今回のお題はレーダーサイトと通信所の立地。

まずレーダーサイトだが、国土防空用の対空監視レーダーを設置した施設、と定義する。有事の際に破壊されたら困るからという理由で移動式のレーダーを用意することもあるが、基本的には陸上に固定設置するものである。

一方、通信所といえば無線通信のための施設を指すのが一般的な解釈だが、ここではそれ以外の通信所も取り上げる。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • たまに、人家からほど近いところにレーダーサイトが設けられる事例もあるが、基本的には辺鄙な山の上に立地することが多い。どちらにしても視界が開けていることが求められる 撮影:井上孝司

航空自衛隊におけるレーダーサイトの立地

航空自衛隊のWebサイトを見ると、我が国には全部で29カ所のレーダーサイトがあると分かる。若干の例外もあるが、レーダーサイトが設けられる場所といえば、辺鄙な山の上か離島が多い。もっとも、レーダーだけ山の上に設置して、それを扱う部隊が陣取る分屯基地は麓に設ける事例もある。

防空のために対空監視を行うレーダーであれば、山岳地形などに邪魔されて死角ができるのは、好ましいことではない。また、アンテナの設置位置が高いほど、水平線・地平線で決まる視界範囲が広くなる。したがって、レーダーサイトは「周囲に邪魔者がない高所」が最善の立地となる。

ただし、山といっても鋭く切り立った形では具合が悪く、なだらかな形状を持つ山がいい。そうしないと、麓から山頂付近に取り付くためのアクセス道路を用意するのが難しい。

そうした事情から、レーダーサイトがわれわれ一般市民の目に触れる事例は極めて少ない。数少ない例外は、大湊の釜臥山に据え付けられたJ/FPS-5レーダーぐらいだろうか。これは天気が良ければ、大湊駅の駅前からでも見える。

もっとも、当事者にしてみれば、目立たない方が任務遂行のためにはありがたいかもしれない。その代わり、辺鄙な場所での勤務を強いられることになってしまうのだが。

  • これが釜臥山の山頂にあるJ/FPS-5。クルマがあれば、かなり近くまで行ける 撮影:井上孝司

アメリカの弾道弾早期警戒レーダー基地

もっとも、辺鄙な場所に大きなレーダーを据え付けて警戒監視任務に従事するのは、なにも我が国に限った話ではない。アメリカでも、弾道ミサイルの早期警戒を担当するレーダーが、アラスカの僻地(失礼)に設置されている事例がある。

それが、BMEWS(Ballistic Missile Early Warning System)やLRDR(Long-Range Discrimination Radar)が設置されている、クリアー宇宙軍施設。アンカレッジから北に350km、フェアバンクスから南西に100kmぐらい離れた場所にある。現地の衛星写真を見ると、近くに小さな街がひとつあるぐらいで、かなり辺鄙な場所だ。

もちろん、レーダーの視界を確保することは重要だが、弾道ミサイル早期警戒レーダーともなるとレーダー自体が大形で、かつ送信出力も大きい。そんな代物だから、人里離れた場所に設置しないと、周囲に住んでいる人が電波の影響を心配することになってしまう。この手の大きなレーダーを設置するとなると、おそらくは地盤の良し悪しも問題になる。

  • クリアー宇宙軍施設に設置されたLRDR。これだけ見るとピンとこないが、高さは20mぐらいある巨大構造物だ 写真:US Space Force

  • そのクリアー宇宙軍施設の空撮写真。周囲に何もない場所だと分かる 写真:USAF

クリアー宇宙軍施設と比べればマシだが、カリフォルニア州のビール空軍基地やイギリスのフライングデールズ基地も、周囲にはあまり人家がない。それだけでなく、基地の敷地内でも他の建物からは離れた場所にポツンとレーダーだけが据えられている。

ビールはアメリカの西海岸だから、想定脅威の方向は北西。フライングデールズはイギリスだから、想定脅威の方向は東方となる。だから、脅威の方向が海に面していると、人家の心配をあまりしなくて済む。

通信所といっても2種類あるが

軍の施設の一つに、通信所がある。機能は名前の通りだが、担当するのは主として遠距離通信となる。今は衛星通信が当たり前になったので事情が違ってきているかもしれないが、昔は長距離通信といえば、波長が長い短波や長波を使用するのが普通だった。現代でも、潜水艦向けの通信では超長波を使用する場面がある。

すると、波長が長い電波に合わせて大きなアンテナが必要になるし、送信出力も大きい。そんな施設を街中に置くわけには行かないので、これまた辺鄙な、かつ死角ができにくい場所に設置するのが通例となる。

同じように通信所という看板を掲げていても、傍受専門ということもある。要するにSIGINT(Signal Intelligence)収集施設だが、こちらはまた条件が異なる。

洋上を動き回れる艦艇や、空中を飛ぶ航空機と違い、地上に固定設置するSIGINT施設は、まずそれがある場所まで仮想敵国が出す電波が飛んできてくれないと仕事にならない。かつ、仮想敵国がある方向に向けて視界が開けていなければならない。そして保全のことを考えると、レーダーサイト以上に人目につきたくない。

そうした事情から、SIGINT収集用の通信所は、自国領土の中でも仮想敵国に近く、かつ、辺鄙な場所に居を構えることにならざるを得ない。

もっとも、警察やその他の対内保安機関が、自国内で活動するスパイが行う無線通信を捕捉する目的で傍受施設を設けるとなると、話はいささか違ったものになる。こちらの場合にはむしろ、都市部ないしはその近隣にひっそりと居を構える方が、仕事になりそうだ。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。