出版)。
『出典:システム開発ジャーナル Vol.5(2008年7月発刊)』
本稿は原稿執筆時点での内容に基づいているため、現在の状況とは
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