N-ARKは、海上ファーム「Green Ocean」の開発に取り組むスタートアップ企業。Green Oceanとは、海水に含まれたミネラルと栄養素を活用できる海水農業技術と、その農環境を実現する耐塩建築を融合させたものだ。では、N-ARKは、なぜGreen Oceanの開発に取り組むのだろうか。今回は、そんな話題について紹介したいと思う。

N-ARKの海上ファーム「Green Ocean」とは?

N-ARKをご存知だろうか。N-ARKは、静岡県浜松市に本社を置き、気候変動で深刻化する海面上昇と塩害課題に取り組むアーキテックスタートアップだ。N-ARKは「ナーク」と読む。彼らは、海に適応する建築を目指している。

近年、気候変動により海面の上昇や台風・豪雨による水害が深刻化している。それならば、「海上建築」という形を採用したらどうか。これが海上ファームの開発に至る着想だ。近代建築が取り組んでこなかった海水、つまり「塩」に対して、その活用方法や防御方法などさまざまな要素技術を組み合わせながら「海上建築」を実現・普及させるのだ。

そしてそのファーストステップとして、N-ARKは海上ファームのGreen Oceanの開発に着手。Green Oceanは、海水を栄養源として作物を栽培できる海水農業技術と、海水農業を成立させる循環型の環境を作り出すフローティング建築技術を組み合わせて構想されたものだ。海水農業技術については、スタートアップ企業であるCULTIVERAとのパートナーシップを締結しているという。

  • N-ARKが開発する海上ファーム「Green Ocean」イメージ

    N-ARKが開発する海上ファーム「Green Ocean」イメージ(出典:N-ARK)

Green Oceanは、海上沿岸部に浮かぶことで、海の上下空間に二つの"グリーン"を生み出す。海の上には、海水農業技術を活用し、食糧生産を目的としたファームを展開。そして海面の下では、藻類を栽培することによって海中環境を改善する。

Green Oceanの建材には間伐材を使用し、木材のジョイントには耐塩性を考慮したカーボンジョイントを採用する予定だという。浮体設備には、特殊塗膜による浮力の増加を想定。特徴的なV字型の屋根は雨水を効率的に取り込むための構造で、雨水と海水を混ぜ合わせることでphの調整と稀釈率を調整し、海水農業の肥料とする。室内温度の調整では、温度が安定している冷たい海水をファーム内の空調に利用する循環的なシステムを採用しており、オフィスや居住空間などとしても活用できるとしている。

  • Green Oceanの耐塩建築技術の概要

    Green Oceanの耐塩建築技術の概要(出典:N-ARK)

いかがだったろうか。今回、N-ARKというユニークなスタートアップに出会うことができた。気象・環境問題に端を発し、その解決に向けたビジネスのストーリーやロジックが素晴らしく、それを実現するために必要なテクノロジーの発想もとても斬新だ。N-ARKは、Green Oceanの開発や、それを拡大する事で海中環境を回復させる沿岸地域開発、2050年までに2億人を超えるとされる気候難民の受け入れにも応用できる「海上不動産」の実現などに取り組んでいくという。興味深い未来が楽しみだ。