2023年1月17日、シンガポール国立大学は、VR上におけるユーザーの触覚を大幅に強化・改善するVR用グローブ「HaptGlove」を開発したと発表した。では、このHaptGloveとはどのようなものだろうか。そして、どのようなシーンで活用できるのだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

  • シンガポール国立大学が開発したVR用グローブ「HaptGlove」とは、いったいどのような特徴を持つテクノロジーなのだろうか

    シンガポール国立大学が開発したVR用グローブ「HaptGlove」とは、いったいどのような特徴を持つテクノロジーなのだろうか(出典:シンガポール国立大学)

シンガポール国立大学が開発したVRグローブとは?

VRテクノロジーを活用した多くの仮想空間において、ユーザーが体験するものは視覚や聴覚による要素が多い。そしてユーザーの中には、これらだけでは満足いかない人もいる。そのため今後は、仮想空間に対するニーズとして、より高い没入感やリアリズムが求められるだろう。

そこでシンガポール国立大学は、視覚や聴覚だけでなく、仮想空間における触覚にフォーカスした。そして、例えば仮想空間内において、ほかのユーザーやオブジェクトに肌が触れたとき、それらの動きや感覚をリアルに反映するVRグローブを開発したのだ。それが、HaptGloveだ。

仮想空間やVR用グローブに詳しい方であれば、次のように思うかもしれない。これまでにVRグローブはさまざまなものが開発・発売されてきている中、「HaptGloveはいったいどのあたりが新しいのか」と。

シンガポール国立大学によると、これまで市場に出回っているVR用グローブは、小型の振動モーターを使って、仮想空間上のオブジェクトの形状や硬さを模擬するような仕組みだという。しかしその感覚は、体験として完全ではないという。ほかにも、アクチュエータで圧力を模擬的に発生させるタイプなどがあるものの、どうしても大型化してしまう欠点があり、感覚の面で見ても同様の課題があるという。

  • 5本の指それぞれに管などが伸びているが、どのような仕組みで仮想空間内の触覚を再現しているのだろうか

    5本の指それぞれに管などが伸びているが、どのような仕組みで仮想空間内の触覚を再現しているのだろうか(出典:シンガポール国立大学)

では、このHaptGloveはどのような仕組みなのだろうか。本体は、上図に示した男性が装着しているもので、細かい空気圧制御とマイクロ流体センシングのテクノロジーを活用しているという。指の1本1本にはフィードバック用モジュールが搭載され、ワイヤレスで制御でき、オブジェクトの剛性やサイズ、形状をよりリアルに認識できるという。具体的には、 microfluidic pneumatic indenter(マイクロ流体空気圧素子)がリアルタイムに圧力を操作し、リアリティのある体験をもたらすとする。またこの仕組みは、グローブ本体の軽量化や小型化にも寄与できるといい、実際にHaptGloveの重さはたった250gと、ほかの市販のものよりも200g程度軽いという。

HaptGloveについては、動画も公開されているのでぜひご覧いただきたい。仮想空間内でアーチェリーやチェスをし、またオブジェクトを掴んだりする様子も映し出されている。

シンガポール国立大学が開発したHaptGloveの動画がこちら(出典:シンガポール国立大学)

いかがだったろうか。開発チームは、この没入感を高めるVR用グローブの活用先を、ゲームだけに限ろうとは思っていないといい、その技術を活かして、医療や教育の用途での活用も検討しているようだ。先ほど取り上げた動画でも少し紹介されていたが、例えば外科医の手術に向けた訓練などだ。おそらく将来的には、このように現実と仮想の境界が曖昧になるほどの仮想空間が実現されることだろう。とても楽しみだ。