ソフトウェアメーカーとしての環境対策

製造業における環境戦略は、一般的に生産活動におけるCO2排出量の削減などが柱になる。だが、同じ製造業とはいえ、ソフトメーカーの場合、生産活動におけるCO2排出量の削減効果はそれほど大きくない。開発拠点が入居するオフィスにおけるエネルギー効率の向上、開発に使用するサーバの統合などによる省電力化が柱になるという点では、一般的なオフィスとほとんど変わりはない。

Microsoftも置かれた立場は基本的には一緒だといえる。

同社では、ソフトウェアによる直接的なエネルギー削減を実現する「Green of IT」、ソフトウェアによるイノベーションとして「Green by IT」のキーワードとし、社内におけるCO2排出量の削減、そして、Microsoft製品を活用した利用者に対するCO2排出量削減寄与の両面に取り組む。

具体的な方針として取り組むのは、「ITを活用したエネルギー効率の向上」「技術的進歩の礎となる研究開発」「環境に対する責任ある企業活動」の3つの柱だ。

Microsoftがワールドワイドで取り組む環境への取り組み

Windows 7による消費電力の削減や、Windows Server 2008 R2などで提供される仮想化技術のHyper-Vなども電力消費の削減につながるほか、ボリュームライセンスプグラムの受け取り方法を、CDやDVDからダウンロード中心とすることも環境対応につながるという。細かなことをいえば、検索サービスのBingで取り組んでいる、少ないクリック数で目的の検索結果に到達するという成果も、全世界の人々がクリック数をひとつ減らすだけで環境成果につながるという言い方ができよう。

そして、社内での取り組みとしては「Go Green活動」がある。2009年度の活動では、使用しているPCのスリープおよび休止モードの利用促進や、会議室の標準空調温度を設定し、これを案内シールによって注意喚起するといったことなどがある。

社内でのグリーン化も同時に進めるプロジェクト「Go Green活動」

Microsoftの目標値がきびしいワケは…

Microsoftでは、製品売上高に対するCO2排出量を、2012年までに、2007年比30%削減する「意欲的」な目標を、グローバルの環境戦略として掲げている。この目標を「意欲的」とするのも、実は、ソフトメーカーとはいえども、今後はその枠を超える課題がMicrosoftには突きつけられているからだ。

というのも、Microsoftは今後の方向性として、「ソフト+サービス」を掲げている。ソフトの領域は、これまでのビジネスの延長線上だが、サービスの領域においては、クラウドサービスである「Asure」、検索サービスの「Bing」など、新たなサービスが相次ぐ。Office 2010でもWebを通じたサービスが予定されており、これも「ソフト+サービス」の具現化につながる。

そして、これらのサービス事業を展開するために、Microsoftは急ピッチでデータセンターの増設に取り組んでいる。同社によると、現在月1万台のペースで、データセンターのサーバを増強しており、これに関わる電力消費量の増加は並々ならぬものがある。当然、CO2排出量も増加するということになる。

Microsoftの場合、原単位での目標設定のため、CO2排出量が増加しても、それを上回る形で売上高が増加すれば、目標を達成できる可能性がある。だが、原単位とはいえ、30%削減という目標を達成するには、CO2排出量の削減に積極的に取り組まなくては実現できないものだ。

同社では、ワシントン州クインシーに開設したデータセンターにおいては水力発電だけを利用することでカーボンニュートラルを実現。サンタフェのデータセンターでは、雑排水を冷却システムに使用し、水とエネルギーの両面からの削減に成功。最新のアイルランド・ダブリンのデータセンターでは、コンテナ型のデータセンター方式を採用し、外気利用や効率的な冷却装置の導入、再生可能エネルギーの活用などによって、従来のデータセンターに比べて50%ものエネルギー削減を実現したという。

マイクロソフト日本法人が10月から稼働するマイクロソフト大手町テクノロジーセンターは、データセンターではないが、検証用などに300台のサーバ、300台のワークステーション、500TB以上のストレージを配置している。ここでも、数々の環境対策を施し、エネルギー削減に取り組んでいる。たとえばサーバは、2列ごとに背中合わせに設置され、それぞれのサーバの間に空調設備をおくことで排熱の拡散、冷却効果を高め、空調コストを2 - 3割削減できるという。

いずれにしろ、Microsoftfにとって、データセンターにおけるエネルギー削減は、同社の環境戦略において、きわめて重要な意味を持つことになる。Microsoftの環境戦略は、単なるソフトメーカーの環境戦略とは異なる視点で捉えなくてはならない。