ネットで脱法を宣言

東京浅草の三社祭で「ドローン」を飛ばそうとしたとして、15歳の少年が威力業務妨害で逮捕されました。「補導」ではなく「逮捕」に、少年の悪質性が滲みます。全国的なニュースとなった「善光寺」でのドローン墜落事件も、この少年による「犯行」で、今月14日には国会近くの区立公園からドローンを「飛ばそう」として警察に補導されており、そのすべてを「ネット配信」していました。

警察官が近づき注意をしても屁理屈をこね従わず、自宅に戻されてからも執拗な警察批判を配信し続け、そんな息子を嘆く母の言葉に「これからも法律を破る(発言要旨)」と、カメラの前でほぼ全裸で宣言していたのが15才の容疑者N。いわば「常習犯」です。

三社祭では、主催者側の「ドローンの自粛」の呼びかけにも、「撮影禁止とは言っていない」と屁理屈をこね、ネット上で「犯行予告」をしていました。ドローンには墜落のリスクがあることは、容疑者自身が「善光寺」で証明したことです。容疑者を野放しにし、三社祭に足を運んだ観光客の頭の上に落下したら、警察批判が巻き起こる……というよりも「容疑者保護」のための逮捕だったとは深読みしすぎでしょうか。

追い詰められた少年

犯罪の動機は「お金」です。Nは追い詰められていました。ネット配信で収益を得る方法は「広告」と「スポンサー」。前者は映像と共に表示される広告がクリックされたときに得られ、後者は直接映像提供者に支払われます。あまり知られていませんが、動画投稿の「ユーチューバー」や、ブログ執筆の「ブロガー」の生活は、大口の「スポンサー」が支えているケースが少なくありません。

Nが飛ばしていたドローンは、15万円はすると見られ、中学を卒業したばかりの「ニート」が入手できた理由を、より過激な映像を望む「スポンサー」の資金だと「週刊文春」が紹介します。犯行を広言するNへの資金提供は「共犯」として罪に問われる可能性もあると、大澤孝征弁護士がテレビ番組で指摘します。

これが理由でしょうか。Nの信者を名乗る成人男性が「パソコン購入資金を提供した」と出頭します。「ドローン」ではなく「パソコン」への資金提供で、罪の免除を狙っているのでしょうが、類は友を呼ぶという言葉が浮かんで消えません。

Nの配信する違法・脱法映像は、動画配信サービス各社の内規に触れ、次々と「BAN」と呼ばれる放送禁止措置がとられていきました。コンプライアンスが叫ばれる昨今、違法性が疑われる動画の寿命は短く、つまりは「稼ぐ場所」をなくしつつあったのです。そこで「三社祭」での「犯行予告&実況中継」で一発逆転を狙ったのでしょう。

公園の撮影は2万円

国会近くの公園で「犯行準備中」に警察官に囲まれたときも、「公園内に撮影禁止と書いていない」と、主張していました。

三社祭が「撮影禁止」と掲げなかったのは、観光地でもある「浅草」で、祭りはもちろん、観光客の私的な撮影を禁ずることなどできないからです。それはNがドローンを飛ばして、自由に撮影して良い理由にはなりません。

なぜなら、Nの「ネット配信」とは収入目的で、それは「営利活動」です。所有地以外での「営利目的の撮影」には、地権者や管理者の許可が必要となるからです。

撮影に許可が要る理由を、占有される場所の安全確認のためだと、Nがドローンを飛ばそうとした公園を管理する自治体は説明します。その費用として1時間当たり2万円弱の費用が必要だと公式サイトに掲載されています。公園内に記載は無くとも、公式サイトには明記されており、正規の手続きをとっていないNが、営利目的で撮影する資格も権利もない「配信0.2」です。

公道なら所管する警察署、公園なら自治体ですし、私有地なら所有者か管理者の許可が求められます。ただし、場所や遊具を占有しない、私的な撮影なら許可は不要です。

三社祭のヒーロー

先のテレビ番組では、少年への逮捕を「やりすぎ」と批判めいて語る女性コメンテーターもいましたが、逮捕はNを保護するためかもしれません。場所は浅草。そこは下町。祭りとなれば、血が沸き立つのが「やんちゃ」な人たちで、地元客分プロアマ問わずに集結し、良くも悪くも祭りを盛り上げます。

そこにネットでは顔も声も公開しているNが、ドローン片手にやってきたならば、鴨が葱ではなく、ハエがハエ叩きを背負って飛んでくるようなもの。懲役を別荘と呼ぶ人たちはともかく、「三社祭をドローンから守った」となれば地元浅草のヒーローで、そのときNの得意とする屁理屈などは、小指ひとつとして彼の身を守ってはくれません。

警察としては「祭りを楽しむ浅草っ子」を犯罪者にしないための「緊急逮捕」だった。というのが私の見立てです。

エンタープライズ1.0への箴言


営利目的の撮影は「許可」がいる

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」