先にレーダーのアンテナの話を書いてしまったが、実のところ、アンテナといえば最も歴史があってポピュラーなのが、通信機器のアンテナである。ついつい一般には見落とされがちだが、軍事作戦における通信の重要性は極めて高い。だから、通信用のアンテナも地味ながら重要なデバイスなのだ。

ホイップアンテナ、ポールアンテナ

ただ、通信機器のアンテナはレーダーみたいに「特定の方向を狙った細いビームで順次走査」なんていうことはしないのが普通だ。地上・海上・空中で使用する通信では、無指向性のアンテナが一般的だ。相手がどこにいるかわからないのだから。

というわけで、車両や艦艇ではホイップアンテナ(whip antenna)を立てて済ませてしまう場面が案外と多い(航空機でも使っていることがある)。ホイップとは鞭のことで、確かに形が似ている。ホイップアンテナは柔軟性があってしなるものだが、堅い棒状のアンテナ(ポール・アンテナ)を装備する事例もある。

もちろん、アンテナのサイズ(長さ)は、使用する電波の周波数によって違ってくる。周波数が低い電波を使用する通信機器のアンテナは、それだけ長い。すると細くて軽いホイップ・アンテナは使いやすいのだが、細くて軽くて長いアンテナだと、曲がったり折れたりするリスクもついて回る。

陸上自衛隊の89式装甲戦闘車。砲塔後部にホイップアンテナを2本立てている

艦艇はもともとアンテナだらけだから目立たないが、装甲戦闘車両は指揮艦や幕僚が乗っている指揮車両だけ、他の車両よりもアンテナをたくさん立てていることがある。

通信機器が多ければアンテナもたくさん必要になる理屈だが、「アンテナがいっぱい付いている指揮車を狙え !」といって撃たれやすくなるリスクも存在する。指揮車をつぶされた部隊にとっては頭脳を失うも同然、少なくとも指揮系統を再編成する手間がかかるから、攻撃する側にとっては利益が大きい。

なお、空母ないしはそれに類する艦だと、飛行甲板の両サイドにポール・アンテナを立てておいて、飛行機を発着艦させる際には邪魔にならないようにアンテナを外側に倒してしまう構造になっているものがある。

もっとも、アンテナが起倒式になるぐらいなら可愛いもので、昔の空母の中には煙突を起倒式にした艦もあったのだが……おっと、閑話休題。

ヘリコプター護衛艦「ひゅうが」の飛行甲板右側にあるアンテナ。普段は立ててあるが、航空機の運用を阻害しないように、こうやって倒せるようになっている

パラボラ・アンテナ

衛星通信については事情が違い、細いビームで赤道上空の静止軌道上にいる通信衛星を精確に狙わなければならない。だから、無指向性のアンテナというわけにはいかず、パラボラ・アンテナを使用する事例が多い。

UAVだと、機体の外形をきれいに成形しなければ空力的な不利につながるので、機体の内部にパラボラ・アンテナを収容する。しかし、向きは変えられなければならないので、可動式のアンテナをきちんとカバーできるように、機首上部がこんもりと盛り上がった形になる。以前にもどこかで書いたかもしれないが、MQ-1プレデター、MQ-9リーパー、RQ-4グローバルホークといった機体が典型例。

ただ、これらのUAVが使用するKuバンドのアンテナは大型で、かつ可動範囲が広いからああいう形になるのであり、もっと小型のアンテナをコンパクトなドームに納めている事例もある。

最近、Wi-Fiを使って機上からインターネット接続できる旅客機が増えているが(筆者も渡米時に利用したことがある)、この手の機体は胴体背面に小さなドームを設けて、その中に衛星通信用のパラボラ・アンテナを納めている。軍用機でも似たような形のドームを設けている事例がある。

Wi-Fiによるインターネット接続に対応した、アメリカン航空のボーイング787。側面に描かれた「American」の「r」の字がある辺りの上方・屋根上に小さなドームが突出しているが、それが衛星通信アンテナのドームと思われる

陸上で使う衛星通信の地上局は、パラボラがむき出しの折り畳み式が多い。折り畳めないと移動が面倒なのだ。それに対して艦艇では、パラボラ・アンテナをドームに入れて保護する形態が一般的だ。

だから、最近の艦艇では衛星通信用のパラボラ・アンテナを納めたドームが林立する光景が普通になっている(なぜか白いものが多い)。もっとも、米海軍で使っているUHF通信衛星用のOE-82みたいに、むき出しのアンテナを使っているものもある。

ヘリコプター護衛艦「くらま」のOE-82衛星通信アンテナ。真ん中の円盤が輻射器、その向こう側にある茶筒の蓋みたいな物体が反射器。近年では新型のAN/USC-42に取って代わられつつある

ブレード・アンテナ

艦艇や車両では見られない、航空機の専売特許がこれ。その名の通り、板状のアンテナが胴体の上部や下部に突き出ている。見通し線圏内の通信に使用するVHF通信機やUHF通信機のアンテナは、たいていこのタイプだ。

高速で飛行する際にアンテナが変形してしまっては困るし、空気抵抗の元になっても困る。それで、空気抵抗を抑えつつ、所要の強度を持たせつつ、かつ必要なサイズの空中線を確保しようとして、こういう形になった。

下の写真は戦闘機のものだが、軍用輸送機や民航機でもブレード・アンテナを使用している。ただし、図体が大きい機体になると、相対的にアンテナは目立たなくなる。

F-15Jの機首下面に並んだブレード・アンテナ。形とサイズが違うので、用途も違うだろうと推察できる

フリスビーアンテナ

…とは、マニアの間での俗称だが、軍用機の衛星通信アンテナで、円盤状のアンテナを縦向きの板材で支えたタイプのものがある。パラボラ・アンテナと違って固定式だ。

本連載の第164回でE-3セントリーAWACS(Airborne Warning And Control System)機のアップグレード改修について取り上げた際に、同機の写真を何点か掲載した。その中に、屋根上に取り付けられたフリスビーアンテナが映った写真がある。