第634~635回で、システム化された防空という話を取り上げた。昔の防空システムは、センサーとエフェクターと射撃指揮の機能をひとまとめにして自己完結しており、スタンドアロンで動作していた。

そうではなく、複数のセンサーやエフェクターを指揮管制システムの下に統合して、スタンドアロンのシステムよりも広い範囲の状況を見ながら、全体最適化した防空指揮管制を実現するのが、「システム化された防空」である。その、防空指揮管制に関わる機能が、今回のお題。

  • NASAMSは、車載式のミサイル発射機とレーダーや指揮管制システムの組み合わせで構成する Image : US Army

    NASAMSは、車載式のミサイル発射機とレーダーや指揮管制システムの組み合わせで構成する Image : US Army

ノルウェーで開発したNASAMS防空システム

ノルウェーのコングスベルクが開発した、NASAMS(National Advanced Surface-to-Air Missile System)という防空システムがある。エフェクターとして、RTX社レイセオン部門製のAIM-120 AMRAAM(Advanced Medium Range Air-to-Air Missile)を地対空ミサイルに転用、専用の発射器に載せる。それとレーダーや指揮管制システムを組み合わせて、中射程の防空システムに仕立て上げたものだ。

現在は、基本型のAMRAAMに加えて、射程延伸版のAMRAAM-ER(Extended Range。ちなみに、ERモデルの空対空型は存在しない)や、AIM-9Xサイドワインダーも使えるようになっている。

そのNASAMSの指揮管制を司るFDC(Fire Distribution Center)が、今回の主役。コングスベルクが2025年のDSEI Japanに現物を持ち込んできていた。すでに複数の国で合計200台あまり(2025年11月時点)の納入実績があるとしている。

オープン・アーキテクチャである理由

接続できるセンサーの機種は10機種以上、戦術データリンクの接続も可能だという。当然、オープン・アーキテクチャをうたっているのだが、そうしないと成り立たない理由がある。

  • これがNASAMS用FDC。画面を消すという条件で撮影を許可してもらったので、こんな状態になってしまった 撮影:井上孝司

    これがNASAMS用FDC。画面を消すという条件で撮影を許可してもらったので、こんな状態になってしまった 撮影:井上孝司

実はこのFDC、NASAMSの射撃指揮を行うためだけの製品というわけではない。NASAMSだけでなく、MIM-23 HAWK(Homing All-the-Way Killer)地対空ミサイルと組み合わせることもできる。

  • これがHAWK地対空ミサイル。自衛隊でも導入していたので、馴染み深い製品だろう Photo : US Army

    これがHAWK地対空ミサイル。自衛隊でも導入していたので、馴染み深い製品だろう Photo : US Army

それに加えて、もっと射程が短いエフェクターを用いる、SHORAD(Short Range Air Defence)やVSHORAD(Very Short Range Air Defence)の調整・管制にも使えるとの触れ込み。

さらに、防空大隊の指揮(BOC : Battalion Operation Center)や、さらに上位組織で広い範囲の防空指揮を行うGBADOC(Ground Based Air Defence Operation Center。地上配備防空指揮所というぐらいの意味か)として使うこともできる。

このほか、火力支援の統制や、沿岸防衛システムの指揮管制にも使えるとしている。ただしNASAMSやHAWKは対空用のミサイルだから、沿岸防衛には使えない。沿岸防衛では、同じコングスベルク製のNSM(Nytt Sjønomålsmissil / Naval Strike Missile)対艦ミサイルを組み合わせる。

キーボードとトラックボールの組み合わせ

もちろん、用途が変われば必要とされるソフトウェアは変わるだろうし、コンソールの画面に表示する情報も変わる。これを、目下のテーマである、マン・マシン・インタフェースという観点から見るとどうか。

用途に合わせて画面の内容や操作する項目が変わるとなると、操作系をハードウェアで持つのは好ましくない。例えば、初期のパトリオット地対空ミサイルで使用していた管制盤は、多くの機能を専用のボタンとして配置していた。それでは、用途が変わったり機能が増えたりしたときに具合が悪い。

「それならタッチスクリーンにすれば」という考えも出てくるだろうが、コングスベルクのNASAMS用FDCでは、縦長のスクリーンの手前にキーボードとトラックボールを配置している。

以前に書いたことがあったと思うが、艦艇の戦闘情報センター(CIC : Combat Information Center)に設置するコンソール、あるいは艦橋などに設置するレーダーのコンソールでは、ポインティングデバイスとしてトラックボールを使用することが多い。

トラックボールなら場所をとらないし、コンソールに組み込むから不意の落下事故も避けられる。マウスみたいにケーブルでつながっているわけではないから、断線の原因がひとつ減る。そして多分、タッチスクリーンやタッチパッドよりも細かい操作ができる。

汎用性があるデバイス、つまりキーボードとトラックボールの組み合わせを用意しておけば、用途が変わっても対応しやすい。それに、他の機器でも多用されている組み合わせだから、使う側も慣れていると思われる。

NASAMSのFDCでは、そのコンソールを2台並べてワンセットとしている。こうすれば、2人で担当範囲を分担することも、1人が特定の領域を見ている間にもう1人が全体状況を見ることも、できそうではある。

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。