前回は、海外拠点へのシステム展開において留意すべきポイントをいくつか記載したが、今回は筆者が携わっている「SAP Business ByDesign(※)」の海外展開プロジェクト経験から、プロジェクト計画時に留意すべきこと、現地とのコミュニケーションにおいて留意点すべきことについて記載したい。

※:SAP Business ByDesign
独SAP社が提供するSaaS型ERP。中小企業および大企業の子会社での利用に適したソリューションである。

プロジェクト計画時における留意点

本社(日本)側の体制構築

本社経営層の視点からプロジェクトの目的や追加開発方針を現場に浸透させることの重要性は前回、記載した通りであるが、これを実現するためには現地への発言力や交渉力を持ったキーパーソンをユーザ側体制にアサインすることが重要である。

この部分を我々のようなシステム導入ベンダに委任するプロジェクトもあるが、やはり本社側のメンバが直接方針を伝える場合と比べて現地ユーザからの反発を招きやすく、その結果スケジュールやコストが予定を超過してしまうプロジェクトも見られる。プロジェクト方針や重要な論点の説明は、親会社のメンバが自ら現地に行うのが望ましい。

現地プロジェクトメンバのアサイン

海外展開に限った話ではないが、中小規模の拠点へのシステム導入においては、ユーザ部門のメンバを専任でプロジェクトにアサインすることは不可能に近く、基本的に通常業務と兼任でのアサインとなる。

プロジェクト計画時に留意したいのは、現地メンバが通常業務と並行してプロジェクト作業や打ち合わせへの参加ができるよう、あらかじめ必要な打ち合わせや作業を行うための時期をブロックしておくことである。加えて海外の場合は祝日も考慮してスケジュールを組む必要ある。特に短期プロジェクトの場合、必要なタイミングで打ち合わせを行えないことにより、稼働スケジュールにインパクトを与えるような事態にもなり得る。

現地とのコミュニケーション

出張期間の有効活用のためのポイント

著者が携わっているSAP Business ByDesignの海外拠点導入においては、プロジェクトキックオフ、プロトタイプ、ユーザトレーニングを実施するタイミングで現地に出張し、対面でのセッションを行うのが標準的な進め方である。これ以外にも現地ユーザ側の作業は多岐にわたるが、本社側のメンバがプロジェクト期間中ずっと現地に張り付いて支援したり進捗をウォッチしたりすることはあまり現実的ではなく、限られた出張期間をいかに効果的に活用するかも重要なポイントである。

出張期間中のタイムテーブルやセッションごとの検討論点をあらかじめ整理・計画し、参加者の予定も確保して万全の準備を整えていたとしても、当日現地メンバに急用ができたり、議論が白熱したりして計画通りにセッションが進められないことも多い。出張期間中に消化できなかった内容は帰国後にWeb会議で実施することになるが、対面での打ち合わせと比較して効率は落ちるし、現地ユーザとの日程調整う必要があり、プロジェクトスケジュールにも影響を与える。出張期間内に消化できなかった内容については単純に出張期間後のWeb会議に回すのではなく、出張期間中のセッション消化状況や課題発生状況を日次で確認し、出張期間中に必ず消化すべき事項とそうでないものを切り分けながら残りの日程の計画を再構築することも非常に重要なポイントであると考える。

Web会議実施時におけるポイント

新型コロナの影響により当面は海外への出張自体が制限される可能性が高く、現地とのコミュニケーションはWeb会議で代替せざるを得ない場面も増加すると思われる。著者自身の経験も踏まえ、対面での打ち合わせとの違いとWeb会議を効率的に進めるにあたり重要と考える点を以下に記載する。

口頭のみでの議論を避ける

対面での打ち合わせでは、準備していた説明資料を補足したり、ユーザからの質問に回答したりするためにホワイトボードを使用することが多い。しかしWeb会議ではホワイトボードの機能自体は用意されているものの、対面での打ち合わせと比較すると得られる情報量は制限され、効率が落ちるだけでなく認識の齟齬が発生する可能性も高くなってしまう。言葉だけで説明することが難しいトピックに関しては、別に時間を設けて資料を準備したうえで説明する方が手戻りの可能性も低くなり、よりスムーズにプロジェクトを推進できると考える。

打ち合わせ時間は短めに

Web会議で得られる情報は、基本的に音声+画面投影資料となるため、特に説明を受ける側は、対面での打ち合わせ時よりも集中力、体力を消耗する(海外プロジェクトで、母国語が異なる者同士の打ち合わせでは尚更である)。

プロトタイプやトレーニングを実施する際には、ある程度まとまったセッションの時間を必要とするが、時間を著者の経験上、1日の合計打ち合わせ時間は最長でも3時間程度になるように計画すること、また1時間ごとに休憩を挟むのが望ましい。

おわりに

withコロナ~afterコロナの時代においては、国内/海外に関わらずシステム導入時のコミュニケーション方法は大きく変化すると思われる。今回の記事ではシステム導入プロジェクトにおけるWeb会議実施上の留意点を著者の体験をもとに記載したが、少しでも参考になれば幸いである

服部公平

著者プロフィール

服部公平(はっとり こうへい)
株式会社NTTデータグローバルソリューションズ
ゼネラルビジネス事業部 Business ByDesign Team

NTTデータに入社後、SAP ERP導入プロジェクトに参画し、財務会計、管理会計、連結会計等の導入コンサル、プロジェクトマネージャーを歴任。2013年以降は、主に日系企業の海外拠点向けSAP Business ByDesign導入のプロジェクトマネージャーとして数多くのプロジェクトに従事し現在に至る。

一橋大学 商学部卒。