東京大学らの研究グループは2022年5月23日、息で個人を認証する技術を開発したと発表した。

この技術は、呼気の化学情報を利用することで、生体認証情報の偽造防止やなりすまし防止などに期待できるという。では、この息で個人を認証する技術とはどのようなものなのか、今回は、そんな話題について触れたいと思う。

息で個人認証する技術とは?

東京大学の長島一樹准教授、柳田剛教授、九州大学のジラヨパット・チャイヤナ大学院生(研究当時)、名古屋大学の安井隆雄准教授、馬場嘉信教授、パナソニックインダストリーの花井陽介主任技師、中尾厚夫主任技師、中谷将也課長らの研究グループは、生体の息(呼気)から得られる化学情報に基づく個人認証の原理実証に成功したというプレスリリースを発表した。

では、この「息で個人を認証する技術」とは、どのようなものなのだろうか。

それは、6種類の高分子材料と導電性カーボンナノ粒子で構成される人工嗅覚センサで呼気をセンシングすることで認証を行う技術だという。

この人工嗅覚センサとは、分子が吸着するとセンサの材料の体積が膨張し、導電性カーボンナノ粒子間の距離が広がることで電気抵抗が増加するといった原理に基づいて標的分子を検出することができるセンサだ。

今回開発したセンサは、異なる性質の高分子材料を活用して多チャンネル化し、多種多様な分子群を検出することが可能。呼気ガスの成分分析で得られた個人識別マーカー分子のセンシングもでき、呼気ガスの濃度範囲(2-10 ppb)で標的分子を検出できるなどさまざまな工夫が施されている。

  • 人工嗅覚センサの様子

    人工嗅覚センサの様子(出典:東京大学)

そして、この人工嗅覚センサから得られたデータ群をAIで機械学習させ分析。20人の個人認証を97%以上の高精度で達成することができたというのだ。

また、同じ被験者に対して別日にサンプリングした呼気においても同様な精度を達成。さらには、年齢、国籍、性別が異なったとしても問題なく個人を識別することが可能だという。

  • 国籍・性別・年齢の異なる6名の呼気センシングにより得られたセンサ応答マップと個人識別の特徴量マップ

    国籍・性別・年齢の異なる6名の呼気センシングにより得られたセンサ応答マップと個人識別の特徴量マップ(出典:東京大学)

同研究成果は、2022年5月20日に英国王立化学会が出版する「Chemical Communications」誌のオンライン版に掲載されている。

いかがだっただろうか。この呼気によるセンシングの強みはなんと言っても生体認証における情報の偽造防止や窃取した情報による長期的なりすまし防止だろう。

この呼気による生体認証はさまざまなシーンで活用されることだろう。近い将来、銀行ATMの入出金、セキュリティーの高い施設への入退出などに何気なく活用されているかもしれない。とても興味深い技術だ。