今回も、レーダーのアンテナに関する話の続きである。目下の軍用レーダー業界における主役、すなわちフェーズド・アレイ・レーダーの話を取り上げることにしよう。

アレイ・アンテナ

リフレクタ・アンテナやスロット・アンテナを使用するレーダーで全周を捜索しようとすると、アンテナを回転させなければならない。指向性が強いのだから当然である。すると、個々の方位について見た場合、捜索は常に間欠的なものになる。例えば、10秒で1周するアンテナであれば、捜索は10秒ごとになる。

探知目標の移動速度が遅い場合は、10秒に1度の走査でも大して問題にはならない。しかし、航空機になると速度が一気に上がってくるし、巡航ミサイルの中には超音速で飛翔するものもある。弾道ミサイルになれば、さらに桁が上がる。

そうなると、間欠的な走査では足りず、継続的に捜索・追尾したいというニーズが出てくる。しかし、特定の方位に的を絞ってよければアンテナを固定することで解決できるが、全周をカバーしたいというニーズに対しては対応できない。言い換えれば、回転式のレーダーでは全周を同時に見ることができない。

これは、機械的にアンテナの向きを変える方法では実現できない。アンテナを回転させれば、必然的に捜索が間欠的になるからだ。そこで登場するのが「フェーズド・アレイ・アンテナ」だ。

これは、複数のアンテナ素子を縦横に、規則的に並べたアンテナ。アンテナ素子ごとに送信のタイミングを変えると、発生する合成波が進む向きを変えることができる。受信の場合、アンテナ素子ごとに受信のタイミングが微妙にずれるので、その時間差に基づいて電波の入射方向を計算する。

これにより、送信する電波の向きを電気的に変えて "振る" ことができるし、受信する電波の向きも計算できる。だから固定式の平面アンテナで上下・左右それぞれ90~120度の範囲をカバーできる。

送信にしても受信にしても位相の違いが関わってくるので、位相配列型アンテナ、すなわち、フェーズド・アレイ・アンテナという名称になる。そして、フェーズド・アレイ・アンテナを使うレーダーはもちろん、フェーズド・アレイ・レーダー(PAR)という。

アンテナ素子の並べ方によって複数のバリエーションがあり、直線状に並べるリニア・アレイ、縦横・平面状に並べるプレイナー・アレイ、円柱状に並べるサーキュラー・アレイ、任意の形状に沿って並べるコンフォーマル・アレイといったバリエーションができる。

一般的には平面配列を使用する。その平面がきちんと保たれていないと、レーダーの探知精度に関わってくるから面倒だ。イージス艦みたいに大きなフェーズド・アレイ・アンテナを装備している場合は、アンテナを取り付ける上部構造物をガッチリ造っておかないと、レーダーがゆがんでしまって使い物にならない。

コンフォーマル・アレイというとなじみが薄いかもしれないが、例えば、飛行機の機体表面にアンテナを埋め込むような形が該当する。以前に本連載第136回において、防衛省の先端技術実証機「X-2」とのからみで「スマート・スキン」を取り上げたことがあるが、そちらを参照してみていただきたい。

艦載用フェーズド・アレイ・レーダーの代名詞といえば、RCA社製(現在はロッキード・マーティン社製)のAN/SPY-1シリーズ。写真は米海軍のイージス駆逐艦「ベンフォールド」が装備しているもの。このレーダーはパッシブ・フェーズド・アレイ

アクティブ・アレイとパッシブ・アレイ

前回に取り上げたFRESCAN方式は、擬似的に位相を変える手段と言える。直接的に位相を変えることができれば、そのほうが話が簡単だ。

そこでフェーズド・アレイ・レーダーの場合、アンテナ素子ごとに位相を変えて送信しているのだが、それを実現する方法は大きく分けると2種類ある。言葉を換えると、個々のアンテナ素子と送信機の関係性による区分とも言える。

それがいわゆる、アクティブ・フェーズド・アレイと、パッシブ・フェーズド・アレイである。

アクティブ・フェーズド・アレイは、アンテナ素子ごとに専用の送受信モジュール(T/Rモジュール。T/RはTransmitとReceiveの頭文字)を持っている。一部のアンテナ、あるいは送受信モジュールが故障したり破壊されたりしても、残りで動作を継続できる利点がある。

同じものなのに分野によって呼称が違うのはよくある話だが、航空機の世界ではアクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーをAESA(Active Electronically Scanned Array)レーダーと呼ぶことが多い。フェーズド・アレイ・レーダーという呼称を多用するのは艦艇の分野だ。

できるだけ小型で、消費電力が少なく、それでいて送信出力が高い送受信モジュールを実現するのが、フェーズド・アレイ・レーダーのキモだ。そのために素材面での工夫がなされている。これまでの主流はガリウム砒素(GaAs)だったが、窒化ガリウム(GaN)に主流が移りつつある。

ヘリコプター護衛艦「いずも」型のOPS-50は、GaNベースのアクティブ・フェーズド・アレイ・アンテナを使用する

対するパッシブ・フェーズド・アレイは、パッシブと言っているが、受信しかできないわけではない。アンテナ素子ごとに送受信モジュールを持つのではなく、1つの送受信機が複数のアンテナ素子を掛け持ちするタイプのことを、こういう。

送信機から送り出した電波は、導波管を経由してつながれた複数のアンテナ素子に枝分かれする。そして、移相器(フェーズ・シフター)によって位相を規定した上で送り出す。その操作を、複数のアンテナ素子について順番に行う仕組み。

つまりパッシブ・フェーズド・アレイ・レーダーでは、1つの送信機が、複数のアンテナ素子をカバーしている。送信機や導波管が故障したり破壊されたりすると、それが受け持っているアンテナ素子が一挙に使えなくなる。だから、冗長性の面では見劣りする。

しかし、小型で十分な出力を持つ送受信モジュールを開発しなくても実現できるので、こちらが先に登場した。イージス艦のAN/SPY-1レーダーは、実はこちらのタイプ。ただし、さすがに新型にしようという気運が高まり、後継モデルとなるAN/SPY-6の開発と、それを搭載する艦の建造計画が進んでいる。

回転式フェーズド・アレイ・レーダー

フェーズド・アレイ・レーダーを3~4面用意すれば、全周を同時に監視できる対空3次元レーダーができる。しかし、多数の部品で構成されるフェーズド・アレイ・レーダーは大きく、重く、高価なものだ。そこで、全周同時監視ができなくなる点には目をつぶり、1面のフェーズド・アレイ・レーダーを回転式にしたケースもある。

フランス海軍やイタリア海軍で使っているEMPAR(European Multi-function Phased Array Radar)は、パッシブ・フェーズド・アレイ・レーダーの回転式。対して、イギリス海軍で使っているサンプソンはアクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーの回転式。

ただしどちらも、回転速度は一般的な対空捜索レーダーより速く、その分だけ頻繁な走査を可能としている。アンテナの平面をそのまま露出させずに、カバーを被せて球形の外見にしてあるので、ちょっと変わった外見だ。アンテナ面の保護や、風を受けたときの空力的な影響を避ける狙いによるのだろうか。

英海軍のミサイル駆逐艦「デアリング」が装備するサンプソン・レーダー。アクティブ・フェーズド・アレイ・アンテナを背中合わせに2面組み合わせて、カバーを被せて球形にしてある。写真では、アンテナ・アレイの輪郭線が僅かに見て取れる