Flashアニメ作家・青池良輔がクリエイターになる方法を熱く伝授する連載「創作番長クリエイタ」。連載第24回では、アニメーションの特徴的な技法である「スクィッシュ&ストレッチ」を学ぶ。

スクィッシュ&ストレッチとは?

前回作画の面白さのひとつでもある「詰め」について色々と考えてみましたので、今回はさらにアニメーションの特徴的な技法「スクィッシュ(squish) &ストレッチ(stretch)」を考えてみたいと思います。まぁ直訳すると「押しつぶしと引き延ばし」です。簡単にいってしまえば、動きの中でその物体を押しつぶしたり引き延ばしたりすることで、動きを大げさに描き、豊かに表現しようという技法です。

一番簡単なサンプル、跳ねるボールでご覧にださい。

2種類のボールのうち、形が変形するものは、ボールが地面に点いた時に、その力がギュッとかかることで押しつぶされ、さらに跳ね上がる時に引き延ばされ打ち付けられた力が反発する様に見えると思います。逆に、形の変形しないものは、ビー玉の様に固い玉が跳ねている様に見えると思います。これだけで、ボールの素材感というものも表現で来ていると思いますが、ここでは、柔らかさの表現ではなく、動きのダイナミックさに注目して下さい。これが「スクィッシュ&ストレッチ」の醍醐味です。

このような柔らかで伸びやかな動きは、海外のアニメーション等ではよく見かけることが出来ると思います。実際、アニメーションの楽しさとして、車や飛行機等本来固い素材でできている物を大きく変形させることで、アクションの伸びやかさを表現している作品は多く存在しています。戦闘型ロボットが、ゆがむか歪まないかで面白アニメなのか、生真面目な作品か何となくでも感じ取ることが出来るのではないでしょうか?

基本的に、この「スクィッシュ&ストレッチ」は「動きを大げさに」する手法だと考えてもらって差し支えないと思います。例えば、次に上げるサンプルでは、「箱の中に何かが入っていて、ガタガタ揺れている」、「それに気がついて驚く」、「誰かいないか探す」という流れを、スクィッシュ&ストレッチありと無しとで比較してみたいと思います。

いかがでしょうか? ちょっとしたニュアンスながら、ギャグっぽいテイストが含まれているのを感じられたと思います。このサンプル内の動きの中の「潰す」、「伸ばす」の作画についてですが、単純に通常状態を押しつぶし(y軸スケールを縮小、x軸を拡大)、引き延ばし(y軸を拡大、x軸を縮小)だけでも表現できると思いますが、きちんと動きを考えて作画してみると良いと思います。この場合、シンプルに全体を伸び縮みさせるのとは違い、作画している物体の重心の移動や、追従する動きも関係してくる「予備動作」や「フォロースルー」という手法にも関係してきますので、それらについては次回以降解説できればと思います。

「ポヨンポヨンさせれば楽しげだけど、あんまり使い所無くない?」と言われる人もいると思います。アニメーションのスタイルによっては馴染みにくいということもあるでしょう。ただFlashアニメーションでは、この手法を「力の表現」ではなく、「目くらまし」として使用している場合が、特に海外作品では多く見受けられます。アニメーションの表現より、会話の内容やストーリー運びに重点を置かれた作品では、キャラクターが右を向から左を向く、表情を変える、ポーズを変えるといった、直接羅列すると違和感を感じてしまう瞬間に、この「スクィッシュ&ストレッチ」を挟んで、「ポーズAとBの間にある瞬間的ななんらかの動き」という風に使用しています。ちゃんと考えれば動画作画の手間をばっさり省いた、大変乱暴な方法なのですが、一種のリズム感とキレの良さを出せます。

この方法は、「ポヨン!」や「シュッ!」といったような効果音と合わせて使うとより効果的になります。キャラクターのアクションに細かくSEを入れ、さらに伸び縮みにも印象的な音を入れることで、さらに楽しい感じになります。

なんだが、Flashで製作するアニメーションとはちょっと離れちゃいましたが、こういった手法はアニメーション創世記から代々温められて来ていて、セルでもFlashでも、クレイアニメでも、3Dアニメーションでも応用の効く大切なものですから、どんな形でも一度試してみることをお勧めします。

青池良輔


1972年、山口県出身。大阪芸術大学映像学科卒業後、カナダに渡り映像ディレクター、プロデューサーとして活動。その後、Flashアニメで様々な作品を発表。短編アニメやCFを多数手がける。最新作はDVD『CATMAN』(2008年)、『ペレストロイカ ハラペコトリオの満腹革命』(2008年)。『藤子・F・不二雄のパラレル・スペース DVD-BOX』(2009年)では、 谷村美月主演の実写作品「征地球論」の監督と脚本を担当。森永アロエヨーグルトのWebサイトで、最新Flashアニメシリーズ5作目となる『Boy meets Girl アロ恵』公開中。全国のTOHOシネマズで本編前に上映されている短編『紙兎ロペ』では、アニメーション制作を担当。