ソフトバンクは2025年12月10日、5Gネットワークに関するラウンドテーブルを開催し、5Gの実力を発揮できるスタンドアローン(SA)運用への移行を見据えた同社のネットワーク進化について説明しました。国内でもようやく本格化しつつある5G SAへの移行ですが、同社ではその移行に当たってどのような取り組みに力を入れているのでしょうか。→「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の過去回はこちらを参照。

5Gのエリア充実を受けSAへの移行を本格化

5Gの本領を発揮できる一方で、携帯電話会社にとってメリットが少なく、なかなか移行が進まないとされてきた5G SA。ただ、国内でも徐々に移行を進める動きが出てきています。

ソフトバンクもその1社で、同社は2025年12月10日に5Gネットワークに関する記者向けのラウンドテーブルを開催。同社の5Gネットワークの現状と、5G SAへの移行を見据えた取り組みについて説明していました。

ソフトバンクは2025年3月時点で10万局超の5G基地局を設置、人口カバー率を96%にまで広げているとのこと。5Gに対応した端末の比率も80%近くにまで拡大していることから、現在は5Gを多く利用するようチューニングをしているそうです。

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    ソフトバンクの5Gネットワークは既に基地局数が10万超、人口カバー率も96%超にまで達している

それゆえ、同社の5Gに接続する比率は37%超に高まっており、5Gのデータ通信量も約1.5倍に拡大しているとのこと。すでに4Gのトラフィックは伸びておらず、なるべく5Gで通信トラフィックを吸収できる環境を整えているそうです。

これだけ5Gネットワークの充実が進んだことから、次のフェーズとして今後はSA化を進めることに力を入れる方針とのこと。そのために同社ではこれまで、SA運用への移行を見据えた環境整備を進めてきたといいます。

具体的には、1つ目に4Gに用いていた低い周波数を5Gに転用し、面でエリアをカバーすることに重きを置いてネットワーク整備を進めたこと。10万局以上ある5Gの基地局のうち、およそ4万局は転用周波数帯を用いたものだそうで、これにより5GのみのSA運用に移行しても、エリアの穴が生じることなく快適な通信を維持できるといいます。

2つ目はデバイスのSA対応で、とりわけ高速通信が求められるホームルータなどのFWA(Fixed Wireless Access:固定無線アクセス)向け機器は、5G対応デバイスを投入した当初からSA対応を進めているとのこと。そして3つ目は、5Gのコアネットワークを早期に構築し、移行に向けた環境を整えたことです。

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    ソフトバンクは5G SAへの移行に向け、4Gから転用した5G基地局の拡大や、ホームルーター端末のSA対応など、事前に準備を進めてきたとのこと

事前の環境整備に加え、5G自体のエリア整備が十分進んだことから、同社では2025年より5G SAへ移行するエリアを急速に拡大。全国を100m四方のメッシュ数で区切った場合、5G SAが利用きるエリアは前年の約13倍にまで拡大し、競合より広いエリアを実現しているそうです。

SAに移行しないと5Gを終了できない

しかし、5G SAで快適な通信を実現するうえでは、さまざまな技術を取り入れて組み合わせる必要があるとのこと。その1つが、複数の周波数帯を束ね合わせて通信速度を高速化する「キャリアアグリゲーション」です。

この技術自体は4Gから導入されているものですが、5G SAでは最大で5つの周波数帯を同時に束ねられるとのこと。これにより通信速度を最大化することはもちろんですが、複数の周波数帯を複数のユーザーが利用することで、特定の周波数帯に負荷が集中することを回避できることも、ネットワーク全体の体感速度向上につながるといいます。

そのキャリアアグリゲーションを活用する上で重要な技術となるのが、基地局の制御装置を特定の場所に集約して集中制御できるようにする「C-RAN」です。C-RANによって、さまざまな場所に設置された基地局の多様な周波数帯を柔軟に束ねて運用できるようになり、キャリアアグリゲーションの効果を最大限発揮できるといいます。

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    5G SAでは「C-RAN」と「キャリアアグリゲーション」の組み合わせを取り入れ、通信速度向上とネットワークの最適化を実現しているという

2つ目はアップロードの通信強化です。5Gでは3.7GHz帯など、「サブ6」に分類される高い周波数帯を用いる必要があり、それらは元々電波が遠くに飛びにくいという課題を抱えています。

加えて、そうした周波数帯はアップロードとダウンロードを時間で分割するTDD(時分割複信)という方式を用いており、しかも利用が多いダウンロードに重点を置いた使い方がなされていることから、アップロード時の通信が一層届きにくいという弱点を抱えているのです。

そこで、ソフトバンクでは先のキャリアアグリゲーションを活用し、4Gから転用したような低い周波数と組み合わせて送信を強化することで、高い周波数帯の通信エリアを最大で約50%広げ、アップロードの通信速度を30倍超に向上させているようです。

低い周波数帯は電波が遠くに飛びやすいうえ、TDDと違ってアップロードとダウンロードを周波数で明確に分けるFDD(周波数分割複信)という方式を用いていることから、より通信をロスしにくいというメリットがあり、それを組み合わせることが通信環境改善につながるようです。

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    ソフトバンクではキャリアアグリゲーションでTDDの高い周波数帯とFDDの低い周波数帯を組み合わせることにより、アップロードの通信を強化しエリア拡大も実現しているとのこと

そのほか、ソフトバンクではMassive MIMOやAI技術の活用など、さまざまな技術を用いて5G SAでの通信強化を図っているようですが、それら技術を導入した5G SAの成果として、同社は千葉県・舞浜エリアでの通信品質対策の実績を挙げています。

舞浜は大きなテーマパークがあり、非常に多くの人が訪れるエリアゆえ、ネットワーク対策が非常に難しいとされていますが、一方でSAの利用者数が他社の10倍に達するなど、5G SAを利用できる端末を持つ人が多い環境でもあるようです。

そこでソフトバンクでは、舞浜エリアに5Gの基地局を増設してSAの関連機能を導入し、よりバランスよく利用できる形を整えた結果、パケ詰まりにつながるエンド・ツー・エンドでの応答完了時間を大幅に抑えられるようになったとのこと。

そうした結果から、局地的に人が集まるエリアでは、5G SAを活用することで体感速度の向上につなげられるとしています。

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    千葉県・舞浜エリアで5G SAを活用した通信品質対策を実施。その結果、「パケ詰まり」につながるE2E応答時間を競合より大幅に抑制できたという

このような実績から、5G SAへの移行が通信改善に一定の効果があることは理解できる一方、冒頭でも触れた通り5G SAに移行しても携帯電話会社が得るメリットは少なく、移行を急がない声があるのも確かです。ではなぜ、ソフトバンクが5G SAへの移行を積極的に進めるようになったのでしょうか。

ソフトバンク 執行役員 モバイル&ネットワーク本部 本部長の大矢晃之氏は、その理由として4Gのネットワークを早期に停止させたい狙いがあると話しています。実は4Gやその一歩手前となる「LTE」の技術・機材は、日本で導入されてからすでに10年以上が経過している、実は古いものでもあります。

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    ソフトバンクの大矢氏は、5G SAへの移行を進めるのは4Gの終了を見据えた取り組みだと答えている

しかし、4Gを止めるには、4Gに依存している現在のノンスタンドアローン(NSA)運用の5Gから、SA運用の5Gへと移行する必要があり、それを計画的に進めていかないと、いつまでも4Gを止めることができず、企業として大きな問題が生じることにもなりかねません。

それだけに5G SAへの移行を早めることで、将来の4Gの終了、そして6Gを見据えた取り組みをスピーディーに進めたいというのが、ソフトバンクの狙いとなるようです。

世界的にも移行が進んでいない5G SAですが、それに先行することでソフトバンクがどのようなメリットを得ることができるのかが、他社の移行に向けた動向を占ううえでも関心を呼ぶ所ではないでしょうか。