「ルブ」は潤滑剤を用いてキー操作の滑らかさや静音性を向上させるカスタマイズを指す。手間のかかる作業ではあるが、キーの摩擦を減らし、タイピング感を向上させる効果が得られる。HHKBのような高品質キーボードでは、その効果は劇的でないものの、微細な改善がタイピングの満足感を大きく引き上げる。
作業のリスクも伴うため慎重さが求められるが、成功すればキーボードへの愛着が深まり、自分だけの特別なキーボードを作り上げることが可能だ。長年使用したHHKBに対しては新品時の操作感を取り戻す効果もあり、カスタマイズの価値は高い。
キーボード愛好家で定着した「ルブ」とは
HHKB Professionalや以前のHHKB Professional 2に施せる手軽なカスタマイズはそれほど多くない。そうした数少ないカスタマイズの一つに「ルブ」がある。
「ルブ」は、英語の「Lubrication (潤滑)」を略した表現で、キーボード愛好家の間で定着した用語の一つだ。この言葉はキーボードの動作を滑らかにするために潤滑剤を使用する行為を指している。特にスイッチやスタビライザーといった可動部分に潤滑剤を適用する作業を意味する。キーボードのメンテナンス文化が広がる中で、このような略語が自然発生的に使用されるようになった。
「ルブ」という略語は、作業そのものを簡潔に表現する便利な言葉としても利用されている。キーボードに関する情報交換やコミュニティ内での議論において、作業の詳細を簡潔に伝える必要がある場面で、正式な「潤滑」という言葉よりも手軽に用いられる。特に、海外のキーボード愛好家コミュニティでは「lube」という表現が広く用いられており、それを日本語に取り入れた結果、「ルブ」という形で言葉が定着したのではないかと考えられる。
この言葉が浸透した背景には、キーボードのカスタマイズやメンテナンスの重要性が増していることがあるようだ。高性能キーボードを所有するユーザーにとってキータッチや耐久性を向上させる「ルブ」という作業は重要度の高いものとなっており、その重要性が広く認識される中で、専門用語として定着したように見える。
HHKBにルブすることで得られるメリット
HHKBにルブを行うことで、キーを押下した際の摩擦が減少し、動作がより滑らかになる効果が得られる。HHKBは比較的高精度なメカニズムを持つキーボードであり、ルブを行うことでキー操作の感触が洗練され、指への負担が軽減され、長時間のタイピングでの快適さを維持できる。
HHKBのルブには静音性を向上させる役割もある。HHKBの構造上、キーを押し下げたり戻したりする際に東プレ軸(Plunger)とハウジングが接触する部分から音が発生するが、ルブによりこれを抑制することができる。特に、オフィスや静かな環境での使用時にタイピング音を最小限に抑えることは重要であり、HHKBの高い静音性能をさらに引き出す効果がある。この点で、ルブはキー操作の音を気にするユーザーにとって大きなメリットとなる。
さらに、ルブを行うことでキーボード全体の耐久性が向上する効果が期待できる。東プレ軸とハウジング間の摩擦が減少することで、キースイッチの磨耗が抑えられ、キーボードの寿命を延ばすことができる。特に、HHKBのような高価で長く使い続けたいキーボードにおいて、定期的なルブ作業は適切なメンテナンス手段として有効だ。これにより、購入時の新鮮なキータッチを長期間維持することが可能となる。
HHKBにルブすると感じるリアルな違いはこれだ
「HHKB Professional HYBRID Type-S」と「HHKB Professional 2」にルブを施して使っているが、「うぉぉぉ」といった違いを感じることはかなり難しい。最初にルブしたあとでしばらくタイピングしたときのリアルな感想は「う~ん、こんなものかな?」といったものだった。
しかし、同時期に使い出した同じモデルを横において交互にタイピングすると、明らかに違いがわかる。ルブ作業の効果を感じるには比較が重要だ。劇的な変化はないが、音や操作感に微細な違いが生まれる。この違いは、特に長年使用したHHKBで顕著であり、購入時の感触に近づける大きな利点がある。
例えば、10年近く使い込んだ「HHKB Professional 2」でルブありとなしを比較することで実感できる違いは次のようなものだ。
- タイピング時に発生する音:ルブあり「スコスコ」、ルブなし「カタカタ」
- タイピング感:ルブあり「滑らか」、ルブなし「若干粗さあり」
数年使い込まれたHHKBにルブを施すことで、購入時のHHKBのタイピング感に近づくと考えるのがもっとも近い表現になるんじゃないかと思う。購入したばかりのHHKBにルブを施した場合にも似たような効果は得られるはずだが、長年使ったあとの方がルブの効果は大きなものになる。
使っているHHKBに対して、劇的ではないものの、ちょっとでも滑らかな感じをもたらしたいのであればルブは効果的だ。また、ちょっとでも静音性を引き上げたい場合にもルブは効果を発揮する。
ルブの前に検討すべきリスク
HHKBのルブは東プレ軸を取り外してハウジングにグリスを塗るという作業になる。この作業を行う場合、次のリスクを理解してから取り組む必要がある。
- 筐体を開けるため保証の対象外であり、自己責任での作業になる
- 東プレ軸をプレートから外す際にごく小さなプラスチック片が取れてしまう(破壊)。このため、ルブ前とルブ後では物理的に若干変わってしまう
- 筐体を開き、基盤を外し、プレートのみにする必要があるため、場合によってはHHKBを壊してしまうリスクがある
- ルブに使うグリスは廉価とは言えない
作業に自信がない場合は止めておこう。こういったカスタマイズがあるということだけでも知っておいてもらえれば幸いだ。