これまで解説したように、砲弾でも爆弾でも爆雷でも機雷でも魚雷でも、信管が作動すると初めて炸薬が作動して、破壊効果を発揮するようになっている。裏を返せば、信管がちゃんと作動しなければ、不発弾になるということである。余談だが、業界では不発弾のことをUXO(uneXploded Ordnance)という。
なぜ不発弾ができるのか
今でも時々、土木工事などの現場で太平洋戦争中の不発弾が地中から掘り出されて騒ぎになり、処分のために陸上自衛隊の処理班が出動することがある。筆者が住んでいる場所の近隣でも何回かそういう事案があり、道路が通行止めになったり、電車が止まったりした。
不発弾処理のキモの部分、そして最も難しい部分は、信管を無効化して取り外すところである。作動させるつもりで調定した信管がそのままになっているのだから、何かの拍子にドカンとこないとも限らない。そういう事態を起こさずに無力化するため、爆発物処理班という、適切な知識を身につけて訓練を受けたプロがいる。
信管さえ無効化して取り外してしまえば、残された炸薬だけが勝手に爆発することはない(はずである)。そういう状態になった爆弾や砲弾は、海中に投棄するとか、改めて爆破して破壊するとかいった手順がとられる。
近年では、非鋭敏性炸薬を使用する砲弾や爆弾(IM : Insensitive Munitions)が増えてきている。火災などに伴う高熱や外部からの衝撃があっても起爆せずに安全な状態を保つ一方で、信管が作動した場合はちゃんと爆発する。という矛盾の塊みたいな炸薬を使用する弾である。
ところで。ちゃんと作動するために設計・製作されているはずの信管が、どうして作動しないことがあるのか。
例えば、撃針が雷管をひっぱたくと作動する仕組みになっていた場合、着弾した時の衝撃で撃針が正しい方向に正しい分量だけ動かないと、雷管をひっぱたいてくれない。時限信管の場合、タイマーが正しく時を刻まなければ起爆してくれない。磁気信管が外部の磁性体に「わるさ」をされる場面があるのは、以前にも書いた通りだ。
つまり、不発弾を発生させないようにするには、確実に作動する信頼性が高い信管が必要なのである。しかし、メカニカルな方法で実現している限り、なにかしらの制約はついて回る。最近の信管は電子制御のものが多いが、これとてメカニカルな部分は残るし、電子制御の部分でバグが発生する可能性もある。
信頼性が高い安全装置も必要
なお、信管には安全装置がついている。なぜか。
砲弾を撃った途端に信管が誤作動すれば、それを撃った砲兵隊が吹き飛ばされてしまう。また、飛行機が搭載している爆弾が飛行中に起爆すれば、搭載機も吹き飛んでしまう。だから、「撃ってから一定時間が経過したら作動する」「投下してから一定時間が経過したら作動する」といった類の安全装置が必要になる。
航空機に搭載する自由落下爆弾では、信管に回転式のプロペラが付いていて、搭載時にそれをワイヤーで固定しておく、という手がある。爆弾を投下するとワイヤーが外れて、プロペラが風で回転を始める。一定の数だけ回転したら安全装置が外れるようになっていれば、母機は安全である。なお、信管が爆弾の先端に付いていないと、この方法は成立しない。
ところが、何かの拍子にその安全装置が解除されないまま着弾すると、これまた不発弾になる。だから、安全装置には「起爆していけない時は絶対に起爆しない。しかし、安全装置の解除を指示したら確実に解除される」という厳しい要求がある。
こちらもまた、メカニカルな方法で実現する方法と、電子制御で実現する方法が考えられるが、それぞれに制約がついて回るのは信管と同じだ。先に述べた「プロペラをワイヤーで固定する」方法の場合、爆弾を投下したときにワイヤーがちゃんと外れてくれないと、安全装置を解除できない。
弾道ミサイルでは、発射した後で一定の加速度がかかったら安全装置を解除する、という仕掛けが考えられる。これはメカニカルな方法でも電子制御でも実現できる。どのみち、弾道ミサイルは誘導制御のために加速度計を必要とするので、その加速度計のデータを使うのがよいだろう。
核兵器みたいに、安全解除コードを入力すると初めて起爆可能になる、というものもある。その場合、正しいコードの情報をあらかじめ内部に持っていて、それと入力されたコードを照合する仕組みが必要になる。その仕組みが確実に作動しないと、とんでもないことになる。
クラスター弾(子爆弾)の難しさ
近年、クラスター弾が人道的見地から槍玉に挙がり、多くの国で使用を止める方向に進んでいる。
クラスター弾とは、爆弾、あるいは砲弾のケースから多数の小さな子爆弾をばらまくものだが、当然、子爆弾ごとに信管を備えていなければならない。そしていうまでもなく、子爆弾の信管でも前述したのと同様に、安全解除と起爆の両方で高い信頼性が求められる。
ところが、物理的なサイズが小さいから、そこに精密で信頼性が高い起爆装置と安全装置を組み込むための技術的要求水準は高くなる。しかも、砲弾や爆弾からばらまかれるという動作内容の関係で、着弾時の子爆弾の姿勢や速度がばらつく傾向がある。それは信管の安定作動を阻害する要因になり得る。
クラスター弾(の子爆弾)には不発弾の比率が高くなる傾向があるが、その背景にはおそらく、こういった事情があると考えられる。
不発のままだと子爆弾の弾体がまるごと残るから、わざと目立つ色にしておいて注意喚起することもある。しかし、それを見る側が「これは危険物だ」と判断できなければどうしようもない。
ともあれ、「本来は爆発するように作られているものが、何かの拍子で爆発せずにいるだけ」のものが不発弾であることに変わりはないから、素人がうかつに近寄ったり、触ったり、持ち出したりしてはいけない。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。