「ヘルスケア」「文教・公共」「民間企業」向けに、それぞれの課題に応じたITソリューションを提供する日本事務器。同社では時代の変化とともに変わるお客様のニーズを的確に捉えた提案力を高めるため、お客様へ導入する前に、まず自社で導入・利活用し、社員一人ひとりが効果を体感できるようなIT活用を推進している。

そうしたポリシーの一環として約6年前に先行して全国の管理職と営業担当者にiPhoneとiPadを配付。全社で利用しているクラウドサービスの「Google Apps」やSalesforceを使ったSFA・CRMソリューションとあわせて活用している。

クラウドとモバイルデバイスにより、ワークスタイルが大きく変わった。営業活動で得た情報やアクションアイテムの共有は移動時間を利用して外出先からiPhone、iPadで入力を行うため、他のメンバーが自発的に気づき、次のアクションへの早期化が実現。モバイルソリューションも扱う同社では、こうした自身の経験がその提案力に活かされている。

経営企画部 IT企画グループ コンサルタント 寺林良則氏

「外出の多い社員のiPhone、iPadの活用に効果が見えたことを受け、スタッフ職やグループ会社の社員を含む全社員を対象に、昨年、約1200台のiPhone導入を決めました。全社員へ配付することで、NJCグループ全員の英知をお客様への提案に活かすという夢を実現したかった」と話すのは、経営企画部 IT企画グループ コンサルタントの寺林良則氏。

具体的にはどのようにiPhone/iPadを活用しているのだろう。

全社員へのiPhone配付で実感する情報共有スピード向上

今回のiPhone配付対象にはエンジニアも含まれるため、約4年前から導入しているSalesforceのサービスの1つ、「Salesforce Chatter」にエンジニアもiPhoneから参加可能となった。「Chatter」は、社内SNS型のコラボレーションツールで、自席のみならず外出先でもコミュニケーションがとれるようになり、お客様からの問い合わせ等に利用されることで、知識のある誰かが回答してくれるため、営業活動での情報共有スピードが向上したという。

営業本部 首都圏支社 統括営業部 IT営業部の山田学氏は、営業シーンでのiPhone/iPadの利便性をこう話す。

営業本部 首都圏支社 統括営業部 IT営業部 山田学氏

「訪問先の会話でたまたま出たキーワードから必要になる資料も、以前は『次回カタログを持ってきます』と言うしかなかったのですが、その場でiPadで見せられるようになりました。それでもエンジニアへの問い合わせが必要で、社内に戻ってエンジニアの方と打ち合わせしてから回答することはよくありましたが、全社員にiPhoneが配付されたことで『Chatter』に書き込んだ質問に早ければその場で回答が来るので、お客様への対応スピードが向上しました。この5年でスピード感が増していくのを実感しています」

「Chatter」では成功事例の共有のほか、新製品の課題なども共有され、こうした情報から製品改良につながる場合もある。成功事例や課題をどう解決したかといった対応策は注目度が高く「いいね」が200件超え、といったこともあるそう。「いいね」の件数が多ければ、気になって見る、という循環により社内で話題の案件はみるみるうちに広まる。

「加えて、Google Appsも使っているので、Googleドライブの純正アプリは資料の格納、閲覧、共有のためによく使います。マップのアプリももちろん使いますし、最近は純正アプリにない機能をカバーできるカレンダーアプリがチームで流行っていて、みんなで使っています」と、山田氏はiPhoneの活用シーンを次々話す。

意識付けの徹底で活用が促進

総務部 総務グループ 担当部長 渡辺正志氏

こうした積極的な活用が進む一因について「全社員にiPhoneを配付するときは、主旨説明を徹底しました。会社から貸与されるデバイスをなんのために使うのか、業務にどう活かすのか考える、という意識付けに一番力を入れたわけです」と導入時を振り返るのは総務部 総務グループ 担当部長の渡辺正志氏。

「たとえば初期設定や利用方法を記載した『ルールとマナー』というガイドラインを全社員向けに展開していますが、その資料に目的意識を持った利用を勧める項目を入れました。iPhone導入時に運用と導入主旨を伝える説明会も開催し、その模様は撮影して動画として全国の拠点に配信しています。業務で有効活用するためにiPhoneがあるという意識付けにより、アプリインストールの細かなルールや制限は設けなくても、私的利用や、逆に活用されない、ということが起きません」(渡辺氏)

「iPhone配付の副次的な狙いにはBCP対策もありました。非常時にのみ使うPHS、という手段も検討しましたが、『普段使っていないものを非常事態でとっさに使えるのか?』という懸念が残り、先に導入していたiPadとも親和性が高く日常業務で役立てられるiPhoneが一番いいと判断しました」(寺林氏)

アプリインストール時のログ取得や、紛失時のリモートワイプといった仕組みを整えたうえで、制限しすぎず業務活用を促進する狙いは見事に成功した。

採用活動や社員向けインタビュー動画配信もiPhone/iPadで

スタッフ職へのiPhone/iPad配付に伴い、採用活動でもこれらが役立てられている。面接での手元資料が紙からiPadに替わり、会社説明会ではGoogleスライドで作成したプレゼンテーション資料をiPadとAppleTVでスクリーンへ投影する。説明会会場の個別相談ブースでもiPadの画面を見せることがあるという。

「会社説明会で自分の『Chatter』の画面を見せると、今の学生さんにはすごく響きます。弊社は全国に拠点がありますが、離れた場所同士でもこういったツールで繋がっています。学生さんはプライベートでさまざまなSNSを使っている世代なので、仕事でもこういったツールが活用されることに驚きながらも、『いいな』という好反応が返ってきます」。こう話すのは人事部の寺内仁美氏。

人事部 寺内仁美氏

「人事に関わる新しい仕組みやルールを浸透させたいとき、実際に活用している社員のインタビュー動画配信を思いつきました。iPhone用の三脚を用意すれば、撮影、編集、配信すべて本当にiPhone1台でできるんです」(寺林氏)

以前はビデオカメラを借りる手続きのあと、撮影後はPCに取り込み、編集する手間があった。iPhoneならこうした手間をかけず、動画編集アプリ「iMovie」を使って編集し「Chatter」への投稿まで完了できる。

承認業務、勤怠申請、Pepperを使った取り組みにも注目

「去年からは見積、受注、売上の承認処理などもiPhoneでできるようになっています。また現在、ワークスタイルの多様化にも対応できるよう勤怠システムを見直しており、iPhoneの機能を活用した出退勤申請も実装する予定です」(寺林氏)

承認画面。iPhoneから承認作業が行えてスピーディーな対応が可能になった

最近ではPepperを使った試みも実施している同社。6月末に行われた株主総会では、R&Dの一環として導入されたPepperが披露され、株主がPepperとの会話を楽しむ場面もあった。また、内定者向けの社内見学会では、社長室の案内をPepperが行ったという。

株主総会(左)、内定者向け社内見学会(右)ではPepperが活躍

「Pepperのような先進的な技術が登場したら、まずは自社で試しに利用してみる、という姿勢を重視しています。弊社のお客様にオファーをもらったとき『わかりません』ではなく自社での経験を踏まえて回答できるのが理想だと思っています」(寺林氏)

営業活動でのモバイル活用を中心に、人事部からの発信、承認業務や勤怠申請など全社員がモバイルデバイスを持ったことでさらに活用が促進された同社。加速する取り組みの今後と、その進化を活かした提供サービスの質向上に期待が高まる。