ゲスの呪いと2次創作

秘書による金銭授受を巡る騒動で、大臣を辞任した甘利氏。これにより影響がでるかもしれないのが「2次創作」の世界です。

既存の漫画作品やゲームをベースに作られた作品を指し、ぶっちゃけていえば「パクリ」です。しかし、著者も出版社も、その多くを黙認してきました。理由は、「2次創作」からプロになった作家が多く、何よりオリジナル作品への敬意を出発点としているからです。

甘利さんが主導していた「TPP」では、被害者の訴えによる「親告罪」だった著作権が、捜査機関が摘発できる「非親告罪」になるとされていました。いったんは親告罪のままとされていますが、締結までに「2次創作」が摘発対象になる可能性は捨てきれません。TPPの最大相手国である米国は、浦安のテーマパークに代表される著作権ビジネスの権化です。タフネゴシエーターと鳴らし、大臣時代「非親告罪化を制約なしに認めることはない」と国会で答弁している甘利さんならともかく、後任の大臣では、交渉力・調整力に不安しか見つかりません。

そもそも日本人は伝統的に、パクリに寛容な文化です。「トランジスタラジオ」や「自動車」の例を引くまでもなく、模倣する能力に長けており、「猿まね」と揶揄されながらも世界有数の経済大国に登り詰めました。ただし国内における「パクリ」には作法があり、これを間違えると、わずか数日で120万人のフォロワーが消失することもあります。

やらかした語り部

お洒落な言葉や格言、雰囲気のある写真をツイートしていたあるアカウントは、120万人を越える若者にフォローされていました。しかし、何度も「パクツイ」が噂される疑惑のアカウント。「パクツイ」とは「パクリ・ツイート」の略で、他人のつぶやきや、写真、イラストを無断無許可で投稿する行為で、侮蔑的意味合いが含まれます。

とはいえ、SNSのアカウント画像に使用される、アニメや漫画、タレント写真のほぼ100%が無許可で、「パクリ」が常態化しているのがネットの世界です。批判されながらも放置されていました。

そんなアカウントの「中の人」が、ネット媒体の取材を受け、批判に対して「つくる側の人間だから、常に批判される立場にいるんだろうなと思う」と答えたことで大炎上。「お前が言うな」「パクツイのくせに」と。

名言や格言をまとめ、方向を与えて「作品」にするという手法はあります。これも「つくる」と言えなくもないのですが、何しろこのアカウント、引用元を明記しないこともあり、他人の作品に別の解説を重ねてみたりと、オリジナルへの敬意が感じられない「パクリ0.2」だったのです。このインタビューの公開後、秒単位で百人規模のフォロワーが減っていき、追い詰められたのか、スパム報告によるものなのか、アカウントは停止され、その瞬間に120万人のフォロワーが失われました。

日本人のパクリとは

学ぶという言葉は「真似る」が変化したものとされ、書道はお手本の模写からはじまり、空手などの武道も「型」の反復練習を基本とします。日本人が培ってきた学習プログラムには、反復という「パクリ」が備わっているのかもしれません。しかし、日本人が日本人たる理由は、安直な「パクリ」で終わらせず、より良いものへと工夫を凝らすところにあります。

工業製品はもちろん、最も日本人による「パクリ」を象徴するのが「ラーメン」です。「支那そば」「中華そば」と呼ばれるように、元は中国の食べ物を日本で改良を重ねた結果、発祥の中国に「日式拉面」として逆輸入されています。また、ポルトガル語であった「天ぷら」は、いまや日本料理として世界に羽ばたいています。

一方で日本人は、ラーメンが中国で生まれ、天ぷらがポルトガルから輸入された言葉であるという記憶を受け継ぎ、語り継いできました。昭和時代に、卒業式の定番ソングだった「蛍の光」「仰げば尊し」も外国に起源があることを、多くの日本人が知っており、前者は朝ドラ「マッサン」で英語の歌詞の劇中歌となっていました。日本人におけるパクリとは、オリジナルへの「敬意」を前提にしており、これは2次創作における概念と志を共にしています。

それは特殊なことで

先のアカウントが炎上したのは、「敬意」の決定的な不足であり、パクツイした他人の言葉を、自分が生み出したかのように語り、なおかつ火元となったインタビューで紹介された「例え話」も、別の人のパクリ疑惑があるのですから重症でしょう。

この騒動で思い出したのがお隣の韓国。かの国ではさまざまな「オリジナル」が生み出されているようで、韓国語で「我々」を意味する「ウリ」と重ねて「ウリジナル」と呼ばれています。例えば「剣道」や「柔道」も韓国発祥と主張し、それは民間の与太話ではなく、韓国最大の剣道団体が主張しています。

さらにウィキペディアによれば「折り紙」も、かけ声の「わっしょい」もやはり半島生まれ。さらに「ガンダム」といえば架空のロボット全般を指すと、韓国の裁判所が判決を下したといいます。それどころか最近では「日本語」も、韓国発祥と主張する大学教授までも現れています。

なお、韓国鉄鋼大手の「ポスコ」が、技術をパクッたと中国企業を訴えたら、もともと日本の新日鉄住金の技術をパクったものと白状し、ポスコは日本側に和解金を支払うハメになりました。だからどうしたという訳ではありませんが、そういう騒動があったとだけ添えておきましょう。

エンタープライズ1.0への箴言


日本ではオリジナルへのリスペクトのないパクリはダメ

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」