第80回~第83回で取り上げた砲の射撃管制は、せんじ詰めると「撃った弾を狙った場所に正確に当てる」が目的である。ところが、さまざまな要因により、狙った場所に百発百中、とは行かないことが多い。そこでGPS(Global Positioning System)を使用する誘導砲弾が登場した、という話は以前にも書いた。
GPS誘導砲弾の長所と短所
GPS誘導砲弾は、目標の緯度と経度を入力してから、そちらに狙いをつけて撃つ。まるっきり異なる方向に撃ったのではさすがに無理だろうが、多少のコースのズレぐらいなら砲弾の誘導機構が補正してくれるので、命中精度が向上する。
GPS誘導砲弾でポピュラーな製品といえば、以前にも取り上げたことがある、レイセオン・テクノロジーズ製のM982エクスカリバー。そのエクスカリバーは陸戦用の155mm榴弾砲で撃つ誘導砲弾だが、少し小型化した、艦載用の127mm砲に対応するエクスカリバーN5の話が出たこともある。2019年に、さまざまな射程で試射したとの話が伝えられたが、その後の続報がない。
GPS誘導砲弾は、比較的安価に高精度の誘導砲弾を実現できるが、誘導方式の関係から、固定目標にしか使用できない。移動目標では緯度と経度が時々刻々変化しているから、それを事前に入力しておくわけにはいかない。
そういう事情によるのか、それとも命中精度の向上を企図したのか、基本型のエクスカリバーにセミアクティブ・レーザー誘導機構を追加して切り替え可能にしたエクスカリバーSの試射を実施したこともある。しかし、まだ量産契約に関する情報は出てきていないようだ。
MAD-FIRES
移動目標といっても、相手が地上の車両なら大した速度は出ないが、桁違いに速い移動目標を狙う誘導砲弾の技術開発計画もある。
それが、米国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)のMAD-FIRES(Multi-Azimuth Defense - Fast Intercept Round Engagement System)。これは、57mm艦載砲Mk.110(元はといえば、スウェーデンのボフォースが開発した製品だ)から発射するロケット噴進弾の先端に誘導制御機構を組み込んで、艦艇の対空自衛兵装にしようという構想。
MAD-FIRES計画が立ち上がったのは2015年のことで、まずレイセオン(当時)、ロッキード・マーティンのミサイル&ファイア・コントロール部門、ノースロップ・グラマンの各社に、フェーズ0(モデリングとシミュレーション)の契約を発注した。
続いて2016年2月に、レイセオンとロッキード・マーティンに対して、フェーズ1としてリスク低減のための実証試験契約を発注した。そして2017年1月にレイセオンの採用が決まり、実際にモノを開発して実証試験を行う段階に駒を進めて現在に至る。
誘導方式などの詳細は明らかにされていないが、メーカーが作成したビデオから、対艦ミサイルの迎撃を用途に想定していることが分かる。亜音速で飛来するミサイルを57mm砲弾で迎え撃とうというのだから、なかなかチャレンジングな話に見えるし、それだからこそDARPAが乗り出す価値があるといえる。
リリースされている写真を見ると、前後を絞り込んだ砲弾の先端部に誘導制御機構と4枚の操舵用前翼、尾部に4枚の折り畳み式フィンが付いているようだ。フェーズ3でイルミネーターを開発するとの話が出ているので、外部から電波あるいはレーザーか何かを用いて目標を照射、その反射波を用いて誘導するという話かもしれない。
ミレニアムとAHEAD
MAD-FIRESは「一発必中の弾で対艦ミサイルを叩き落とす」というチャレンジングな取り組みだが、もともと砲熕兵器による対艦ミサイル迎撃は、どちらかというと「弾幕を張って叩き落とす」という考えが根強い。
日本でも多用しているレイセオン・テクノロジーズ製ファランクスCIWS(Close-In Weapon System)は、20mmのガトリング機関砲を使い、毎分3,000~4,500発程度のペースでタングステン弾芯を持つ20mm機関砲弾を撃つ。弾幕といっても、第二次世界大戦中のそれとは違い、自前のレーダーと射撃指揮システムを使って精確に狙いをつけるのだが。
そこに違う考え方を持ち込んできたのが、ラインメタル・エア・ディフェンスのミレニアム機関砲とAHEAD(Advanced Hit Efficiency And Destruction)砲弾。ラインメタル・エア・ディフェンスというと馴染みが薄いかも知れないが、旧社名エリコン・コントラヴェスといえば「ああ、あれ」となる方が少なくなさそう。
ミレニアムは単銃身の35mm機関砲を旋回砲塔に載せて、即応弾252発を搭載している。発射速度は、単射、あるいは毎分200発、毎分1,000発のいずれか。ファランクスと比べると弾の数は少ないが、弾のつくりが違う。
AHEAD弾の中には、質量3.3gのタングステン製弾片が152個入っていて、信管が作動するとこれを円錐形の範囲内にまき散らす。そこにミサイルが飛び込んでくれば破壊できるだろうというわけ。一発必中を期する代わりに、多数の弾片で広い危害範囲を確保する発想。
だからといって、ただ単に撃てば済むという話にはならない。飛来する対艦ミサイルの前方に弾片を撒き散らさなければならないから、作動のタイミングが問題になる。すると、射撃指揮システムが発射時に、起爆のタイミングをプログラムする仕組みが必要になる。
つまり、飛来する脅威の針路と速度、それと発射する砲弾の速度を基にして、予想会敵地点を割り出し、その手前で起爆して弾片を撒き散らすようにプログラムしないといけない。そこで、以前にも第150回で書いたように、砲口に設けたインダクタンスコイルを使い、砲弾が飛び出す瞬間にデータを送り込む仕組みを使う。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。