これまで取り上げてきたアクティブ・ソナーとパッシブ・ソナーの話は、基本的には艦艇に取り付けて使用するものを念頭に置いていた。ところが世の中には、使い捨てのソナーという豪気なものもある。それがソノブイである。ソノブイについては第100回でも触れたことがあるが、もっと詳しく解説してみよう。

ソノブイとは

ブイとは浮標のこと。海上に標識代わりに設置したり、艦船を繋留したりする際に使用する。標識が移動してしまったり、繋留用のブイがプカプカしたりすると意味がないから、この手のブイは海底に鎖でつないで固定する。

本来のブイとはこういうものだ

それに対して、本当にプカプカ浮いているタイプのブイもあって、ソノブイもその1つ。ソナーを内蔵するブイだからソノブイという。日本を含む西側諸国で使用しているAタイプ・ソノブイのサイズは、直径5.4インチ(137.2mm)・長さ41.6インチ(1,056.6mm)となっている。

その細長い円筒の中に、アクティブ・ソナーやパッシブ・ソナーを内蔵している。ただし、円筒とソナーが一体化していたのでは海面付近でしか探信や聴知ができないから、着水したらトランスデューサー(アクティブ・タイプの場合)、あるいはハイドロフォン(パッシブ・タイプの場合)をケーブルで海中に降ろしたり、さらに傘の骨組みたいな形で展開したりする。

そのソナー本体だけでなく、ソナーの探知情報を送信するための無線機や、ソナーや無線機を作動させるための電源となるバッテリ、投下の際に速度を抑えるためのパラシュートも内蔵している。

アクティブ・タイプとパッシブ・タイプのいずれも、指向性を備えているタイプと、無指向性のタイプがある。もちろん、指向性を備えているソノブイのほうが便利だが、値段が高い。1980年台半ばの話だが、「ソノブイ1本が乗用車1台分」という話を聞いたことがある。たぶん、今ならもっと高い。

一般にはなじみの薄い機材だから、字面だけで説明されてもピンと来ないかもしれないが、キーワード「sonobuoy」を指定して画像検索をかけてみると、いろいろ出てくるだろう。PDFのブローシャをダウンロードできるので、メーカーの製品紹介サイトを1つリンクしておく。「Download ○○ Data Sheet」とあるリンクをクリックすると、ダウンロードできる。

参考 : All Products from Sonobuoy TechSystems

ソノブイの投下

ソノブイを投下する際に使用する機材がソノブイ・シューター。これについては本連載の第100回で取り上げたことがある。

そのソノブイだが、漫然とばらまくわけではない。最初に、どういうブイ・パターンを構築するかを計画しておいて、それに沿って投下していく。だから、ソノブイ投下を担当する哨戒機は優れた航法能力と、所定の針路に沿って精確に飛んでいく能力が求められる。

例えば、「敵潜が西方から接近してきそうだから、艦隊の西方に、南北に並んだブイのラインを作る」とか、「この地点で潜水艦を探知したから、それを囲むようにブイを投下する」とかいった具合。

そこで無指向性タイプのパッシブ・ソノブイを使えば、潜水艦がやってきて何か音を出すと、それを聞きつけたソノブイが探知報告を上げてくれる。

探知報告を受信した哨戒機の側では、当初に策定したブイ・パターンを基に、「2番ブイが何か聴知したから、その辺に何かいる」という具合に判断を下す。聴知するブイが次々に変わっていけば、それぞれのブイの位置に(だいたい)沿ったコースで潜水艦が移動しているのではないか、という推測が成り立つ。

ある程度、「潜水艦がいそうな場所」を絞り込めたら、そこにアクティブ指向性タイプのソノブイを投下して、機上からの指令によって探信をぶちかます。それで反応が返ってくればこっちのもの。ソノブイを投下した位置と、探信したときに反射波が返ってきた方位、反射波が返ってくるまでの経過時間により、潜水艦の位置を突き止められる。

そして、味方艦の所在に関する情報、探知した潜水艦が発する音の特徴、探知した潜水艦の挙動などに基づいて「敵潜」だと判断したら、戦時なら魚雷や爆雷を投下して撃沈する。平時なら、しつこく追尾を続けたり、発音弾を投下したりして嫌がらせをする。ただし自国の領海内だったら、ちょっと離れた場所に爆雷を投下して、警告して強制浮上させるぐらいのことはあり得る。

ソノブイの位置を把握する

ただ、波や海流の関係でソノブイはじっとしていないから、位置を把握する手段が必要になる。そこで、第100回でも少し言及した、ソノブイ参照システム(SRS : Sonobuoy Reference System)が登場する。

哨戒機の翼端などに複数設置したアンテナがソノブイからの電波を受信すると、アンテナの位置によって時間差が生じるから、それに基づいて位置を割り出せる。

理屈の上では、同じ発信源から来る電波の方位を異なる位置で測定すれば、それぞれの位置から伸ばした方位線が交差する位置が発信源の位置である。そこでP-3オライオンのフライトマニュアルを調べてみたら、胴体下面と水平尾翼下面に合計10基のSRS用アンテナを備えている、とあった。

同じ機上にある複数のアンテナから複数の方位線を引いた場合、アンテナの位置が近接していると、ほとんど同じ方向になってしまうかもしれない。しかし、飛行機はそれなりに速い速度で移動しているから、ある地点での方位線と、別の地点での方位線を組み合わせる方法も考えられる。

もちろん、機体が移動している間にソノブイも波に流されて移動している可能性があるが、飛行機の速度と比べれば桁が違うから、生じるズレは誤差みたいなものであろう。

SRSがなかった時は、第100回でも書いたように、ソノブイが出す電波の向きを頼りにして哨戒機が自ら飛び回って、投下したソノブイをオントップして回っていた。オントップした瞬間にスモーク・マーカー(煙を出す浮標)を投下して目印にするのだが、それをずっと繰り返していると、海面はスモーク・マーカーだらけになる。

もちろん、燃料を使い果たしたスモーク・マーカーは煙を出さなくなるが、そうなったらまたオントップし直して場所をマークしないと、場所を把握できない。

ちなみにP-3Cは、SRSとは別にOTPI(On Top Position Indicator)という機器を備えており、オントップしたときにパイロットの前の計器盤に付いている水平状況表示器(HSI : Horizontal Situation Indicator)に「オントップしたよ~」という表示を出す仕組みになっている。