普通、マン・マシン・インタフェースというと、操作系や情報表示などといったパートが対象になるもの。しかし今回はちょっと趣向を変えて、「人間と機械の役割分担」という観点から書いてみたい。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

AI/MCMとは

ロッキード・マーティンが2025年12月4日に、AI/MCM(Artificial Intelligence driven Mission Contingency Management)の実証飛行試験に関するリリースを出した。「AI」は説明の必要はなかろうが、「MCM」は話が違う。

この試験が企図したのは、任務飛行中に想定外の問題に直面したときに、適切な対処を行えるようにAIが支援すること。“contingency”は「偶発的な事態・事故」という意味だから、「任務実行中に発生する不測の事態をマネージメントする」という趣旨になる。

では、試験では何をやったのか。

実証試験のシナリオ

試験では、2機の無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)を使用した。なぜかそれぞれ機種が異なり、片方はストーカーXEブロック25、他方はアルタX 2.0。ストーカーXEはロッキード・マーティンが開発したUAVで、アルタXはフリーフライ・システムズが開発した産業用クワッドコプターだ。

  • 試験で使われたストーカーXEブロック25 出典:ロッキード・マーティン

    試験で使われたストーカーXEブロック25 出典:ロッキード・マーティン

  • 高積載マルチローターUAV「ALTA X Gen2」 出典:Freefly Systems

    高積載マルチローターUAV「ALTA X Gen2」 出典:Freefly Systems

試験では、燃料不足の状況をいくつか設定したと説明されている。燃料の残量がなくなったら基地に戻さなければならない、いわゆるビンゴの状態になる。そして、ストーカーXEが燃料不足になって帰還せざるを得なくなったときに、ストーカーXEが担当するはずだった任務をアルタXに振り替えて実行する、とのシナリオを設定したという。

任務変更の状況判断

もちろん、任務飛行の前には計画を立てて、それに見合った量の燃料を搭載するものであろう。しかし、「戦争で唯一確実なことは、物事は計画通りに進まないということである」なんてことをいう。往々にして想定外・予定外の事態が発生して、計画通りに進まなくなる。

例えば燃料切れひとつとっても、考慮しなければならないファクターはいろいろある。戦闘任務であれば、燃料と兵装を同時に使い果たすとは限らないから、「燃料はあるけど兵装は撃ち尽くした」あるいは「燃料はビンゴになったけれども、兵装はまだある」という場面も起こり得る。

後者の場合、有人の戦闘機や爆撃機であれば、空中給油機で燃料を補給して任務を続行させる選択肢もあり得る。しかしそれは、使える給油機が手近にいて、かつ、安全に給油できる空域を確保できる場合の話。そのいずれか、あるいは両方が満たされていなければ、兵装が残っていても帰還させなければならない。

また、空中給油を繰り返して飛行時間を伸ばせば、搭乗員が疲弊するから、そちらの制約も考慮する必要がある。

それなら、他の機体に任務を引き継がせればいい、と決めたいところだが、これはこれで、引き継ぎに適した機体が近くにいなければ実現できない。対地攻撃をやりたいのに、近くにいるのが偵察機だったり、空対空兵装しか持っていなかったりしたのでは、引き継ぎはできない。

つまり、任務指揮官は「偶発的事態」に遭遇して計画変更の意思決定を行う際に、さまざまな情報を取り込んで状況を把握した上で、最善の、あるいはもっともマシな選択肢を選び取らなければならない。

それをAIで支援しましょう、というのがAI/MCMのキモである。

最後に判断するのは人間

この試験に関するリリースで目を引いたのは、AIは状況に合わせた選択肢をいくつか提示するものの、その中から最終的に一つを選んで実施する判断を下すのは人間である、というところ、AIが勝手に判断して任務計画を書き換えるわけではない。

「コンピュータに勝手に戦争を始めさせるわけにはいかないから、交戦するかどうかの最終的な判断は人間に委ねるべき」は筆者の持論だが、AI/MCMの試験でも同じことをしていたことになる。まさに、コンピュータと人間の役割分担の境界をどこに置くかという問題である。

ただ、この仕掛けが成立するためには、「任務の変更について判断するために必要なデータ」を十分にそろえて、かつ、それをAIに食わせてやる必要がある。そうしないと判断材料が足りなくなって、間違ったリコメンドをする原因を作る。

当該戦域の状況認識は、レーダーをはじめとする各種センサーから得る必要がある。空を飛んでいるものはたいていレーダーで探知できるが、敵のステルス機だと探知は難しくなると考えてかかる必要がある――つまり、敵のステルス機がいきなり出現するという偶発的事態もあり得る。

難しいのは地上の状況で、友軍の位置やステータスを知る手段を用意しなければならない。もっとも最近では、個々の車両や個人に測位システムを持たせて、位置を逐次送信させることで解決されつつあるが。

燃料や兵装の残量みたいなステータス情報は、個々の機体から得る必要がある。有人機が相手であれば、先に少し触れたように搭乗員の疲労というファクターが加わるので、「いま現在の状況」だけでなく、現時点で出撃から何時間が経過しているか、といったデータも欲しいところだろう。

さらに、昼間か夜か、天候は晴れか曇りか雨か、風向や風速はどうか、といった環境要因も、任務遂行の判断に影響する。離着陸でもないのに「風向や風速?」と思われるかもしれないが、攻撃の順番や、攻撃を担当する航空機を侵入させる方向を決める際には影響する。

そしてもちろん、地理的要因も考慮しなければならない。何も考えずにまっすぐ突っ切らせようとしたら山にぶつかりました、なんてことになっても困る。 ともあれ、意思決定に必要なデータを揃えること。そして過去の実例に基づいて的確な意思決定をリコメンドできるようにAIをトレーニングすること。それが、AI/MCMが実用的なものになるために必要な話ではないかと思われる。

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。