Acroquest Technologyは、1991年に創業した従業員80名のソフトウェア会社である。同社は2015年2月に、「働きがい」に関する調査・分析を行う専門機関「Great Place to Work(GPTW)」によって「働きがいのある会社」国内第一位(従業員25~99人部門)に選ばれ、また、法政大学大学院の坂本光司教授による「第5回 日本で一番大切にしたい会社大賞」でも審査委員会特別賞を受賞するなど、その職場づくりが高く評価されている。2015年6月に『会社を元気にする51の「仕組み」』を著したAcroquest Technology副社長の新免玲子氏と、組織価値経営部マネージャの鈴木達夫氏に、組織の取り組みについてお話を伺った。

ユニークな制度の数々

――御著書を拝読しましたが、「オーディション研修」「勝負ランチ」「婚活サポート」など、社内の教育やコミュニケーション、健康に関するユニークな施策を数多くなさっていますね。どれからお尋ねすれば良いか迷うほどですが、まずは一番お気に入りの「仕組み」を教えていただけますか?

Acroquest Technology 副社長 新免玲子氏

新免:一番は「花一輪」です。これは、誕生日になった人に全社員が花を一輪ずつ贈る習慣なのですが、当社の24年間の取り組みの中で、 ワン・オブ・ベストだと思っています。失敗していても、年に1回の誕生日はその人が主役になれる日にしたい、と思い発案しました。朝、上司が花瓶を当人のデスクに置いて、出社してきたみんながお祝いしながら花を生けていくんです。けんかした相手であっても、花を渡して「おめでとう」と言うことで、仲直りにつながるという効果もあります。明るい人はオレンジ、個性的な人は紫、と色の傾向があって、理系の会社なのに面白いなと思っています。当日は近くの花屋さんに行列ができますね。

――会社が花の代金を出すわけではないんですね。

鈴木:会社のお金だと、もらう側もあげる側もうれしくないんです。やはり、自分の意志で選んで渡す事が大事だと考えています。

職場近くに住んでもらう

――昔から続いている「仕組み」にはどのようなものがありますか?

新免:「オフィスと家は近い方が良い」という事は昔から言っています。15年前に社屋を鶴見から新横浜に移転したのですが、このときは社員の引っ越し代を補助しました。現在は、徒歩15分圏内に住んでいる社員には特別な住宅手当を出しており、社員寮も近くに4棟あります。オフィスと家が近ければ、会社としても、通勤手当を払わなくてすむというメリットもありますが、なにより、通勤ラッシュに巻き込まれずに疲れなくて済むという社員の健康を考えてのことです。

――仕事とプライベートを分けたいという考えもあると思いますが、どのように受け止められているのでしょうか?

新免:職住近接だからといって、べったりしているわけではありませんし、仕事で分からなかったことを寮の先輩に聞けるなどのメリットがあります。以前は、社員用シェアハウスに一緒に住んで、そこから大学に通っている内定者もいました。当社に入ってくる社員たちは仕事とプライベートを分けるというより、うまく活用しているようです。

会社設立時からの思い

――どういったきっかけで、「働きがいのある職場づくり」を目指そうと思われたのでしょうか?

新免:実は私、会社を設立する前に8回も転職しているんです。たくさんの会社を経験する中で、社員が嫌な経験をせずに、楽しんで出社する会社を作りたい、という思いが高まり、社長と二人で立ち上げたときには方向性がもう固まっていました。

――IT業界は特にストレスを感じる場面が多いと思います。

新免:特に社員のちょっとした顔つきの変化に常に気を付けています。それから、寮長や先輩からも、社員の様子について情報が上がってくるようにしています。何かあれば達夫さんは深夜でも駆け付けてくれますよ。

鈴木:以前、失敗続きで「自分には価値が無い」とまで思ってしまった社員がいました。そんな事は無くて、いいところがたくさんあるのですが、客観的に自分が見えなくなっていたのでしょう。彼の住まい近くのファミレスで深夜に会って話をしたところ、翌日から頑張ってくれるようになりました。いまでは彼にしかできない部門を、責任を持ってやってもらっています。

全社員参加型のミーティング

――福利厚生を充実させる事はコスト増ともなりますが、それについてはどのようにお考えでしょうか?

Acroquest Technology 組織価値経営部マネージャ 鈴木達夫氏

新免:社員は財産なんです。社員が倒れたら元も子もありません。「いかに健全に活躍してくれるか?」という事を考えていく方が重要です。

鈴木:大手企業のように、売上の何%が福利厚生という考えはありません。必要のあるものは出しますし、必要の無いものには1円も払いません。

――必要かどうかは、どのように判断しているのでしょうか?

新免:どんな提案も、月に一度開催され、全社員で話し合う「MA(Meeting of All staff)を通じて決めています。会社の経営方針も、ちょっとしたレクリエーションの企画でも、私たち上司筋が勝手に決めるのではなく、全員に諮らないといけません。だから「この制度いらないよね」と言って消えていくものもたくさんあります。ゴマンと出てくる提案の中から、生き残ったものが今の「仕組み」なわけです

――さまざまな「仕組み」をブラッシュアップするための、重要な場がMAなのですね。しかし、全員参加して、全員の承認を得るというのは大変ではありませんか?

鈴木:議論は思ったよりも早いですね。理系社員が多く「なぜそれをやるのですか?」「メリット・デメリットは何ですか?」「実行するときには誰がどれくらい動くのですか?」と論理的な思考と話し合いに慣れている事が大きいと思います。それでも、白熱すると7,8時間を越える事もありますが。

社内の本棚。社員が購入した書籍が集まり、誰でも自由に読めるようになっている

新免:当社は2001年から全社禁煙にしているのですが、禁煙できない人に対する面白い仕組みがあります。タバコを吸いに出かけているときに、その人あてに電話がかかってきたら、1,000円の罰金を支払わなければなりません。罰金は懇親会に寄付されます。この仕組みも、上が勝手に決めたわけではなく、「タバコを吸わない人には発生しない機会損失だよね」と、喫煙者も含めて全体会議で話し合ってルールをつくりました。とことん話し合って、みんなが納得することで、一体感を持って前に進むことができます。

また、全社員の前で自分の意見を言うことは、ある意味スポットライトが当たることでもあります。「ああ、自分はこの会社にポジションがある」と分かるわけです。そういうことって大きいでしょう。一人ひとりにスポットライトを当てる、そういう精神的な充足が、良い働き方につながると思っています。

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社員とのコミュニケーションを重要視するAcroquest Technology。後編では、同社が活用して成果を上げているある"ツール"と、将来のビジョンについてのインタビューをお届けする。