自社の商品やサービスを「その企業ならでは」と認識してもらう企業ブランディングへの注目が集まっている。その背景には、国内外の競争激化や物価の上昇などがある。しかし、大企業と違い、中小企業がブランド戦略を打ち出すのは容易ではないとされる。こうした中で、インターネットを活用してコストを抑制しつつ、効果的なブランディングを実施する中小企業やB to B(企業間取引)企業も出始めている。本連載では、ITなどを活用してブランディングを行っている事例を紹介する。

第21回は、権利関係でもめている「訳あり物件」や空き家の買い取り・再販売のネクスウィル(東京 港区)を取り上げる。同社は空き家急増などの社会問題に取り組んでいることを新聞・雑誌などメディアに取り上げてもらい、それを検索後のランディングページ(LP)でアピール。自社のブランディングや集客につなげている。丸岡智幸社長はブランディングについて「自社の認知度を向上させ、仕事の内容を正しく知ってもらうことが重要だ」と話す。聞き手はZenkenの本村丹努琉(もとむら・たつる)氏。

  • ネクスウィル 代表取締役 丸岡智幸氏

ネクスウィル 代表取締役 丸岡智幸氏
1983年茨城県日立市生まれ。新卒で東京電力に約10年勤務。その後、東証プライム上場の不動産投資会社で投資用アパートの販売業務などに従事する。2019年に当時の同僚と共に株式会社ネクスウィルを独立創業。2020年10月、訳あり不動産の買い取り事業「Wakegai」を開始。2022年1月には空き家や訳あり不動産を個人間売買できるオンラインマッチングサイト「URI・KAI」の他、不動産に関するオウンドメディアの運営も行う。好きな言葉は「質実剛健」。前期は売上高7.4億円、経常利益1億3000万円で、今期は売上高15億円、経常利益2億5000万円を目指す。

ポイント

①ブランディングは企業の認知度を上げ、仕事の内容を正しく知ってもらうこと
②中小企業は迅速な意思決定をしやすく、それをブランディングにも活用
③報道された記事を自社のLPでアピール、集客も増加
④企業イメージと従業員の行動の一貫性が重要

本村:御社は空き家などの買い取りや再販売を手掛けています。概要と強みを教えてください。

丸岡:当社は2019年1月に設立した従業員25人の会社です。全国を対象に、空き家や権利関係などでもめている「訳あり物件」の買い取りと再販売をしています。日本は世界で空き家の多い国の一つです。約1000万戸もあると言われており、これらを有効活用していく必要があります。

また、「訳あり物件」も多くあります。訳ありと聞くと事故物件を思い浮かべるかもしれません。しかし、相続やペアローンなどで1つの不動産を複数の人で所有し、権利関係でもめている物件はたくさんあります。こうした場合、当社が持ち分を買い取り、権利関係を整理して再販売しています。多くのニーズがあり、売り上げは20年以降、倍々で増えています。

当社の強みは、民法など法律関係に詳しい営業マンが多く、売買のノウハウもあることです。営業マンは過去の事例データベースを会議で共有し、能力を高めています。このビジネスは訴訟リスクにさらされたり、経験に基づくノウハウが不可欠だったりするため、大手不動産やベンチャーなど他社が容易に進出できない面があります。このため、当社に困った方々が駆け込み寺のような形で問い合わせをしてくるケースがあります。ビジネスではありますが、人助けという面もあるため、社員のモチベーションが高いことも強みだと考えています。

  • 首都圏でも空き家が増えている

    首都圏でも空き家が増えている

本村:従業員に高度な専門知識がないと難しいビジネスですね。

丸岡:買い取り・再販売のノウハウや経験が必要で、参入しづらい分野かもしれません。地元の不動産会社は一戸建てや賃貸物件を個人に仲介するのが主な仕事ですから、持ち分でもめているような物件の買い取りなどはしてくれないことがほとんどです。

本村:こうした強みや独自性があることは、企業ブランディングにも有利に見えます。御社にとってブランディングの意義は何でしょうか。

丸岡:ブランディングの意義は、企業の認知度を上げ、仕事の内容を正しく知ってもらうことだと考えています。どんな業界にも良い会社とそうでない会社があります。ユーザーが依頼する企業を選ぶためにも、自社がどんな仕事をどのようにやっているのかを知ってもらうことが重要です。このため、企業が広報担当者をおき、多くのメディアに報道してもらえるよう努めています。今後は著書の出版による情報発信もする予定です。

本村:お金をかけてタレントを起用し、広告でアピールする企業も多いと思います。広報活動による報道数の増加は、広告とどのように違うのでしょうか。

丸岡:私はブランディングを通じて、自社がいかに信用を得られるかが大事だと考えています。お金をかけて有名タレントを起用すれば、自社の知名度は短期間に上がるかもしれませんが、中期的・継続的に信用力を高めるのは難しいでしょう。報道を通じて、ビジネスモデルに共感してもらうことが大事です。自社の従業員が報道を読むことで、モチベーションが上がったり、丁寧な接客をしたりすることにもつながります。

本村:資金力に乏しい中小企業は、大企業に比べるとブランディングが難しいという見方もあります。御社の場合はいかがですか。

丸岡:中小企業の良いところは、スピーディーな対応です。大手企業に比べて決裁者が少ないため、顧客ニーズに迅速に合わせられるということです。具体的には、大手企業が「今日買い取りできない」という物件も、ネクスウィルなら当日に買い取りできます。こうした特徴を強調するため、当社では「即日買い取りは当たり前 私たちはそれ以上」という宣伝文句を広告やネット検索後の当社のランディングページ(LP)に掲載しています。

  • 即日買い取りは当たり前とLPなどでアピール

    即日買い取りは当たり前とLPなどでアピール

本村:ブランディングで具体的な成功例はありますか。

丸岡:創業以来、メディア掲載の増加に取り組んでおり、ネット検索後のLPでも報道されたことをアピールしています。例えば、「親族でもめている不動産の共有持ち分を第三者に売却することは可能だ」という趣旨の記事がメディアに出ると、実際に悩んでいる個人の方々から問い合わせがあります。こうした方々は、記事を通じて「共有持ち分が売却できる」ことを知り、当社や同業他社に連絡しているのだと思います。その結果、2020年に年100件程度だった当社への問い合わせが、足元では1800件程度まで増えました。

採用面でも効果がありました。メディアに掲載された記事を見て、「大手が手掛ける不動産開発よりネクスウィルがやっているビジネスの成長性が高い」と、戸建てメーカーから転職してくる人もいます。ビジネスモデルに共感した上で応募してくれる人が増えており、質の高い人材を取りやすくなりました。

20年後には、空き家が現在の1000万戸から2倍に増えるとも言われており、当社の事業は記者の方々からの関心を集めやすい面があります。私たちとしても、少しでもメディアに出ることによって、「訳あり物件」で困っている方々に情報を伝えられればと思っています。

  • 共有持ち分とは

    共有持ち分とは

本村:派手な宣伝文句を打ち出しているものの、それを実行できていないという企業もあると思います。ネクスウィルは、自社の宣伝文句と社員の行動に一貫性があることがブランド力を高めているように思います。

丸岡:自社が取り上げられた記事はきちんと社員にも読んでもらい、それに合わせた行動を取ってもらう必要があります。報道の内容と社員の言動や行動が違うとなると、企業への信頼は維持できません。社員数が増えれば増えるほど、それを徹底するのは難しく、一段の努力が必要です。

本村:ブランディングで失敗例はありますか。

丸岡:創業当初は、制作会社に依頼して安易にホームページを作っていました。助言を受けてSEO(検索エンジン最適化)対策でコラム欄を作りましたが、検索順位は必ずしも上がりませんでした。費用対効果も悪く、問い合わせにもつながりませんでした。この経験を通して、「使う人に知見がないと、方向性が定まらず、検索順位も上がらない」と実感しました。ホームページ作りも、業者の言いなりではなく、主体的にやらなければうまくいかないと思いました。

本村:Zenkenのサイトに御社の記事が掲載されています。

丸岡:2020年11月から掲載してもらっています。問い合わせは当初、月2~3件でしたが、今は10件ほどに増えています。Zenkenのサイトを通じて当社のLPなどに潜在顧客が流入し、問い合わせにつながっています。Zenkenのサイトは第三者的な目線でまとめ、多方面から複数の企業を分析しているので信頼性が高く、質の高い顧客獲得につながっています。

(編集協力 P&Rコンサルティング)

本村 丹努琉(もとむら・たつる)

Zenken株式会社 取締役 eマーケティング事業本部長

通信機器販売やエネルギーコンサルティングなどのベンチャー企業3社で営業責任者として組織構築に従事。1人のカリスマだけに頼らない組織営業スタイルを確立し、収益増に貢献した。2009年に全研本社株式会社に入社し、ウェブマーケティングを担当する「バリューイノベーション事業部(現:グローバルニッチトップ事業部)」の立ち上げに参画。コンテンツマーケティング黎明期から、オウンドメディアを基軸としたWEBブランディングを提唱し、14年間で約8000社のインサイドセールスを構築した。