交通渋滞で年間12兆円が消える!?

8月27日、東京・芝公園のザ・プリンス パークタワー東京において開催された「IBM Smarter Planet Forum」でSmarter Planetを説明する日本IBMの橋本孝之社長

世界中にはたくさんの無駄があり、非効率なことがたくさんある。これを解決していくことが、我々に課されたテーマである - 日本IBMの橋本孝之社長はこう切り出す。橋本社長が語るのは、ITに関する無駄や非効率の話ではない。社会全体がもたらす無駄や非効率の話だ。

たとえば交通渋滞。日本だけで見ても、年間38億時間、1人あたり年間30時間が渋滞によって無駄にされており、これを費用換算するとなんと12兆円の規模になり、GDPの2%相当にあたる費用が無駄になっているという。

また、北米の小売業においては、在庫切れによる機会損失が9兆3,000億円に達していること、世界の飢餓人口が9億6,000万人にも達しているのに対し、日本では9,000万トンの食料のうち21%が廃棄されている実態などを指摘する。

さらに社会的問題もある。110年前の1900年の世界人口は17億人であったものが、現在の世界人口は64億人と3倍になり、水の使用量が6倍に増加している。これが2050年には90億人の規模が想定され、それに向けて、世の中の仕組みそのものの変化が求められることになる。

橋本社長が「効率化や無駄の排除は避けては通れない問題」とするのは、こうした問題が、交通、油田、食料生産・流通、医療、送配電網、小売・サービス、水管理、サプライチェーン、国家、天気、土地管理、都市といった、社会全体における数々の分野で見られているからだ。

地球上に存在する数々の無駄 - 次世代のためにも、これらをなくしていくことは我々の世代の義務である

3つの"I"で地球をかしこく、スマートに

IBMでは、こうした問題を解決するために「Smarter Planet」の考え方が必要だとする。

Smarter Planetは、日本では今年2月に宣言されたIBMの新たなビジョンである。これまでに、「e-business」や「パーベイシブコンピューティング」といったビジョンを掲げてきたIBMが、新たに打ち出したキーワードがこの「Smarter Planet」ということになる。

2008年秋のリーマンショックでも明らかなように、米国で発生した金融危機が、予想を上回るスピードで世界中へと広がり、日本経済にも大きな打撃を与えた。これは、世界がスモール化、フラット化していることの証であり、それを前提とした仕組みづくりが世界規模で求められているともいえる。

世界環境が変わることで、これまで以上に「スマート」、いわば「賢い」惑星になることで、より良い世界へと変化しようというのが「Smarter Planet」の基本的な考え方だ。

前提となるのが、Instrumented(機能化)、Interconnected(相互接続)、Intelligent(インテリジェント化)の3つの「I」。携帯電話利用者が2008年には全人口の60%にまで普及したこと、2010年には330億個のICチップが利用されること、2010年には19億人のインターネット接続利用者に増大することなど、インフラの大きな変化がこれを支えることになる。

そして、Smarter Planetを支える要素には、「ニュー・インテリジェンス」「スマート・ワーク」「ダイナミック・インフラストラクチャー」「グリーンと企業の社会的責任」の4つのテーマがあり、これらを具現化することで、無駄や非効率という点での解決が図れるという。

Smarter Planetを支える4つのテーマ

世界はもっと、スマートになる!

「Smarter Planet・第1章」の幕開け

Smarter Planetによる具体的な解決例をいくつか紹介しよう。

先に紹介した渋滞解消においては、ストックホルムやロンドン、シンガポールにおいて、市内に入る際に、ICチップを利用した課金、あるいはナンバープレートをカメラで認識することで運転者に課金する仕組みを導入。これにより交通渋滞を緩和しているという。また、犯罪に関するすべてのデータから、逃走経路などを予測し、検挙率をあげるという実績がニューヨーク市で出ているという。これはサンプリングデータではなく、すべてのデータという点で精度が高くなるのだが、それを分析する高度なコンピーティングパワーと分析能力によって実現されるものだ。

また、日本では、次のような例があるという。

ひとつは、引っ越した際に、銀行口座の住所変更を1つの銀行に行っただけで、複数の異なる銀行の住所変更も同時に行うための実証実験が30以上の金融機関が参加して開始されており、しかも集中センターを利用するのではなく、SOAによる標準インタフェースによって実現するという。これも利用者/金融機関にとって、ともに無駄を省くことができる仕組みだ。

さらに、オムロンでは国内のトラック輸送でIBMのアルゴリズム技術を利用して、最もCO2排出量が少なくなる輸送ルートを算出し、30 - 40%のCO2削減を実現しているという。

一方、米国では、米IBMのサミュエル・パルミサーノCEOは、今年1月のオバマ政権が発足にあわせて、医療IT、電力送電網、ブロードバンド通信網の3つの分野においてスマート化を推進することを提言。300億ドル(約3兆円)をこれらの分野に投資することで100万人の新規雇用を1年間で生み出せるとし、オバマ大統領もこれを前向きに検討する姿勢をみせているという。

このように、ITを利用して世の中を豊かにし、雇用を創出し、住みやすくすることがSmarter Planetの実践ということになる。橋本社長は、「Smarter Planetは、第1章に入ったばかり。これからは、ITを活用することで、賢い地球を作ることに邁進する」と語っている。今後、Smarter Planetに向けた技術、製品、サービスが、IBMおよびパートナー会社から次々と登場することになるだろう。