今回も前回に引き続き、「2024国際航空宇宙展」(以下JA2024)で拾ってきた話題を取り上げてみる。ただし今回は、IFSの出展に関する話をイントロとして、そこから個人的な思い付きを展開してみたい。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照。
業員プランニングとスケジュール管理
例えば、整備作業を実施するのであれば、少ない人手で効率良く作業を終えられる方がありがたい。すると、作業そのものの効率改善だけでなく、作業プロセスの改善という話も出てくる可能性がある。無駄に行ったり来たりして時間を冗費することがなければ、それだけ作業は早く終わると期待できる。
資産管理ソリューションや産業用AIを手掛けており、ことに航空宇宙・防衛分野に強い、IFSという会社がある。同社はJA2024で、日本航空や全日空のブースの近くに展示を構えていた。ちなみに、日本航空はIFSのカスタマーだそうである。
そのIFSでは、効率的な作業計画の立案に生成AIを活用したり、挙動の予測にAIを活用したりしている。サービス要員が複数のカスタマーを回るような場面があるから、従業員プランニングやスケジュール管理なんていう仕組みも用意している。
効率良くサービス業務を実施できれば、サービス業務を提供する側だけでなく顧客にとっても、ありがたい話となる。待ち時間の短縮やダウンタイムの短縮という効果を期待できるからだ。
生成AIというと、テキストや静止画や動画や音声を生成するもの、という先入観を持たれがちだが、「作業計画を生成するAI」という使い方も存在するわけだ。さて。
ミッション・プランニング・システム
軍事航空の分野には、ミッション・プランニング・システムというツールが関わっている。その名の通り、飛行任務の計画立案に使用するツールだ。
例えば、戦闘機を敵地に送り込んで何かを攻撃させることになれば、当然、敵防空網の脅威に直面する。すると、敵防空部隊の所在や装備について情報を集めることで、脅威を避けて飛ぶ経路を立案できる可能性につながる。装備の種類によって威力圏が異なるから、種類まで分からないと具合が悪い。
また、地形や気象条件といった要因もある。レーダーによる被探知を避けて飛ぼうとすれば、低空を飛ぶ方がいいし、山岳地形に紛れて飛ぶ方法もある。しかし、平地ばかりの国ではそうもいかない。
ところが、ステルス機を持っていれば条件が違ってくる。レーダーによる被探知の可能性が下がれば、「低空で、敵防空システムの脅威圏を避けて通る代わりに、高空で敵防空システムの脅威圏をサッサと突っ切ってしまう方がいい」となるかもしれない。
もしも侵攻が敵にバレれば、迎撃のために戦闘機が上がってくると考えられる。すると、「どの地点で探知されて」「どこの基地から戦闘機が何機上がってくるか」というパラメータを考慮に入れなければならない。よしんば敵に進入を覚られたとしても、手近なところに迎撃戦闘機がいなければ、迎撃される可能性は下がる。
ともあれ、さまざまな前提条件を取り込んで飛行経路や時間割を決定、そのデータを何らかの記憶媒体を用いて機上のミッション・コンピュータに送り込む。それを受け持つのがミッション・プランニング・システムである。
-
米軍では、JMPS(Joint Mission Planning System)を用いて航空作戦の計画を立てている。それはともかく、えらく懐かしいWindowsの画面が出てきたものである 引用:DoD
任務計画の生成と、シミュレーションによる事前検討
それなら、ミッション・プランニング・システムにAIを取り込んで、「任務計画生成AI」みたいなことはできないだろうか。
つまり、「任務の内容と脅威に関する情報に基づいて、成果を最大化しつつリスクを最小化する(と期待できそうな)飛行経路とスケジュールを自動的に生成する」のである。
ただし、こういう仕組みが能書き通りに機能するためには、前提条件がある。人手による任務計画立案のプロセスや考え方を、AIが正しく理解していること。そして、脅威や地形・気象などに関する情報が正しいこと。そうした前提が間違っていたら、AIは間違った任務計画を出してきてしまうし、結果として戦死者が出る。
また、任務生成AIが迅速に仕事をこなしてくれるとしても、出してきた結果をどこまで信じていいか、という問題が出てくるだろう。何かしらの事後検証あるいは事前検証の手段が要ると考えられる。
例えば、モデリングとシミュレーションを駆使して、「搭載量が大きい非ステルス機で、敵防空システムの脅威圏外を択んで通りながら目標に侵攻する」と「搭載量が比較的小さいステルス機で、敵防空システムの脅威圏内を突っ切って目標に侵攻する」と、二種類のシナリオをシミュレートしてみる。
低空で脅威圏外を迂回しながら飛べば、当然ながら燃料を余計に使うし、時間もかかる。低空を飛ぶことになると、地面との意図せざる接触というリスクも考えられる。
ステルス性に恃んで敵防空システムの脅威圏内を突っ切れば、それはそれでリスクがあるから、それもシミュレーションを通じて評価する。一方で、高空を最短経路で飛べば燃料消費は少なくて済む利点もある。
そして二者択一ではなく、ステルス機と非ステルス機を組み合わせる選択肢もあり得よう。すると今度は「組み合わせる場合の比率や投入のタイミング、役割分担はどうする」という新たな課題ができて、話が複雑化する。
そこでさまざまなシミュレーションを回し、その結果を基にして「どんな方法を用いれば、最小の犠牲とリスクで、より多くの兵装を叩き込んで任務を達成できるか」を比較検討する。そんなことが可能にならないだろうか。
逆に、事前にシミュレーションによるリスク評価や事前検討をした上で、任務生成AIにデータをぶち込んで計画を立てさせる方法も考えられよう。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。