妊娠中の方は、カフェインが胎児に悪影響を及ぼすと言われているため、コーヒーの摂取に気をつけてらっしゃる方も多いだろう。そのため、妊娠中でコーヒー好きの方は、カフェではデカフェ(カフェインを取り除いたもの)のコーヒーを注文される方も多いと思う。

そんなデカフェコーヒーは、豆の段階でデカフェされるのが一般的という。そのデカフェ豆は、100%海外輸入に頼っているのが実情のようだ。

三重県にある超臨界技術センターの顧問でもある名古屋大学の後藤元信教授は、超臨界という技術を用いることで、コーヒーのカフェインを取り除く技術を開発した。

今回は、超臨界技術とデカフェについて紹介したいと思う。

超臨界とは?

超臨界をご存知だろうか。ここでは、二酸化炭素について考えたい。

大気圧では、二酸化炭素は固体のドライアイスか気体だろう。アイスクリームのテイクアウトにつけてもらうドライアイスや、コカコーラなどの炭酸飲料を思い出していただくと理解しやすい。

しかし、圧力の高い、高圧ボンベの中では、二酸化炭素は液体の状態となる。さらに、温度と圧力を調整すると、二酸化炭素は、液体でも気体でもない超臨界状態になる。この状態での二酸化炭素を超臨界二酸化炭素と呼び、さまざまなものを溶かすことができるという。

  • 超臨界とは

    超臨界とは(出典:超臨界技術センター)

後藤教授は超臨界状態について、水、二酸化炭素、メタノールに注目しているようだ。

このなかで特に二酸化炭素は、超臨界状態を作り出すことが比較的容易のようだ。というのは、臨界温度は31℃、臨界圧力は72.8atmと水やメタノールと比べて温度や圧力が低いからだ。

超臨界技術を使って、コーヒーをデカフェする!

ではなぜ、後藤教授はコーヒーのデカフェに注目したのだろうか?

次のようなことが想定される。それは、カフェインは覚醒作用、脂肪燃焼作用というメリットもある一方で、妊婦の胎児の発達阻害のほかにも過剰摂取により、不眠、めまい、吐き気などの体調不良の症状が現れる方も多い。ほかにも急性中毒により死亡事例も出ているといった理由が挙げられる。

そしてもう1つは、デカフェコーヒー豆は、100%輸入に頼っている背景がある。日本国内でデカフェコーヒー豆が作ることができれば、もっとフレッシュなデカフェコーヒーを楽しむことができる。

デカフェコーヒーは、焙煎前の豆の段階から処理され、大きく4つのデカフェ除去方法があるという。それは、「有機溶媒抽出法」、「ウォータプロセス法」、「液体二酸化炭素抽出法」、「超臨界二酸化炭素抽出法」。

それぞれメリット、デメリットがあるのでどれが良い悪いというのはないが、超臨界二酸化炭素抽出法を紹介したい。

後藤教授は、超臨界二酸化炭素を利用したコーヒー豆のデカフェ手法を開発した。この超臨界二酸化炭素は、気体の拡散生と液体の溶解性の2つの性質を有しているという。この性質を利用すると、コーヒー豆の成分である糖分、アミノ酸、タンパク質、クロロゲン酸は溶かすことなく、カフェインのみを溶かすことができるのだ。

  • 超臨界二酸化炭素抽出パイロット装置

    超臨界二酸化炭素抽出パイロット装置(出典:超臨界技術センター)

そして、大気圧に戻すと、二酸化炭素は気体となり分離され、コーヒー豆を乾燥させれば、デカフェコーヒー豆が完成するのだ。

  • 製法

    デカフェコーヒーの製法(出典:超臨界技術センター)

しかし、超臨界二酸化炭素によるデカフェの実現はそれほど容易ではなかったという。カフェイン以外の成分も抜けてしまい、最初のころは色や香り、味も納得の行くものではなかったという。

そこで、2005年バリスタ日本チャンピオンの吉良剛氏に風味の監修を依頼し、ついに完成した商品が「DECACO」だ。

この臨界技術センターにて技術開発した超臨界二酸化炭素による“コーヒー生豆脱カフェイン技術”は技術移管され、臨界技術センターの親会社のケー・イー・シーにおいて、DECACOが販売されている。

  • DECACO

    超臨界二酸化炭素で作られたデカフェコーヒー「DECACO」(出典:超臨界技術センター)

いかがだっただろうか。後藤教授は、カフェインを普段摂取する方にもデカフェコーヒーを飲んでほしいとおっしゃっている。 それは、カフェイン自体に苦味があるため、それを除くとコーヒーの味はとてもマイルドになるからだ。デカフェコーヒー豆を100%輸入に頼っている実情も含めて、大変興味深い話題を知ることができた。