2023年1月5日、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)は、「SymphNode」という小型の埋め込み式デバイスを使ってがん細胞を殺すマウス実験に成功したと発表している。では、SymphNodeとは、どのようなものだろうか。そして、どのようにがんを殺すのだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

がん細胞を殺す小型埋め込み式デバイスとは?

では、SymphNodeについて見ていこう。この小型埋め込み式デバイスはアルギン酸塩でできており、消しゴムほどのサイズで生分解性のスポンジのようなものだ。使用する際には、がん患部の近くの体内に埋め込むという。

ではなぜ、このデバイスでがんが殺せるのだろうか。がん、その中でも主に固形腫瘍(Solid Tumor)は、制御性T細胞(regulatory T cells)という余分な白血球で覆われていて、この被覆が要因となって人の体による自然な免疫や治療を阻害している。固形腫瘍は、がんによる死亡症例の約90%をも占めており、制御性T細胞はがん治療を困難にしている1つの要因なのだ。

今回開発されたSymphNodeは、制御性T細胞をブロックする薬剤(下図赤色)を体内へゆっくりと放出する。そして、固体腫瘍を殺すためのT細胞(下図青色)を強化するという。

  • がんである固形腫瘍とがんを殺すSymphNodeのイメージ図

    がんである固形腫瘍とがんを殺すSymphNodeのイメージ図(出典:UCLA)

研究チームは今回、乳がんとホクロのがん(メラノーマ)を持たせたマウスを用いて、SymphNodeの実験を実施。その結果、SymphNodeによって乳がんを持つマウスの80%で腫瘍が減少し、100%のマウスでがんの拡大が阻止されたという。一方のホクロのがんを持つマウスでも、すべての個体で腫瘍が減少し、40%の割合で検出できないレベルまで腫瘍が減少したという。また、前述の乳がんのマウスをSymphNodeで治療した後、100日後に再度同デバイスによる治療を行ったところ、腫瘍の拡大を阻止できたというのだ。

なお、この研究成果は、2023年1月4日の『Nature Biomedical Engineering』に掲載されている。

  • 今回の研究に携わったUCLAのMahdi Hasani氏、Manish Butte氏、Negin Majedi氏

    今回の研究に携わったUCLAのMahdi Hasani氏、Manish Butte氏、Negin Majedi氏(出典:UCLA)

いかがだっただろうか。夢のようなデバイスが開発された。このSymphNodeはリンパ節と同じような働きをする。これは、何よりもがんの再発まで防ぐ効果があることが医学的に大きいという。現在、SymphNodeは消しゴムサイズのスポンジのようなデバイスであるが、将来的には注射器で体内へ注入できるように小型化を進める予定だとしている。