2023年1月27日、スイス連邦材料試験研究所(Empa)は、植物由来の原材料や廃棄物を基に、大気中のCO2を永久に固定できる上、断熱材としても機能する"バイオ炭"の開発を検討していると報じている。では、この材料とはどのようなもので、どのようなメリットをもたらすのだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。
Empaが開発を検討する"バイオ炭"とは?
バイオ炭はご存知だろうか。植物や家畜の排泄物などを加熱し炭化させることで、作物の成長を促進したり、汚染水を浄化したりする機能を持った材料のことだ。このバイオ炭は、古くから利用されている。
近年、このバイオ炭に対する注目度は増している。その理由の1つに、カーボンニュートラルへの動きがあるという。CO2が温室効果ガスとして地球温暖化に寄与するため、この大気中のCO2を吸収・固定することで、地球温暖化の対策になるというものだ。
もう1つの理由として、農地で使用される肥料に対するニーズの変化もある。昔は、枯葉や家畜の排泄物などが堆肥として利用されていたのだが、化学肥料の発展・普及とともに衰退していった。しかし、昨今の健康志向の高まり、そして安全性を気にする消費者が増えたことから、消費者が有機栽培を選択する傾向が高まっており、化学肥料の使用や輸出入を禁止する国もあるほどだ。このような理由から、バイオ炭に関する論文の発表数も大幅に増加しているという。
では、Empaが検討しているバイオ炭はどのようなものだろうか。同材料は、植物由来の原材料や農林業の廃棄物を使っており、建物の断熱材などに適用できるという。このバイオ炭を含む断熱材は、植物が成長過程で吸収したCO2を、そのままの状態で特別な熱処理によって永久に固定することができる。
また建物の解体の際は、断熱材としてのバイオ炭を農地に導入すれば、土壌が肥沃になり、数百年から数千年にわたって安定した状態を保つことができるとする。つまり、バイオ炭を建物の断熱材として利用することで、先述した2つのメリットをどちらも実現できるのだ。
しかしEmpaによると、まだこの材料にも課題はあるという。例えば、この断熱材を販売するには、現在市場に出回っている断熱材とスペックを合わせなければいけない。また、十分な防火機能も持たせる必要が出てくる。しかしこのような課題をクリアし、ミネラルウールやEPSといった従来の断熱材に代替することができれば、年間約50万tのCO2排出を抑制することができると試算されている。ちなみにこの量は、スイスにおける温室効果ガス排出量の約1%に相当するという。
いかがだったろうか。このバイオ炭が開発され実用化されれば、カーボンニュートラルの実現はもちろん、農林業や建築業にとってもメリットがあるものになる。とても魅力的なテクノロジーだ。