本連載では、先進的な働き方・オフィス構築を行っている企業に潜入し、思わず「うらやましい」と声を漏らしてしまうその内容を紹介していく。「これからのオフィスどうしようか……」と考えている読者の手助けにもなれば幸いだ。第20回となる今回は、アビームコンサルティングのオフィスを紹介する。
コンセプトは「As One Stage」
アビームコンサルティングは、新型コロナウイルスの感染拡大を機に、従来の「オフィスに出社する」という単一的な働き方を変え、デジタルを駆使したハイブリッドな新しい働き方への挑戦を始めた。具体的には、2020年12月から新しい働き方を模索するため、オフィスの位置づけの議論と検討を開始したと池田氏は語る。
「新型コロナウイルス拡大に一定の落ち着きが見られる中で、クライアントへの提供価値向上や社員の成長にとってより効果的なアビームらしい働き方を追求するため、それぞれのプロジェクトや部門において、対面でのコミュニケーションも含めてハイブリッドな仕事の仕方について試行錯誤を繰り返し、その中に位置づけられる『オフィスはどうあるべきか』についても議論・検討を重ねてきました」(池田氏)
議論を続けた結果、「As One Stage」というコンセプトのもと、社内外のステークホルダーとのコミュニケーションを促進し、進化し続けるオフィスを目指すことが決まり、オフィスの目指すべき姿を以下の3つのエレメントで整理したという。
ELEMENT 1 [PROFESSIONALs]
- 社員の多様な個性と自律した働き方を尊重する場
- コミュニケーション・コラボレーションが生まれ、個々の個性がより発揮される場
ELEMENT 2 [NETWORK]
- 国内外、社内外、ステータスを問わず、多様でボーダレス、シームレスな働き方ができる場
ELEMENT 3 [BEYOND FUTURE]
- 社内外のクライアントやパートナーを繋ぎ、共創で未来に向けた新たな価値を創出する場
コンセプトに掲げられている「As One Stage」という言葉は、「社内外のクライアントやパートナーと共創しチームを力強くリードする」という意味を持つ「As One」と、「社員が活躍する場/舞台」という意味を持つ「Stage」が合わさってできたもの。
同社は、As One Stageの3つの方針より、執務スペースは、完全フリーアドレス制の導入や可動する家具・モニターにより目的に応じた空間づくりを自由に行えるスペースのほか、リモートワークや社外とのオンラインミーティングをシームレスに実施可能なオンライン設備を会議室に設置している。
中には大きなモニターが設置されたシアタールームや、キャンプをイメージした個性的なミーティングスペースなどを設置することで、多様な働き方の尊重とボーダレスな働き方を推進している。
加えて来客・共創エリアとして、大規模なプレゼンテーションやワークショップなどのイベントから日常的なワーキングやミーティングまで、社内外のステークホルダーが使用可能な多様な用途に対応した大空間を設け、共創による未来に向けた新たな価値創造を支援している。
VRで「社員の期待感」を醸成する
また、津田氏にリニューアルの際にこだわったポイントを聞くと、「オフィスコンセプトの軸がぶれないこと」にこだわったという。そのため、本来であれば、移転のギリギリになってしまいがちな従業員に対する情報共有に関しても、かなり初期段階から行うことができたという。
「レイアウトやさまざまな仕掛け、デザイン、カラーコンセプトなどは、プロジェクトの始動当初から一貫してぶれないように進め、その発信にも力を入れました。一例として、VRを活用したオフィスの完成イメージを作成し、社員に新しい働き方をイメージしてもらうという取り組みを行っていました」(津田氏)
この取り組みで事前に360度見渡せるVRを社員に提供することで、詳細なオフィスのイメージを掴んでもらい、社員の期待感を醸成することに成功したという。VR以外にもニュースレターの配信や動画の活用などにより、オフィスのリニューアルに対する情報発信を行っており、積極的に社員を巻き込みながらリニューアルを進めたことも工夫の1つとなっているという。
レイアウトに関しては、「アビームブランドの世界観を維持しながら、多くの方に受け入れられるデザインであること」を意識したという。このように聞くと、コーポレートカラーを使用したり、企業ロゴをふんだんに使用したり、といったデザインが想像されるかもしれないが、実際は反対で「特定のカラーが出ないこと」を意識していたという。
「弊社には幅広い業界・規模のクライアントがいらっしゃるので、どのクライアントにもオフィスを利用していただきやすいように、特定のカラーが出ないことを意識してレイアウトを考えました」(齋藤氏)
「変わっていく」を続けられるオフィスに
このように大きくオフィスの在り方を変革したアビームコンサルティングだが、池田氏は「完全フリーアドレスになったことにより、部門で固まらずに執務を行う環境となり、コミュニケーションが活発化したように見える」と語る。
また、イベントスペースの活用により、共創への意識や部門・階層の隔てのない交流も生まれているそうで、今後は具体的な意識調査なども行っていきたい方針だという。
最後に今後オフィスをどんな場所にしていきたいかについて聞くと「共創による未来価値創出が促進されるオフィス」「社員の成長や発想・気づきにつながるような仕掛けがあるオフィス」「ユーザーの声や社会情勢に対して、柔軟に対応し反映していくことのできるオフィス」「トライアンドエラーを繰り返しながら、その時々においてより良い執務環境であるオフィス」という4つの目標を教えてくれた。
特に総務としては「トライアンドエラーを繰り返しながら、その時々においてより良い執務環境であるオフィス」という点を大事にしていきたいそうで、以下のように今後の展望を語っていた。
「一旦移転としては完結しましたが、これで終わりにならないようにしたいと思っています。新型コロナウイルスの蔓延やテレワークの増加など、さまざまな理由で社会環境が変化することを改めて意識しました。総務としては、物事を柔軟に捉え、進化し続けるオフィスでありたいと思っています」(池田氏)