各種の戦闘空間を個別に扱い、個別に状況を把握して個別に交戦するのではなく、複数の戦闘空間をまたぐ形で状況を認識した上で、最適な手段を選んで交戦する。それがJADC2(Joint All Domain Command and Control)の基本的な考え方。といっても、いきなりそんな大それた話を実現するのは大変なので、まずは軍種ごとの取り組みから話が始まっている。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

米空軍のCMCC

そんな取り組みの一つが、米空軍のCMCC(Common Mission Control Center)。逐語訳すると「共通任務管制センター」だが、それでは意味不明。そこでいろいろ調べ回ってみたら、米海軍が2022年に演習 “Variant Shield 22” (VS22)を実施した時の話が出てきた。

その演習に関する米海軍の記事では、「米空軍の第605試験評価隊・分遣隊3(605TES Det.3)がカリフォルニア州ビール空軍基地のCMCCに陣取り、演習を支援した」としていた。CMCCの仕事は、「戦闘部隊指揮官に対して、最も包括的な形で状況の理解を実現するとともに、複数の戦闘空間にまたがる “効果” を同時進行させる」ことだと説明されている。

つまり、海軍が太平洋上で演習を実施する際に、陸海空およびサイバー空間のさまざまな情報収集手段から得たデータをCMCCが取りまとめて、融合した「状況認識データ」として提出する。陸海空・サイバー空間の状況をバラバラに提示して、それぞれ個別に作戦行動を実施するのではなく、全体を横断・俯瞰する形で見て、対処する。そんなイメージになろう。

そこで重要なのは、「横断的に俯瞰する形で見せる」ことと、それを通じて把握した状況に基づく意思決定を迅速に展開・活用すること。意思決定だけ早くてもダメで、決定した事柄はできるだけ早く実行しなければ、タイミングを逸する。

  • アンドルーズ空軍基地に設けられた、605TESのABMS(Advanced Battle Management System)関連施設 写真:USAF

標準化とオープン化は不可欠

それを能書きで終わらせずに現実のものにするには、標準化とオープン化が欠かせない。関わりがあるセンサー・プラットフォームや情報システムの間に相互接続性がなければ、データの受け渡しが困難になってしまうから、それでは融合以前の問題となる。

例えば、同じ「無人機が収集したデータ」でも、無人機の機種ごとにデータやプロトコルの互換性がないのでは、困ったことになる。他のプラットフォームまで加わると、さらに話は難しくなるのだが、それぞれ個別に部分最適化した開発を行ってきていれば、相互接続性を欠く場面が生じても不思議はない。それを解決するには標準化が必要である。

そこで遡ること7年前、2015年の話を引っ張り出すと。ノースロップ・グラマンのCMMS(Control Mission Management System)チームが、RQ-4グローバルホーク無人機を用いて、無人機のミッション管制機能に関する試験を実施していた。複数の無人機が使用する指揮管制システムの標準化が、主な眼目。

この試験に関する記事では、「相互運用性実現のための新規格であるUCI(UAS C2 Initiative)メッセージ・セットを用いて、RQ-4からCMCCへの接続を実現した」と説明されていた。

CMCCにデータを送り込む無人機が、みんな同じUCIメッセージ・セットを使用していれば、話はシンプルになる。相互接続性の問題を引き起こしたり、それを解決するためにいちいちゲートウェイをかましたり、といった手間を省けると期待できよう。

CMCCからBMCSへ

そのビール空軍基地のCMCCについて、米空軍は2024年3月19日に「ビール空軍基地にBMCS(Battle Management Control Squadron)を配置して、そこにCMCCの機能も統合する」と発表している。

それより先の2023年2月13日に、ジョージア州のロビンス空軍基地で、第728BMCSが発足している。こちらの任務は、米中央軍(USCENTCOM:US Central Command)向けに、24時間フルタイムで、対空監視レーダーのデータを基にしたデコンフリクション、空中給油機の配置指定、戦術偵察といった任務を担当する組織であると説明されている。

ちなみに中央軍とは、中東・南西アジア方面を担当する統合軍で、そのエリアで任務に就く陸海空軍と海兵隊・すべてを統一指揮下に置く。1991年の湾岸戦争でも、中央軍が作戦を取り仕切った。

さて。デコンフリクションとは、友軍同士の相互干渉を回避するためのお膳立てのこと。あるユニットがある地域で何か任務を果たそうとしたら、無関係の別の友軍ユニットが現場にいて任務遂行の邪魔になった、なんていう事態は避ける必要がある。そこで、どのユニットがいつ、どこでどんな任務を遂行するかを割り当てるのが、分かりやすいデコンフリクションの一例。

当然、それをやろうとすれば作戦地域の状況認識は不可欠であるし、どんなユニットがいて、それぞれにどんな命令を下達するか、あるいは、しているかも承知している必要がある。それを一元的に行わないと、「隣は何をする人ぞ」で相互干渉を引き起こす原因ができる。

だから、任務遂行とデコンフリクションを進める過程では、情報の融合と統合化は欠かせない。そして、意思決定の迅速化を支援しようとすれば、AI(Artificial Intelligence:人工知能)や機械学習(ML:Machine Learning)の活用という話も入ってくるかもしれない。

  • ABMSは、空軍でネットワーク化した状況認識・指揮統制を実現する構想で、これがJADC2を構成するピースの一つとなる 引用:USAF

まずは空軍の中でその種のノウハウを積み上げていって、将来的には複数の軍種にまたぐ形に拡張、JADC2につなげる。そんな話ではないかと理解している。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第4弾『軍用レーダー(わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。