過去3回に渡って、主としてレーダーと通信を対象とする妨害や、それに対する対抗措置について取り上げてきた。これらが電子戦のメインストリームであることは確かだが、実際に電子戦の範疇に属する話はもっといろいろある。

IEDジャマー

IEDとはImprovised Explosive Device、筆者は「即製爆弾」と訳している。つまり、その辺にあるあり合わせのものを組み合わせてこしらえた爆発物の総称だ。

未使用あるいは不発の爆弾・砲弾・地雷を手に入れて改造することもあれば、爆薬からして自家製・手製ということもある。だからアフガニスタンでは、爆薬に転用可能な化学肥料が「御禁制品」に指定された。

問題は起爆装置である。なにしろ「即製」「自家製」だから、そんなに手の込んだ起爆装置は作れない。無線で遠隔起爆させられれば理想的だが、それにはいろいろと電子部品が要る。しかし、イラクやアフガニスタンやシリアに「秋葉原」はない。

だからといって、有線の起爆装置にしたのでは、起爆する担当者がIEDの近くにいなければならないし、電線をズルズル引きずっていればIEDの存在がばれてしまう可能性もある。

そこで目をつけられたのが携帯電話で、これを改造して無線式遠隔起爆装置を作る事例が多発した。これなら、起爆担当者は電波が届く範囲で遠くに引っ込んでいることができるし、ケーブルのような分かりやすい証拠物件を残さない。

そして、特に2003年以降のイラクにおいてIEDが猛威をふるう結果になった。なにしろ、イラクで戦死した米軍兵士に関する統計では、死因の第一位はIEDである。そこで米国防総省では、JIEDDO(Joint Improvised Explosive Device Defeat Organization)という専門組織を作って対策に乗り出した。JIEDDOは2015年7月に、JIDA(Joint Improvised-Threat Defeat Agency)に改組したが、ここでは発足当時の旧称を書く。

JIEDDOによる取り組みの中から出てきたもののひとつが、無線妨害装置、いわゆるIEDジャマーである。IEDを作る側が無線遠隔起爆にするのであれば、その無線を妨害して起爆不可能にしてしまえというわけで、まさに「矛と盾」を地で行っている。当初は「ウォーロック」、現在は「CREW(Counter RCIED Electronic Warfare)」という機材が作られ、広く使われている。

相手は即製爆弾であり、遠隔起爆装置の無線部分も携帯電話の流用が主流だから、イラクなどの紛争地帯で使われている携帯電話の周波数帯や無線インタフェースについて調べれば、妨害の方法を考え出すのはさほど難しくないだろう。実際、携帯電話が使えないように妨害する機材もある。通話を妨害するか、起爆指令を妨害するかという違いだ。

もっとも、携帯電話の改造による無線遠隔起爆が妨害されるのであれば、別の無線機器を使うとか、仕方ないので有線にするとか、新手の起爆装置を考えるとかいうことになるので、IEDをめぐるいたちごっこはなかなか終わらない。

赤外線の探知と妨害

「光波電子戦」というと、何か御大層なもののように聞こえるが、主として赤外線の関連である。いわゆる電波だけでなく、可視光線や紫外線や赤外線も電磁波の範疇に含まれるから、赤外線による探知を妨害する機材を作れば、それもまた一種の電子戦機材に分類される。

その典型例が、前回にも少し触れた、赤外線誘導ミサイルを妨害するジャマーである。短射程の格闘戦用空対空ミサイル、あるいは低空で使用する小型・短射程の地対空ミサイルは、機体そのものやエンジン排気が発する赤外線を探知・追尾するものが多い。だから、その赤外線探知用シーカーをだまくらかせば「ミサイル避け」が可能になるという理屈だ。

たとえば、米軍の輸送機や空中給油機などで広く使われている機材として、LAIRCM(Large Aircraft Infrared Countermeasures)がある。その名の通りに大型機への搭載を企図した製品で、ノースロップ・グラマン社が手掛けている。ミサイル接近警報装置(MWR : Missile Warning Receiver)がミサイルの飛来を感知すると、そのミサイルに向けてレーザー光線を浴びせかけて赤外線シーカーを妨害する。

レーザー警報受信機

紛らわしいが、レーダー警報受信機(RWR : Radar Warning Receiver)ではない。

モノの破壊に使用する事例はポツポツと出始めている程度だが、それ以外の用途でレーザーを使用するウェポン・システムは案外と多い。主な用途は二種類で、「測距」と「目標指示」である。

測距の場合、目標に向けてレーザー光を送信して、反射したレーザー光が戻ってくるまでの時間を測定する。もちろん、レーダーと同様にパルスを送信する仕組みで、送信したら反射が戻ってくるまで聞き耳を立てる。

レーザー測距装置は、戦車を初めとする装甲戦闘車両の射撃統制装置では必須のアイテムである。と思ったら、近年ではゴルフ用レーザー距離計というモノが売られていると聞いて、びっくり仰天したのは秘密だ。

目標指示でもやはり、レーザーを照射して、その反射波を利用する。ただし、問題になるのは所要時間ではなくて、反射波の方位である。ミサイルや誘導爆弾や誘導砲弾が、目標指示レーザーの反射光を受信して、その反射源に向かって飛んでいけば命中する、という理屈だ。

どちらにしても、ターゲットにされた側から見れば「レーザー照射を受ける」→「次は攻撃される」という図式になる。裏を返せば、レーザー照射を受けたことが分かれば、回避機動をとるとか、煙幕などの手段で妨害するとかいった対応行動をとれるわけだ。

だから、特に装甲戦闘車両の分野では、レーザー警報受信機を備えるものが多くなっている。もちろん、全周をカバーできるように複数のセンサーを備えており、照射の有無に加えて、照射してきた発信源の方位も突き止められるようになっている。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。