不死鳥の如く

身売りが囁かれ、1年で2度社長が交代するなど、凋落が嘆かれたミクシィ。1年前には1千円割れも現実味を帯びていた株価が、いまでは3万円を越える勢いです(※1:5の株式分割により、一株の店頭価格は6千円強)。理由は『モンスターストライク(モンスト)』の大ヒット。今期の営業利益は100億円と見込まれています。『魔法使いと黒猫のウィズ』のコロプラは9カ月の決算で連結純利益が96億円を越え、『パズル&ドラゴン』のガンホー・オンライン・エンターテインメントは2014年1~6月の半年で320億円の純利益を叩き出します。一方、かつての盟主「任天堂」は、今年の4~6月の3カ月だけで99億円の赤字です。

これを受けて株式市場は「スマホゲーム関連銘柄」がバブル状態。そしてバブルが弾けるのは歴史の教訓。今回は「お盆特別号」として、我が世の春を謳歌するスマホゲームについての考察です。

日本経済への影響

まず、スマホゲームの社会的影響力を考えてみます。ゲームをやるとバカになり、バカが増えれば、日本の社会は揺らぎますが、俗に言う「ゲーム脳」はエセ科学と見られており、この心配はないとみてよいでしょう。しかし、通勤通学の電車内や、待ち合わせなどの空き時間に、本や新聞を読む習慣が失われることによる知的劣化は避けられません。もともと本を読まないから関係がないという人もいるでしょうが、空き時間をボーッと過ごすことで休めていた脳や視神経は酷使され、勉強や仕事の効率低下がおこります。

経済効果の面からの懸念もあります。従来の「パッケージ型ゲーム」は、リアルで流通する商品を製作するコストや、小売店に届けるまでに様々なコストが発生しました。パッケージひとつとっても、それを印刷する会社、プラスチックケースの製造企業、運搬する人件費に、中古市場といった「経済波及効果」を生み出していたのです。対するスマホ向けゲームは、メーカーがユーザーにほぼ直接販売します。ゲームメーカー以外で儲かる企業と言えば、ヘビーローテーションでスポットCMが放送される「テレビ局」ぐらい。スマホゲームの隆盛は、市場経済を縮小させます。「産業構造の変化」といえばそれまでの話しですが。

海外で売れない理由

少子化も手伝い、いずれにしろ縮小する日本経済にとって、規模を維持するための有効な対策は「海外」です。それどころか、海外の富を日本に移転できれば、縮小する以上の経済効果を期待できます。ましてやスマホゲームはネット配信です。ネットに国境線はありません。ところが海外では苦戦が続きます。国内で不動の人気を誇る「パズドラ」でも、米Google Playランキング(2014年7月26日)では30位に沈みます。

不振の理由は諸説ありますが、「ガチャ」に代表される不確実性という要素を、欧米人は嫌うといわれています。呼び名はそれぞれですが、カプセルトイ『ガシャポン』のように、ランダムでアイテムが提供されるシステムの代名詞が「ガチャ」で、社会問題となった「コンプガチャ」も仕組みは同じです。欧米人にとってゲームとは、技術やアイデアを駆使して挑むもので、ガチャという「運」に支配されることを嫌うというのです。致命的な問題です。100億を越える利益の源泉は「ガチャ」なのですから。

そもそも「無料」を謳いながら、ゲーム内で課金するシステムにも逆風が吹いています。Googleは「アプリ内課金があるゲームアプリを無料と呼ばない」ことを決定したのは、 欧州委員会の勧告を受けてのことです。無料を喧伝しながら、課金されることは消費者保護の観点から認められないというものです。

パズドラの株価は既に半分

対して日本では「コンプガチャ」で問題提起されたにも関わらず、ゲーム内課金への法的整備がなされていないのは行政の怠慢。残念ながら「消費者保護0.2」は日本のお役所のお家芸です。しかし、海外で法整備が進めば、日本もそれに追随します。「横並び」を好むのは、日本人の特質だからです。

法整備がなされれば、スマホゲームバブルは完全崩壊します。海外で問題視されているのは「無料」だけではなく、一種の興奮状態で購入を迫るゲーム内課金は、正常な消費活動ではないとする見方があるからです。そしてバブル崩壊の予兆はすでに現れています。パズドラが絶好調のガンホーの株価はピーク時の半値以下です。

そもそもスマホゲームは構造的矛盾を抱えています。『魔法使いと黒猫のウィズ』が好調と喧伝するコロプラは、この8月から『白猫プロジェクト』をリリースしてこちらも堅調な滑り出しと誇ります。しかし、ユーザーのプレイ時間は一人当たり最大で24時間しかありません。つまり、新作がヒットすれば、従来作品が鈍化し、従来作品が強ければ、新作は伸び悩みます。そこで利益を伸ばし続けるには「課金」の強化しか方法はなく、遅かれ早かれ規制か、あるいは飽和かへと向かう構造になっているのです。

わたしは日本のスマホゲームが世界で認められていない状況を「幸運」とみています。なぜなら国内では「美少女キャラ」として画面に彩りを与えている、半裸状態の少女のイラストは、海外では「児童ポルノ」にあたる可能性があるからです。不必要にバストを強調し、下着を想起させるコスチュームのキャラクターが見逃されているのは日本ぐらいです。国産のスマホゲームが世界的にヒットし、これらが問題視されれば、世界中から今まで以上に「児童ポルノ大国」と非難されるかもしれないからです。冗談のような話しですが、アニメ『犬夜叉』が北米で放送される際、女性型妖怪の「バスト」が「胸板」修正されています。日本の「エロ要素」は世界の非常識=0.2なのです。

エンタープライズ1.0への箴言


「スマホゲームは構造的に消費者保護の視点がない」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」