今回と次回の2回に分けて、PoE対応のネットギア製のスイッチ製品「GSM5212P」とアクシス・コミュニケーションズ製のネットワークカメラ「P1343」を利用した、ネットワークカメラの導入と運用について取り上げよう。
使用するハードウェアとソフトウェア
最初に、使用するハードウェアについて簡単にまとめておく。
カメラの映像を再生するだけであれば、後述するネットワークカメラと、そこから映像を受け取って表示するためのソフトウェア、それを動作させるためのコンピュータ(PC)があればよい。
しかし、これだけでは動画は「垂れ流し」である。監視カメラのような用途では、後になって証拠となる映像を必要とする場面が考えられるので、動画を保存・管理する機能が必要だ。そこで今回は、ネットギア製のNAS(Network Attached Storage)製品と、それに対応するソフトウェアを併用する。
NASは「ReadyNAS」ストレージ製品で、かつ、ファームウェア4.2.17以降のものが必要になる。これをネットワークに接続して稼働させた状態で、さらにネットワークカメラを動作させるわけだ。つまり、必要なハード/ソフトは以下のようになる。
・ネットワークカメラ
・ネットワークを構成するためのスイッチ
・動画を保存するためのNAS
・動画の再生・管理を行うソフトウェア
このうち、ソフトウェアの「ReadyNAS Surveillance」を入手・セットアップする際の手順については、次回に取り上げる。
ネットワークカメラとは
ネットワークカメラとは、読んで字のごとく、ネットワークに接続できるビデオカメラのことである。だから、カメラの本体にイーサネットのコネクタとサーバ機能を内蔵しており、単独で動画配信が可能になる。もちろん、IPアドレスの割り当てを受けた上で動作する。
ネットワークカメラが配信する動画を見るには、Webブラウザを利用するのが一般的だ。制御・表示用のソフトウェアを用いて、遠隔地からネットワーク経由でカメラを操作することもできる。
主な用途としては、ライブカメラや監視カメラが考えられる。TCP/IPネットワークがあれば利用できるため、「監視カメラ」として販売している専用製品よりも安価、かつ手軽に利用できるメリットがある。PCにUSB接続で外部カメラを取り付ける方法でも同様の機能を実現できそうだが、ひとつの匡体にカメラとネットワーク接続と動画配信の機能が収まっている方が扱いやすく、電源などの配線がシンプルになる利点もある。
さらに、「PoE(Power over Ethernet)」を利用することで、電源とネットワークの配線をひとまとめにできる利点もある。使用するケーブルが少なくなれば、設置に際しての自由度が増し、電源コンセントの所要が減る。
その「PoE」とは、いったい何か。これは、LANケーブルから電源を取る技術のことでACアダプタなどを使わないで済むことがメリット。LANケーブルに電圧をかける方法には2種類あり、Alternative A(Type A)は、データの送受信を行いながら信号を送る線のペアで給電し、Alternative B(Type B)は、使用しない予備線のペアで給電する。ネットギア製品はType AでPoEに対応している。
まずIEEE802.3af、後にIEEE802.3atとして標準化仕様を規定した。IEEE802.3afでは、給電能力は1ポートあたり最大15.4Wとなっていた。しかし、これでは給電能力が不足する場面が出てきたため、給電能力を1ポートあたり最大30Wに引き上げたIEEE802.3at(PoE Plus)が登場した。
なお、PoEの利用にはカテゴリ3(IEEE802.3af)、あるいはカテゴリ5e(IEEE802.3at)以上のケーブルが必要だが、現時点で販売しているケーブルであれば問題ないだろう。注意したいのは、ちゃんと8本の信号線を設けているかどうかの確認ぐらいだ。
PoEは一般的に、「PoE対応スイッチ」と「PoE対応機器」で成り立つ。前者が給電側、後者が受電側である。当然、給電側のスイッチは自身の消費電力に加えて、受電側で見込まれる消費電力を上積みした電源供給能力を確保する必要がある。そして、「PoE対応スイッチ」と「PoE対応機器」をケーブルで直結しなければならない。間にPoE非対応機器が挟まると、そこで給電が途切れてしまうからだ。
機器を設置する際の手順と注意点
ハードウェアの設置は、特に難しいことはない。「GSM5212P」にNASと「P1343」を接続しただけである。「GSM5212P」では#3~#12が給電用ポートになっているので、そのいずれかに「P1343」を接続する。
「P1343」は外部電源や音声入出力用のコネクタも備えているが、これらを利用すれば当然ながら、その分だけケーブルが増える。
今回使用した「GSM5212P」では、ポート#1~#2が受電用、ポート#3~#12が給電用となっており、給電用ポートと受電用ポートを接続することで、PoE対応スイッチ同士の受給電が可能になる。ネットギアではこれを「パススルーモード」と呼んでおり、最大22Wの給電が可能である。PoEパススルーのメリットは、「GSM5212P」自身が別のPoE対応スイッチから給電を受けて、自らは電源ケーブルなしで動作できる点にある。
一方、NASの方はネットワークに接続して電源を投入すれば、自動的に稼働を開始する。ただし、NASの設定を行うためのWebブラウザ管理画面「FrontView」を利用できるようにするため、製品添付の説明書にある手順に従って、添付のCD-ROMから「RAIDar」ユーティリティをセットアップする必要がある。
「RAIDar」ユーティリティはセットアップに続いて自動起動するが、その際にWindowsファイアウォールのブロック警告が出たら、通信を許可しなければならない。すると、ネットワーク上で稼働中の「ReadyNAS」製品の一覧を表示するので、その中から目的のNASを選択した上で、「設定」をクリックする。
この操作により、Webブラウザが起動して「FrontView」の画面を表示する。その際にSSL(Secure Sockey Layer)の証明書に関する警告を表示するが、これは警告を無視して接続操作を続ける必要がある。ユーザー名とパスワードは、製品添付の説明書にある初期値を使用する。
カメラの動作確認とパスワード設定
「P1343」はTCP/IPを利用するネットワークカメラだから、動作させるにはIPアドレスの割り当てが必要である。工場出荷時状態でネットワークに接続すると、DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)クライアントとして自動構成を行うので手間はかからないが、固定的にIPアドレスを割り当てる方が管理しやすいだろう。もっとも、DHCPでもMACアドレスの情報を利用して、常に同じIPアドレスを割り当てるようにしておく方法がある。
LAN内部にDNSサーバがあれば、ホスト名によるアクセスも可能になる。これはネットワークカメラをインターネットに接続する場合でも同じだが、固定IPアドレスを取得できることは少ないと思われるので、ダイナミックDNSサービスを組み合わせるのが現実的だ。
機器の設置と結線が完了したら、この時点でカメラが正常に機能しているかどうかを確認しておこう。映像の表示や保存についてはネットギア製のソフトウェアを使用するのだが、それについては次回に取り上げる。その前段階として、まずカメラが単体で正常に機能して、映像を送ってきていることを確認しておけば、確実性が増す。
カメラの映像に対するアクセスや設定には、専用のソフトウェア「AXIS IP Utility」を利用すると楽だ(必須ではない)。これはアクシス・コミュニケーションズのWebサーバからダウンロードできる。セットアップは必要なく、ダウンロードした「*.EXE」ファイルを直接実行する。その際に、システム管理者権限で実行する必要があるので、Windows VistaやWindows 7を利用している場合には注意したい。
このソフトウェアを利用すると、カメラを自動検出してくれる。一覧で目的のカメラをダブルクリックするだけで、Webブラウザが起動して自動的に接続できるので楽だ。また、カメラのMACアドレスを確認できるので、DHCPサーバへの固定的な割り当て設定を行う際に活用したい。
なお、初めてWebブラウザでカメラに接続したときに、パスワードの設定画面を表示する。自己署名したデジタル証明書でSSLによる暗号化接続を行う選択も可能だが、今回はパスワードを設定する方法を使用する。ユーザー名の既定値は「root」と決まっているので、パスワードだけを確認のために二度入力して、「OK」をクリックすればよい。
続いてログイン画面を表示するが、ここではユーザー名を「root」、パスワードは先に指定したものを入力する。このユーザー名とパスワードの情報は、後で「ReadyNAS Surveillance」の設定を行う際にも必要になるので、忘れしないように注意したい。
では次回、導入したネットワークカメラを実際に使ってみることにする。