新型コロナウイルス感染症の到来は、オフィスの在り方を再定義する大きなきっかけとなった。
オフィスをなくし完全リモートワークに移行する会社や、あえてオフィス環境に投資しハイブリッドワークを実現する会社など、取り組みは十人十色だ。「出社する場所としてのオフィス」の時代は終わり、世界中の企業はオフィスに新たな付加価値を見出そうとしている。
本連載では、先進的な働き方・オフィス構築を行っている企業に潜入し、思わず「うらやましい」と声を漏らしてしまうその内容を紹介していく。「これからのオフィスどうしようか……」と考えている読者の手助けにもなれば幸いだ。
第12回となる今回は、ペットフードやスナック菓子、飲料などの輸入・販売を行うマース ジャパンのペットフレンドリーなオフィスを紹介する。
ペットと一緒に出社できる? 「ペットフレンドリーオフィス」とは
突然だが、皆さんはペットを飼った経験があるだろうか。筆者宅には目に入れても痛くないほど溺愛している「蘭丸」という名前の犬がる。
筆者も例に漏れずその1人なのだが、ペットを飼ったことがある人なら「この子を連れて仕事に行けたら……」と必ず1度は思ったことがあるのではないだろうか。
今回、取材で訪れたマース ジャパンのオフィスはそんなペットを愛する社会人にとって夢のようなオフィスだ。
マース ジャパンは「ペットのためのより良い世界(A BETTER WORLD FOR PETS)」の実現を使命として掲げ、それを体現する施策として、オフィス内で犬・猫と一緒に過ごすことのできる制度「ペットフレンドリーオフィス」を導入しているのだ。
「ペットと人が一緒に過ごすことによって、ペットが人の健康や生活に良い効果をもたらすことはさまざまな研究や調査でも明らかにされています。そのため、ペットと共に過ごす機会を増やすために、マース ジャパン東京オフィスでは、社員が犬や猫などのペットと同伴出勤することが可能となっています。このような形式のオフィスを『ペットフレンドリーオフィス』と呼んでいるのですが、海外では日本と比べて大幅に取り組みが進んでいます」(中村氏)
ペットフレンドリーオフィスは、ペットを飼っている全ての人が安心して出社することができる制度だが、ペットを飼っていない人にも優しい制度となっている。
中村氏の言葉の通り、動物と人が一緒に過ごすことによって、ペットが人の健康や生活に良い効果をもたらすことはさまざまな研究でも明らかにされており、普段ペットを飼っていない従業員たちにも心身に癒しをもたらしているようだ。
反対に動物が苦手な人やアレルギーがある人は、ペットたちが出社して来る日を避けてテレワークにすることができるように、事前にスケジュール上でペットを連れて出社する日を予約しておくシステムを導入するという配慮もなされている。しかし、避ける目的でスケジュールが確認されることはほとんどなく、元々苦手意識がある人でも身近に触れ合える動物がいる環境があると、苦手意識が薄れることも多いという。
「ペットを連れて出社して来る人がいると、毎回その子の周りに人だかりができます。その時に業務上の関わりがない部署や派遣の方など、普段あまり話をしない方たちとも話すことができるため、良いコミュニケーションになっていると思います」(中村氏)
「ペットの慶弔休暇」、お見舞金、お祝い金の制度も
また、ペットフードを商品として扱うマース ジャパンでは、このペットフレンドリーオフィスの存在が業務上で役立つこともあるという。
「ペットフードを扱っている企業のため、動物が好きな社員はそもそも多いのですが、それでもペットを飼ったことがない人も大勢います。また、犬しか飼ったことがない、猫しか飼ったことがない、という人もたくさんいるので、こうしてさまざまな種類の犬や猫の生態や飼い主の行動を観察できるオフィスは、仕事上でも生きていると思います」(中村氏)
マース ジャパンが「ペットのためのより良い世界(A BETTER WORLD FOR PETS)」の実現のための取り組みは、ペットフレンドリーオフィスの導入にとどまらない。
なんと、福利厚生として「ペットの慶弔休暇」を認めているのだ。通常、企業では家族以外の慶弔休暇は認められないのが一般的だ。
「ペットを飼っている以上、いつか別れがくることは避けられません。しかも、人間よりも遅く生まれて早く寿命が来てしまうという自然の摂理は変えられないものです。たまに『ペットが亡くなったくらいで仕事を休むなんて』という言葉を聞くことがありますが、これは大きな誤りだと思います。ペットも大切な家族の一員であり、その死が悲しいものであることは間違いないからです。だからこそ、弊社ではペットを亡くした社員に対して、お見舞い金と忌引き休暇を付与しています」(中村氏)
加えて、ペットを飼い始める際にも休暇の付与とお祝い金の支給や、出張の際のペットシッター費用の一部補助など、ペットと暮らしやすい仕組み作りも整えているそうだ。また、「ペットのためのより良い世界(A BETTER WORLD FOR PETS)」を実現するため、こうした取り組み多くの企業に広めていきたいという。
取材を終えて帰宅すると、筆者の元に蘭丸が飛び付いてきた。どうやら他の犬を触った匂いが残っていたようで、いつも以上に匂いを嗅ぎ回られる。
最近はペットカメラという便利なアイテムも主流になってきたが、それでもやはりペットを残して仕事に行くのに抵抗を覚えるという人も少なくないだろう。
これから先、日本でももっとペットフレンドリーオフィスが主流になって、誰もが愛するペットと出社できる未来が来ることを切に願ってやまない。