自社の商品やサービスを「その企業ならでは」と認識してもらう企業ブランディングへの注目が集まっている。国内外の競争激化や物価の上昇などが背景にある。しかし、大企業と違い、中小企業がブランド戦略を打ち出すのは容易ではないとされる。こうした中で、インターネットを活用してコストを抑制しつつ、効果的なブランディングを実施する中小企業やB to B(企業間取引)企業も出始めている。この連載では、ITなどを活用してブランディングを行っている事例を紹介する。

第33回はシステム開発を手掛けるエアリテック(東京・渋谷)を取り上げる。同社は自社ホームページなどを通じて取引先のセミナーでの社長講演の動画を知ってもらい、ブランディングや顧客開拓につなげている。山崎政憲社長は企業ブランディングの意義について「自社のファンを増やしていくことだ」と話す。聞き手はZenkenの本村丹努琉(もとむら・たつる)氏。

  • Airitech(エアリテック) 代表取締役 山﨑政憲氏

Airitech(エアリテック) 代表取締役 山﨑政憲氏
昭和50年3月5日、高知県高知市市生まれ。高知大学大学院理学研究科化学専攻卒業。新卒で横浜市のソフトウェア受託開発会社に入社。システムダウンや性能問題に対応するサービスを立ち上げ、システム診断ツールの開発・販売なども手掛ける。2017年に独立し、Airitechを設立。2018年にSHIFTグループに参画。

ポイント

①企業ブランディングは自社のファンを増やす効果がある
②会ったことのない潜在顧客に自社を知ってもらうのは資金の少ない中小企業には困難
③取引先のセミナーでの社長講演の動画の共有・拡散でブランディングに成功
④テレアポサービスには商材の向き不向きがある。ターゲット設定の重要性を認識

本村:貴社は企業のシステム開発や改善などを手掛けています。会社の概要と強みを教えて下さい。

山崎:当社は2017年5月に創業した、システム開発と改善を手掛ける会社です。システムの障害が起きた際に利用者に影響が出る事態を防ぐトラブルシュート、AI(人工知能)活用支援、業務効率化支援などに携わっています。

強みは、技術力の高さや業界でも高水準の給与などを背景に有能な社員が多く集まっていることです。約150人の社員のうち120人ほどがエンジニアで、一部の社員は先端技術まで取り扱える知見と能力を持っています。そのため、高度なトラブルシュートのほか、生成AIの大規模言語モデル(LLM)の改善、システム解析なども請け負えます。

本村:御社にとって企業ブランディングの意義とは。

山崎:ブランディングの意義は、自社のファンを増やしていくことだと考えています。例えば、テレビ出演後に顧客が殺到してシステムダウンが頻発したホテルから相談を受けたことがありました。当社のエンジニアが出向いて予約サイトを改善したところ、システムが安定し、サイト内の検索時間も従来の100秒から10秒に改善しました。こうした実績を地道に出していくことが、顧客の信頼獲得やブランディングにつながると思います。

当社がシステムトラブルを解決したことをSNSで発信してくれるお客様もおり、それが顧客獲得のきっかけになったこともありました。お客様がメディアやSNSなどで当社のことを伝えてくれることで、当社のサービスを潜在顧客の方々が疑似体験したのだと思います。ブランディングの第一歩はお客様のために、かゆいところまで手が届くようなサービスを提供し、信頼を獲得することだと考えています。

本村:御社の場合、仕事を作業として請け負うのではなく、顧客に頼りにしてもらうよう努力することを主眼においているように思います。それがブランディングにもつながっているのかもしれません。

山崎:私たちの業界では、ややもすれば「顧客に言われた作業をやればいい」という状況におちいることがあります。しかし、私たちはそれだけではなく、「お客様が本当に求めていることが何か」を考えて提案しながら仕事をすることも心がけています。

本村:信頼しファンになってもらうことこそがブランディングということですね。しかし、中小企業のブランディングは難しいとの声もあります。

山崎:確かに難しいと思います。しかし、目の前のお客様に誠実に対応し、ファンになってもらうのは知名度のない中小企業でもできます。一方で、会ったこともない潜在顧客をファンにするのは容易ではありません。中小企業には資金も人材も限られたリソースしかないためです。

本村:ブランディングの成功事例を教えてください。

山崎:取引先のセミナーでの講演で、システム障害などの事例を私が解説する動画を拡散したところ、一定の効果がありました。美容関連企業のPOS(販売時点情報管理)システムを改善した事例など複数のトラブルと具体的な改善方法を紹介したところ、取引先のサイトに掲載された動画の再生回数が700回以上に達しました。

この動画を会社と私のXやFacebookで拡散し、営業でのサービス説明にも活用したところ、契約のきっかけとなり、商談が円滑に進みました。2024年9月に動画を公開してから、間接的ではありますが2カ月半で5件の受注につながりました。

当社には、ホテルや家電販売、コンビニエンスストアなどのサイトのレスポンスを速めたり、物流関係のシステムダウンの原因を究明したりと多くのソリューションの事例があります。多くの潜在顧客が関心を持ってくれており、講演を依頼される機会も増えています。

  • 社長講演の動画をブランディングに活用

    社長講演の動画をブランディングに活用

本村:B to B(対企業取引)企業では、仕事の実例を対外的に示していないことが多いように思います。それがブランディングを難しくしているのではないでしょうか。

山崎:当社もB to B企業ですので、成果をアピールしづらいです。当社に相談してくるお客様はシステムにトラブルがあった企業が多いため、事例を公表したがらないケースがほとんどだからです。私の講演では、お客様の名前がわからないよう配慮しながら、臨場感もあるように実例を解説するよう努力しました。

本村:ブランディングの失敗例はありますか。

山崎:商談のアポを取る「テレアポサービス」を使い、うまくいかなかったことがあります。当社が提供するシステムの性能テストサービスについて営業電話をしてもらいましたが、なかなか成約につながりませんでした。今になって考えてみれば、テレアポに向いている商材なのかを研究していませんでしたし、ターゲティングの努力も不足していたと思います。一方、これらは良い経験にもなりました。現在は企業の「サステナビリティレポート」のシステム化など、テレアポに向いている商材についてサービスを利用しています。

本村:Zenkenのサイトに貴社のサービスが掲載されています。

山崎:2024年6月からサイトに記事を掲載していただいています。最も良かったのは、サイトに記事を掲載するための取材やディスカッションの中で、当社の強みなどについて整理できたことです。

「どんな企業にどんな理由で当社のサービスを勧められるのか」や「自社にどんな価値があるのか」などについて深く考えることが、結果として顧客開拓やブランディングにも効果があったと考えています。

(編集協力 P&Rコンサルティング)

本村 丹努琉(もとむら・たつる)

Zenken株式会社 取締役 eマーケティング事業本部長

通信機器販売やエネルギーコンサルティングなどのベンチャー企業3社で営業責任者として組織構築に従事。1人のカリスマだけに頼らない組織営業スタイルを確立し、収益増に貢献した。2009年に全研本社株式会社に入社し、ウェブマーケティングを担当する「バリューイノベーション事業部(現:グローバルニッチトップ事業部)」の立ち上げに参画。コンテンツマーケティング黎明期から、オウンドメディアを基軸としたWEBブランディングを提唱し、14年間で約8000社のインサイドセールスを構築した。