前回はオフィスVDIになぜ仮想GPU技術が必要かご紹介しました。今回はもともとGPUを必要とするグラフィックスアプリケーションをVDI上で利用するケースについてご紹介致します。

従来、製造業やメディアエンターテインメント、建築・土木などの分野では、3DグラフィックスアプリケーションをGPU(NVIDIAの場合、Quadro)付きのPCで利用する形態が主流でした。また、これらの業務はGPUを搭載した専用PC(物理ワークステーション)が必須だったためVDI化は難しいとされてきました。

デザイン業務における専用PC環境の課題は、

  1. 熱や騒音、設置場所に悩まされる(大きい筐体で消費電力の高いPCが密集する)
  2. リソース管理が煩雑となる(メンテナンス負荷が高く、ユーザごとにスペックの調整が必要)
  3. 国内外のあちこちに配置している場合、あるいは、プロジェクトの進捗状況に応じて容易に入れ替えを行うことが出来ない
  4. 図面を管理しているサーバと専用PC間でデータ容量の大きいファイルのやり取りが発生、データをオープン・クローズするのに多大な時間を要する。他のシステムへの影響を考慮し、社内ネットワークの帯域を制限するとさらに劣悪になる
  5. 図面データをローカルで作業するため、有事の際に仕掛中データが消滅する危険がある
  6. 筐体が大きいため持ち運びが不便、モバイルワークステーションを活用するも端末紛失時のセキュリティ事故を考慮する必要がある
  7. PC環境が特殊なため全社ITの管轄外となるケースが多い(調達スキームがバラバラで、全社IT基盤とは異なるルールが出来る)

といった点が挙げられます。

これらの課題をすべて解決するためにVDIはまさに威力を発揮します。ただし、グラフィックスリソースとCPUリソースのケアが重要な鍵となります。

まず、グラフィックスリソースのケアとしては、TESLA GPUを搭載したサーバ上でVDI環境を構築、そこにNVIDIA GRIDドライバ(Quadro vDWSエディション)をインストールし、各VMへvGPUリソースを割り当てます(1VMあたり何GBずつGPUメモリを割り当てるかを設定)。例えば1GPUあたり24GBのGPUメモリを搭載しているTESLA P40の場合、1GB ずつであれば24VM、2GBずつであれば12VMへの割り当てが可能です。

このGPUメモリの割り当ては、普段使用しているグラフィックスアプリケーションと図面データを、従来から利用している専用PC上で動作させ、実際に消費しているGPUメモリの容量をモニタリングしサイジングするケースがほとんどです。GPUの使用状況を閲覧する場合には、NVIDIAのエンジニアがボランティアで開発しているGPUprofilerの利用を推奨します。

  • GPUprofilerのスクリーンショット

    GPUprofilerのスクリーンショット

参考:「GPUprofiler」

また、CPUリソースのケアとしては、VMの画面をリモートで参照する際のエンコーディングをCPUではなく、GPUに搭載のエンコーダ(NVENC)を使用することで、CPUリソースの負荷を軽減したり、GPUメモリ-RAM間のデータ転送負荷を軽減させたりすることが可能です。VDIのソフトウェアベンダが提供するデスクトップツールにはNVENCを使用した機能が実装されています。

  • リモートディスプレイを実現する手法としての従来法とNVENCの比較

    リモートディスプレイを実現する手法の比較。右がNVIDIA GRIDを用いた手法。従来手法(左)と比べると、手順が簡素化されており、CPUに負荷をかけずに画像を転送できるようになっている

グラフィックスアプリケーションは、完全にGPUだけでは動きません。また製品によってはCPUリソースを多く消費するものも存在します。CPUリソースの負荷軽減により、より多くのVDI実装とアプリケーションへの割り当てにより最適なシステム構成を築くことが出来るわけです。

その他の考慮ポイントについてはまた追々紹介して行きたいと思っていますが、NVIDIAでは、仮想GPU技術により従来VDI化が難しいとされてきた3D CAD、CAEプリポスト、CG制作などのグラフィックスアプリケーションが、快適に稼働するVDI環境を実現することを可能としました。そしてNVIDIAは、これにより、グラフィックスアプリケーションを利用するユーザのワークスタイル変革や業務効率の向上に対し、大きく寄与できると確信しています。

田上英昭

著者プロフィール

田上英昭(たがみひであき)
エヌビディア合同会社
エンタプライズ事業部ビジュアライゼーション部 部長

略歴
1994年:都立科学技術大卒、研究テーマは「ニューラルネットワークによる音声の感性分析」。
1994~2010年:伊藤忠テクノソリューションズ 金融事業部にて銀行・証券・生損保向けデリバティブやリスク管理システムの開発(並列分散処理)プロジェクトに従事。
2010~2011年:日本マイクロソフトにてHPC製品の販売に従事。
2011~2016年:デルにてHPCならびにGPUソリューションのビジネス開発に従事。
2016年9月よりエヌビディアに勤務、仮想GPUソリューションをリード。