誰でもLINEスタンプを制作・販売できる「LINE Creators Market」。このプラットフォームが立ち上がったことで、これまでの企業主体のLINEスタンプには見られなかった、個性豊かな「クリエイターズスタンプ」が数多くリリースされています。
この連載では、人気を集めているオリジナルのLINEスタンプを生み出したクリエイターたちに、スタンプのコンセプトや制作時の具体的な作業量、そして売り上げなどを聞いていきます。今回は、パンのようなそうでないような不思議なキャラクターと仏教に即した世界観のギャップが人気を呼んだスタンプ「こむぎこをこねたもの」の作者・Jecyさんにお話をうかがいました。
――最初に、プロフィールと普段のお仕事内容について簡単にお教えください。
メルヘン・ファンタジー、哲学・科学等の題材を絵に描いているイラストレーターです。よく間違われますが男性作家です。
お仕事では、Webサイト、メディアアートや大学の研究プロジェクト、出版物などに使用するイラストを描かせていただいておりまして、昨年マイナビニュース様にも掲載いただいた「Mozilla Bus」の外装デザイン・イラストも担当いたしました。
まだ作品は少ないですが、哲学・科学の世界観を絵本の中に描くプロジェクトも個人として行っており、この世にあふれるさまざまな知を表現に落とし込む方法や、身の回りの物事への好奇心を沸き立たせる作品づくりを模索しております。
――プロフィールに付随して、スタンプや普段のイラスト制作時の作業環境についてお教えください。
パソコン: MacBookPro Retina 13インチ
使用ソフト:Adobe Photoshop CS6
使用デバイス:Wacom Intuos4
その他:モニタはColorEdgeCX240を使用しています。
――「Line Creators Market」でスタンプを制作・販売しようと考えたきっかけは?
前々から、こねたもののLINEスタンプを作れたらいいなとぼんやり考えておりましたので、Creators Marketが始まった時は、やるしかないと思って作りはじめました。
ユーザーからの人気が高い印象があるという「いまはたえるとき…」(左)、「そなたにちからを…」(中央)、「げだつ」(右)。「こむぎこをこねたもの」が悟りの表情を浮かべているような独特の空気感が特徴となっている |
――リリースされたスタンプのコンセプトをお教えください。
こむぎこに みずとか たまごとかをいれて こねこねして できたもの。 それが「こむぎこをこねたもの」です。まるで ぼさつの ような おだやかな表情と 身をていして表現する「みほとけのおしえ」で、今日も人々を導いておられます。
こねたものが誕生したのは2009年頃で、経緯はかなり行き当たりばったりなのですが、まずあのような表情をしたキャラクターを描いてみたいという考えが漠然とあって、ちょうどその頃頭の中を「こむぎこをこねたもの」というフレーズが駆け巡っていたため、そのふたつを合わせてこのキャラクターになりました。
最初に描いた作品はこねたものが作られるまでを描いた絵本だったのですが、その中に「まるで ぼさつの ようだ!」というセリフが出てくるので、世界観を広げていくにあたって仏教の哲学を絡めたキャラクターになっていったという感じです。それからは絵本を自分で製本したり、シールやポストカード等のグッズ、デスクトップマスコットや動画といったコンテンツを制作したりしておりました。
LINEスタンプを制作するにあたっては、今までに描いたこねたもの定番のネタを入れつつ、会話の中で使いやすそうなセリフのものや、シュールさを活かしてニュアンスのみが伝わるようなものを加え、すでにこねたものを知っている方にもそうでない方にも楽しんでいただけるような構成を目指しました。イラストや言い回しとしては、できる限り「こねたものならでは」の表現にこだわったつもりです。
――ラフ段階では全部で何案ほどスタンプ用のイラストを制作されましたか?
「これは必ず入れる」というネタが最初からいくつか決まっておりましたので、全部で60案ほどです。
――スタンプを作るにあたって、イラストを描く時とは異なる工夫をした点を教えてください。
ストックの中から選んで使うという行為や、会話の流れの中に置かれると言う点などが普段描いているイラストと異なる部分だと思いましたので、スタンプの絵を見た時に、前後の文脈が容易に(できれば数パターン)想像できるかどうかに気をつけてネタを選びました。その上で、使う場面が特に定まっていないものもいくつか入れてみています。
――利用した人から「これは便利!」と言われるスタンプの絵柄は?
人によってさまざまではありますが、励ましの言葉として「いまはたえるとき…」や「そなたにちからを…」、大変な仕事や勉強を乗り越えた時に「げだつ」等をよく使っていただいている印象があります。
――ご自身で特に気に入っているスタンプの絵柄はどれですか?
「こねたもの」が何かをひらめいたような絵柄のスタンプは特に気に入っていて、よく使います。イラストとしては「すこしやすまれよ」等が気に入っています。
――「こむぎこをこねたもの」スタンプは多くの絵柄に味わい深いフレーズが添えられています。LINEスタンプは海外展開などを考えて絵だけの物やOKなどのみを絵柄を用いる方もいますが、どんな狙いがあったのでしょうか?
スタンプの中に日本語のフレーズを多用しているのは、もともとこねたものの作品は絵と言葉のセットが基本になっており、日本語独特の言い回しやリズムがあってこその表現も多いため、言葉を削ったり訳したりしてしまうとこねたものらしさを最大限に引き出すことが難しいと考えたからです。
また、Creators Market自体が日本で始まったプラットフォームですので、まずは日本で人気が出たら目立つのではという思惑もございました。とはいえ、個人的な好奇心から販売国には海外も設定しております。
――スタンプを作ったことで変化したことはありますか?
スタンプをきっかけに、新たなお仕事のご依頼をいただいたりしています。こねたものへのオファーもいただき、次なる展開を作っていこうとしているところです。
また、いままでより多くの方にこねたもののことを知っていただき、面白がったりかわいがったり、本物の小麦粉でこねたものを作ったりしてくださっているのを見て、大変うれしく思っております。
――これまでのスタンプの売り上げをお教えください。
ダウンロード数にしておよそ3万DLになります。
――最後に、これからスタンプを作るクリエイターに向けて、ひとつだけ「スタンプ作りのTips(豆知識)」を教えてください。
まずキャラクターありきでスタンプの内容を考える場合についてなのですが、他のキャラクターに置き換えても成り立つ表現になっていないか考えながら作ると、「そのキャラクターのスタンプであること」の説得力は増すのではないかと思います。