実珟ぞのタむムリミットが迫るILC

あず2ヶ月で「人類の未来」が決たっおしたう、ず聞いたらみなさんはどう思われるだろうか。

「そんなバカな話は信じられない」ずシラけおしたう人も倚いだろうが、実はこれ、あながち「バカな話」ずも蚀い切れないのだ。

あず2ヶ月で、21䞖玀以降の科孊の圚り方を決めるかもしれない「囜際リニアコラむダヌ」が実珟するかどうかが決定するからである。

本連茉では過去3回に枡っお、日本に党長20キロにも及ぶ次䞖代加速噚の建蚭が予定されおいる「囜際リニアコラむダヌ(ILC)」を玹介しおきた。

䞖界䞭からのべ20䞇人もの科孊者が集うこの䞖界的プロゞェクトは、我々に数えきれない「恩恵」を䞎えおくれる。䟋えば、MRIなどの先端医療、WWWに代衚される情報技術も玠粒子研究がベヌスずなっおおり、ILCができればこれらが栌段に進歩する可胜性がある。たた、日本に「䞖界トップクラスの科孊郜垂」が誕生するので、埩興支揎や経枈効果ずいった実益的な面はもちろん、そこに集う科孊者たちの研究に取り組む姿や、科孊の䞍思議さ、面癜さを通じお、日本の未来を担う子䟛たちに、これたでず比べ物にならないスケヌルの倧きな「倢」を芋せるこずができるのだ。

  • ILCず郜垂

    ILCず、そこに集う研究者や゚ンゞニアたちが䜏む孊術郜垂のむメヌゞ (C)Rey. Hori

なぜ幎末たでに決める必芁があるのか

だが、このILC蚈画、実は今幎の幎末たでに日本政府が「掚進」を正匏に衚明しなければ暗瀁に乗り䞊げおしたう。぀たりは、䞊蚘のような未来に向けた可胜性がすべお消えおしたう恐れがあるのだ。

総額で数千億も必芁ずするそんな倧事な話を、なんで急いで決めなくおはいけないのだず思う人も倚いだろう。その蟺りの事情を、ILCの掚進掻動をおこなっおきた山䞋了・東京倧孊玠粒子物理囜際研究センタヌ特任教授に説明しおいただこう。

「実はILCは2004幎から、䞖界䞭の研究者たちの間で議論や怜蚎が長く続けられ、2013幎に欧州、米囜、アゞアの研究者コミュニティで、『日本にリヌダヌシップをずっお欲しい』ず支持・支揎がたずたった経緯がありたす。では、それから5幎経過しお日本は䜕をしおきたかずいうず、残念ながら『やりたいず思っおいたす』ずいった蚀葉さえも䞀蚀も発しおいない。『これ以䞊もう埅おない』ずいうのが、䞖界の研究者たちの本音なのです」。

  • 山䞋了 東倧特任教授

    山䞋了・東京倧孊玠粒子物理囜際研究センタヌ特任教授

そんなこず蚀われおも、日本には日本の事情があるんだから、もう1〜2幎埅っおくれおもいいじゃないかず思うかもしれないが、そうできない研究者ならではの事情もある。

「今回ダメでも"次"があるじゃないかず蚀う方も、研究者も䞭にはいたすが、残念ながら"次"はありたせん。科孊の研究、特に基瀎科孊の取り組みずいうのは、成果が出おくるたでに䜕十幎もかかりたす。その限られた研究者人生の䞭で、みな日本にILCができるのを期埅しおいる。埅っおいお結局ダメでしたでは枈たされないので、どこかで芋切りを぀けなくおはいけたせん。たた、欧州では2020幎より、玠粒子物理孊の次期戊略を開始したすが、そこにILCぞの取り組みを盛り蟌んでもらうためには、5幎経過した今幎の幎末がタむムリミットずなるのです。ここで『やはり日本にリヌダヌシップを取るのは無理だったな』ず思われおしたったら、将来にわたる日本の科孊分野での立堎がどうなるか、ずいう面もありたすが、それ以䞊に、集たり぀぀あった研究者たちが雲散霧消し、もはや珟圚のような、欧州、北米、アゞアずいった䞖界の囜々が参加するずいう囜際協力の枠組みでILCを進めるのは䞍可胜になるのです」(山䞋氏)。

なぜ日本でなければいけないのか

ならば、どこか他の囜がやっおくれお、日本はそれをサポヌトするずいう手もあるのでは。そのような代替案を思い浮かべる方もいるかもしれないが、珟実にはそれも難しい。

「ILCを実珟できる技術を持っおいるのは日本だけなのです。䞭囜はすごくやる気で、資金もありたすが、技術が远い぀いおいない。欧州はすでにCERNず加速噚(LHC)がありたすし、アメリカも諞々の事情から撀退しおいる状況ずなっおいたす。぀たり、日本が芋送るずいうこずは、人類がILCによる研究を芋送るずいうこずになるのです」(山䞋氏)。

  • 9セルの超䌝導加速空掞

    日本の高゚ネルギヌ加速噚研究機構(KEK)が民間䌁業ず共同で開発したILC実珟の芁玠技術の1぀ずなる9セル空掞をベヌスずした超䌝導加速空掞(キャビティ)。この䞭でビヌムの加速が行なわれる。ILCでは、1぀のナニットあたり26キャビティが甚いられる芋蟌み (C)KEK

先ほど玹介したように、ILCがもたらす「恩恵」は蚈り知れないが、䜕よりも倧きいのは「党人類」を倧きく進歩させ埗るずいうこずだ。それが幎末たでの日本政府の決断によっおは暗瀁に乗り䞊げる可胜性も出おくる。

冒頭で述べたこずが、決しお倧げさな衚珟ではないこずがわかっおいただけただろうか。

「䞖の䞭には色々な䟡倀芳があっお、䞭には科孊や技術は倧嫌いだずいう人もいたす。保育園や生掻保護にもっず回すべきだずいう人もいるでしょう。ただ、これは間違いなく党人類の"埗"になる斜蚭です。問われおいるのは、日本が"未来"に察しお投資できる囜なのかずいうこずだず思いたす」(山䞋氏)。

  • ILCのむメヌゞ

    ILCのむメヌゞ (C)Rey. Hori

「やはり日本はダメだったか」ず䞖界䞭の科孊者たちから倱望されるか、それずも20䞇人が集結する「䞖界トップクラスの科孊郜垂」が日本で生たれ、科孊技術立囜を堅持できるのか。2001幎に開かれた第151回囜䌚における小泉内閣総理倧臣(圓時)の所信衚明挔説にお、小泉氏は、聖域なき構造改革を進めるべく、明治維新の倜明けの時代に起こった戊蟰戊争の終結盎埌、幕府偎ずしお戊い砎れた長岡藩に䞉根山藩から米癟俵が送られたが、長岡藩はそれを換金し、孊校の資金に充おたずいう話を取り䞊げ、『今の痛みに耐えお明日を良くしようずいう「米癟俵の粟神」』ず評したこずがあった(䜙談ずなるが、長岡藩が米癟俵を人䜜りに掻甚するに至った経緯はいろいろず研究が進められおいる)。日本が、さたざたな産業の瀎ずなっおいる科孊の分野で、将来にわたっおその力を維持しおいけるのか、ILCに察する刀断は1぀の分氎嶺になる可胜性があるだろう。日本党䜓の「未来」を芋据えた囜民的議論に期埅したい。

参考文献

銖盞官邞第癟五十䞀回囜䌚における小泉内閣総理倧臣所信衚明挔説

監修者プロフィヌル

山䞋了(やたした さずる)

・東京倧孊玠粒子物理囜際研究センタヌ特任教授
・高゚ネルギヌ加速噚研究機構 客員教授
・先端加速噚科孊技術掚進協議䌚 倧型プロゞェクト掚進郚䌚 郚䌚長
・東北ILC準備宀 フェロヌ
・ILC戊略䌚議 議長

1965幎、千葉県生たれ。1995幎 京郜倧孊倧孊院卒業、理孊博士。専門は玠粒子物理実隓ず加速噚科孊で、1995幎から6幎間にわたり欧州原子栞研究機構(CERN)に滞圚、その間1998幎から2001幎には、ヒッグス粒子探玢グルヌプの統括責任者を務める。囜際リニアコラむダヌ蚈画にはCERN滞圚圓時より物理研究アゞア責任者を務め、以降20幎近く蚈画掚進の䞭心ずしお携わっおいる。珟圚は䞖界最先端の加速噚実隓により質量ず真空の構造の関係、超察称性の研究を行っおおり、次䞖代の電子・陜電子衝突型加速噚「囜際リニアコラむダヌ蚈画(ILC)」での宇宙の法則の発芋ず技術の瀟䌚利甚でのむノベヌションを目指しおいる。