家庭やオフィスで簡単においしいコーヒーやカプチーノを楽しめるコーヒーマシン「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」は2009年の発売以来、多くのユーザーに愛され、320万台を販売。本体をレンタルしてコーヒーを定期購入する制度「ネスカフェ アンバサダー」のユーザーも含めると、360万台が利用されていることになるという。

「以前はコーヒーメーカーでポットに数人分を作って家族で飲むという利用形態が一般的でしたが、今や3割が単身世帯ですし、2人世帯までとなると5割にも上ります。さらに、共働き家庭なども増え、コーヒーは好きな時に1杯ずつ作りたいものになりました」と語るのは、ネスレ日本 飲料事業部 レギュラーソリュブルコーヒービジネス部 部長の島川基氏だ。

ネスレ日本 飲料事業部 レギュラーソリュブルコーヒービジネス部 部長 島川基氏

コーヒーマシンとしてのシェアはすでにトップを獲得しており、今後はさらなる市場への浸透を目指している「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」。どの家庭にも1台置かれる存在になった時、マシンを通して新たな価値を届けられるものでありたいと考えていたという。その想いを乗せて登場したのが、Bluetoothでスマートフォンと接続できる「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ i 〔アイ〕」(以下、バリスタ i 〔アイ〕)だ。

Bluetoothでスマートフォンと接続できる「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ i 〔アイ〕」

操作補助&レシピ・カスタマイズをアプリで支援

「数年前から、お客さまの役に立つものにしていきたいという構想がありました。そこで、消費者の問題を解決する手段としてIoTが役立ちそうだと考え、Bluetooth機能を搭載しました」と島川氏は語る。

消費者の抱える問題として考えられていたものは、大きく2つあった。1つはコーヒーマシン本体の操作に関する課題だ。「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」シリーズは、コーヒーを飲むという基本的な機能は簡単に利用できる。だからこそ、多くのユーザーは取扱説明書をきちんと読まないだろうと考えられた。その結果、エラーが起きた時に表示される本体ランプの意味がわからずに戸惑うことがある。その解決方法として、説明書を見ずにランプの意味がわかる手段が必要だと考えられたわけだ。

また、「バリスタ i 〔アイ〕」は水の量などでコーヒーの濃さを変更したり、ミルクの泡立ちを調整したりと、飲む人の好みに合わせたコーヒーを作れるおもしろいマシンなのだが、このカスタマイズの内容をマシンが覚えていて、毎回好みに合ったコーヒーが簡単にいれることができればより便利だろうという考えもあったという。

「バリスタ i 〔アイ〕」はスマートフォンと接続することができ、「ネスカフェ アプリ」からさまざまな操作が行える。

例えば、アプリの画面にエラーの内容を表示することで、日常の利用から説明書を読む手間を取り去った。また、アプリの画面上のスライドバーを動かすだけで味の調整を行えるようにし、カスタマイズメニューを保存しておけば同じ味のコーヒーを作れる機能も搭載した。スマートフォンという表現力豊かなツールに接続することで、本体に搭載可能な小さな液晶画面やインジケーターランプでは伝わらない部分や、使いづらい部分をカバーしているわけだ。

アプリで、コーヒーや水の量を調整して、コーヒーをいれることができる

「こうした機能を本体に盛り込んでしまうと、リリース後に改善や機能追加が難しいですが、アプリに分離したことで、ブラッシュアップが可能になることもポイントです」と島川氏は語った。

コーヒータイムを離れた人と緩やかにつながる時間へ

もう1つの課題は、コミュニケーションに関することだ。「コーヒーはソーシャルな飲み物だと思っています。アンバサダーではコーヒーをいれる場所に人々が集まる仕組みが生まれましたが、さらにもっと離れて暮らす人とのつながりを考えたのが『バリスタ i 〔アイ〕』です」と島川氏。

各自が自動販売機にコーヒーを買いに行くスタイルから、1台のコーヒーマシンに集まってコーヒーを作ることで会話の場を作るのが「ネスカフェ アンバサダー」だ。これに対し、「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ i 〔アイ〕」は、アプリを通じて「誰がいつコーヒーを飲んだのか」「どんな気分で飲んだのか」を伝えることで緩やかなコミュニケーションを作り出す。

「コーヒーを飲む時は、もの思いの時間です。誰かのことをふと思い出したりするけれど、わざわざ電話やSNSで話すまでもなかったりします。だから、コーヒーを飲む時間を分かち合うというイメージでアプリを作りました。あくまでもコミュニケーションのきっかけになればいいという考えなので、アプリ内に会話機能などは持たせていません」と、島川氏はコンセプトを語る。

「ネスカフェ アプリ」には、家族や友人といった既存の人間関係の中でコーヒーを飲んだ時間や気分を伝え合う機能と、場所と時刻のデータを利用して「バリスタ i〔アイ〕」でコーヒーを楽しんだ全国の人同士をつなぐ機能がある。どちらも文字入力を行う機能はなく、登録されているメッセージリストなどから選択して利用する形式だ。入力は容易で、アプリ内で強いコミュニケーションが発生しない分、トラブルも予防できると考えられる。

スタート好調ながら、今後はさらなる伸びを期待

2016年8月26日の発表以来、多くのメディアに取り上げられた「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ i 〔アイ〕」だが、テレビCMなどでは多機能さなどは特にアピールせず、「離れた人とつながる」というキーワードだけが伝えられた。10月1日に発売されてから2カ月、滑り出しは好調だという。

「現在、約10万台を販売しました。前機種の発売開始後2カ月間の出荷台数と比較すると、2倍以上です。もともと女性購入者の多い製品なのですが、新モデルでは男性の購入者が伸びており、機能の豊富さに魅力を感じていただいているのではないかと考えています。そのほか、『自分好みのコーヒーがいれられることが魅力』『実家用に購入した』など、レシピ機能やコミュニケーション機能に魅力を感じてくださっているらしい声も聞いています」と、島川氏は手応えを語る。

「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」シリーズは、贈答用にもよく使われてきたが、コーヒーマシンは年末や春といった贈答用および新生活準備時期によく購入されるものでもある。したがって、「バリスタ i 〔アイ〕」も年末と来春を控え、これからより購入が伸びていくことが期待できそうだ。

「いわゆるインスタントコーヒーは50~60代の方によく利用されてきましたが、バリスタシリーズによっての発売によって、20~40代の飲用者が増加しました。『バリスタ i 〔アイ〕』はスマートフォン世代がメインターゲットになりますが、結婚する子供に贈る、離れて暮らす実家に贈るといった用途も期待しています。今は60代のスマートフォン保有率も増えていますし、使い方を教えるという名目で親子のコミュニケーションにもつながりそうですね」と島川氏は語った。

ポイントなど魅力あるアプリの利用を促進しマーケティングへつなげる

ちなみに、Bluetoothでスマートフォンと接続し、スマートフォンからコーヒーマシンを操作できることを「バリスタ i 〔アイ〕」はそれほど強くアピールしていない。「スマートフォンがリモコンになるという感覚では、すぐに飽きてしまうでしょう。人と人がつながるということが重要だと考えています」と島川氏は言う。

一方で、スマートフォンにつながるという機能がもたらす大きなメリットもある。それはアプリがユーザーとの接点となり、さらにコーヒーマシンの使われ方がネスレに伝わるということだ。

ネスレでは「ネスカフェ ワクワクポイント」というプログラムを用意しており、ポイントを獲得すれば景品をもらうことが可だ。アプリを使ってコーヒーをいれると、アプリを使った人とコーヒーマシンの持ち主の双方にポイントが入るほか、本体を操作してコーヒーをいれた場合もコーヒーマシンの持ち主にポイントが付与される。さらに、SNSでオリジナルレシピを共有する、ネスカフェの提携店舗を訪問するといった形でもポイント獲得が可能だ。

コーヒーを飲むと、「ネスカフェ ワクワクポイント」がもらえる

アプリのトップ画面では「ネスカフェ」を楽しめるお店の情報や製品情報を表示するが、ユーザーはコーヒーを飲もうとするたびにアプリを使うことでネスレと接点を持つことになる。ポイントを獲得するという目的があるから、アプリ利用は促進されるだろう。そして、面倒だからアプリは使わないという人がいたとしても、利用履歴自体は本体に保存され、オーナーがアプリからアクセスした時にデータが一括送信されるという。

「今までは見えなかった消費の瞬間がわかりますので、より詳細なマーケティングにつながるでしょう。また、お客さまはエラーが出た時にスマートフォンで対応方法がわかるため電話をかける手間がなくなりますし、私たちも問い合わせ件数が減るというメリットがあります」と島川氏。

今後はアプリのブラッシュアップを行うほか、他社との協業によって新たな使い方などを提供して行く予定だ。当面の予定として、ソニーモバイルコミュニケーションズとの協業により、タブレットに表示される人工知能搭載のエージェントと対話する形でコーヒーをいれたり、メッセージを送信したりできるサービスが登場する。

「今後は、いろいろな連携が増えて行くと考えています。お客さまの生活スタイルに合わせたサービス・解決策を模索し、複合的なアプローチをしていきたいと考えています」と、島川氏は今後もさまざまな展開の可能性があることを語ってくれた。