2023年3月に幕張メッセで開催された展示会・DSEIにおいて、BAEシステムズが「Adaptive Strike Frigate」という水上戦闘艦コンセプトの模型を展示していた。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • 「Adaptive Strike Frigate」の模型 撮影:井上孝司

「後ろ半分はコンテナ船」

この「Adaptive Strike Frigate」、一見したところでは普通の水上戦闘艦だが、よく見ると、中央部の上甲板にISOコンテナを並べている。また、それより1層下の甲板には側面にレセス(凹み)があり、無人艇(USV : Unmanned Surface Vessel)などを搭載できる。

そして、艦尾のヘリ発着甲板より1層下の甲板には、艦尾に設けた扉を開いてUSVなどの搭載艇を出し入れできるスペースや、これまたコンテナらしきものが並ぶ。

  • 中央部のクローズアップ。上甲板に並べたISOコンテナや、その下に設けたレセスが見て取れる 撮影:井上孝司

これらは、“Adaptive” という看板と関係がある。つまり、最初から「これとこれの任務に対応できるようにする」と明確に定めて、それに合わせた装備を固定設置するのではない。必要に応じて装備を足したり積み替えたりすることで、さまざまな任務に柔軟に対応できるようにする。

BAEシステムズの説明では、「前半部は水上戦闘艦、後半部はコンテナ船」となる。ただしコンテナといっても、貨物を入れたコンテナを運ぶのではなく、各種の戦闘システムを収容したコンテナを載せて海上戦闘に供する。

という話になると、つい「任務に応じて積み替えられるようにすれば、一つの艦が多様な任務に対応できて費用対効果が良いのでは」と考えてしまうのだが、そうは問屋が卸さない。

積み替えコンセプトの挫折

もともと艦艇の業界では、「任務に応じて搭載兵装を積み替えられるようにする」という一種の変身メカみたいな話が、出ては消え、出ては消えしている。

具現化したポピュラーな事例はデンマーク海軍のフリーヴェフィスケン級哨戒艇で、これは後甲板に載せる装備を積み替え式にしていた。載せる装備はいずれも3m×3.5m×2.5mのサイズに規格化しており、48時間で交換できるとの触れ込み。ところが実際には、いちいち積み替えることはせず、艦ごとに用途は固定していた。

その辺の事情は、米海軍の沿海域戦闘艦(LCS : Littoral Combat Ship)も変わらない。対水上・対潜・対機雷と3種類のミッション・モジュールを用意する構想だったが、積み替えは諦めた。

  • インディペンデンス級LCS「コロナド」の艦尾。ヘリ発着甲板の下にミッション・モジュール用のスペースを確保している様子や、艦尾から搭載艇を出し入れできるようにした構造が分かる 撮影:井上孝司

実のところ、積み替え式にするということは、使わないモジュールが陸の上に残されるということでもある。それはあまり経済的な話とはいえない。

BAEシステムズはすでに、英海軍向けの26型フリゲートで「ミッション・ベイ」というコンセプトを導入している。艦の上甲板中央部に、左右ぶち抜きのスペースを確保して、左右に開口を設けておく。そこにコンテナ化したミッション機材を載せることもできるし、USVを揚搭することもできる。

ただし、水上戦闘艦としての基本機能は固定装備。つまり「積み替えによって用途を変える」のではなく「積み替えによって対応可能な任務の幅を拡げる」という考え方。それをさらに深度化したのが「Adaptive Strike Frigate」といえようか。

  • ロッキード・マーティンがDSEIで展示していた、カナダ向け26型派生型の模型。上構内を左右にぶち抜くミッション・ベイがよく分かる 撮影:井上孝司

積み替えは戦闘システムにも影響する

ここまでは物理的な話だが、艦載コンピュータや戦闘システムの立場から見ると、どういう話になるか。コンテナ化したミッション機材が加わったときに、それが単独で好き勝手に動作するのでは戦闘指揮にならない。

例えば、「サイドスキャン・ソナーを装備した機雷捜索用のUUV(Unmanned Underwater Vehicle)と、機雷掃討用のUSVを追加搭載する」となった場合。UUVがソナーを動作させて得たデータが、追加搭載したコンテナ内の管制システムに閉じ込められていたのでは、艦の戦闘情報センター(CIC : Combat Information Center)から見ると「隣は何をする人ぞ」になってしまう。

得られたデータは自動的に艦の指揮管制システムに取り込んで活用できないと困る。同じフネの上なのに、いちいちCICから電話をかけて情報を聞いていたのではコントだ。

すると、コンテナ化したミッション機材を載せるエリアには、電源と艦内ネットワークの配線を設けておく必要がある。物理的なネットワークがあって初めて、搭載したミッション機材が艦側の指揮管制システムなどとやりとりできる。

もちろん、物理層に始まり上位レイヤーに至るまで、通信のためのプロトコルもそろえなければならない。するとアーキテクチャをオープン化して、「この艦の戦闘システムに接続するためのインタフェース仕様はかくかくしかじか」と情報を開示する必要がある。それがあれば、他のメーカーも追加のミッション機材を用意できる。

艦側の指揮管制装置は、新たなミッション機材を接続したら、そのことを自動的に認識してくれるのが理想。ただ、どんなミッション機材が加わるかについて、最初から完璧に予想するのは難しいだろう。すると、必要なソフトウェアを追加できる仕組みも求められよう。

積み替え・積み増しだけの話ではない

ついつい「コンテナ化」というと「積み替え」とか「積み増し」とかいうことを考えてしまうものだ。しかし、搭載する装備を固定的な陣容にする場面でも、コンテナ化設計は役に立つ可能性がある。なぜなら、「顧客の求めに応じて、さまざまな装備を載せられるようにする」基盤になるからだ。

特定の分野に対応する装備を強化したいという話もあるだろうし、自国メーカーの製品を載せたいという場合もあるだろう。そういう「ニーズの幅」に柔軟に対応するには、最初から「いろいろ載せられる」仕掛けがある方がいい。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第2弾『F-35とステルス技術』が刊行された。